1904年3月8日。アメリカの女性たちによる参政権を求めるデモをきっかけに、女性の地位向上を呼びかける動きが世界中に広がりました。政治分野におけるジェンダーギャップの解消を目指すムーブメント「FIFTYS PROJECT」代表の能條桃子さんと、2023年の統一地方選挙で立候補し、当選した国分寺市議会議員の鈴木ちひろさんに、FIFTYS PROJECTの役割や未来に向けたアクションについて伺いました。

能條桃子

FIFTYS PROJECT代表

能條桃子

2019年に若者の投票率が80%を超えるデンマークに留学し、若い世代の政治参加を促進する「NO YOUTH NO JAPAN」を設立。Instagramで選挙や政治、社会の発信活動をはじめ、若者が声を届け、その声が響く社会を目指して、アドボカシー活動、自治体・企業・シンクタンクとの協働などを展開。活動を続ける中で同世代の政治家を増やす必要性を感じて「FIFTYS PROJECT」を立ち上げる。『TIME』の「次世代の100人 2022」選出。「アシタノカレッジ」(TBSラジオ)、「堀潤モーニングFLAG」(TOKYO MX)出演中。

鈴木ちひろ

国分寺市議会議員

鈴木ちひろ

1996年、神奈川県生まれ。フェリス女学院大学学生時代から日本語教師として活動。日本語教師として赴任した奄美大島で環境問題に関心を持つ。都市農業や湧水、地域通貨を持つ国分寺に惹かれて移住。同市のオーガニックカフェ「カフェスロー」スタッフや重度障害訪問介護ヘルパーの仕事を続けながら、新人議員として奮闘中。関心のあるテーマは気候危機とジェンダー。お祭りと漫画が好き。
■note https://note.com/chihiro_bunji

ハラスメントは自分のせいじゃない。社会が変わらなきゃいけないこと

国際女性デー FIFTYS PROJECT ジェンダー 政治 選挙 能條桃子 鈴木ちひろ2-1

──前編のお話ではポジティブな面が多かったということですが、2023年の活動報告では、残念ながらセクハラを含むハラスメントが起きていたことも数字で示されていました。実際に選挙を経験し、議員として現場に立たれている鈴木さんは、ハラスメントやバッシングにどう向き合っていらっしゃいますか。

FIFTYS PROJECTのメンバーが活動中に受けたハラスメント行為
71.4% 性別に基づく侮蔑的な態度や発言
71.4% SNS、メールなどによる中傷、嫌がらせ
52.4% 性的、もしくは暴力的な言葉(ヤジを含む)による嫌がらせ
47.6% 年齢、婚姻状況、出産や育児などプライベートな事柄についての批判や中傷
42.9% 必要以上に身体を近づける、身体に触れるなど過度な接近
42.9% 身体的暴力やハラスメント
33.6% 交際経験、性体験などプライベートな事柄についての質問や発言
28.6% 個人的な連絡先の交換や私的なメッセージのやり取りの要求

※出典:FIFTYS PROJECT/社会調査支援機構チキラボ「統一地方選挙に出馬した女性候補者が体験した制度課題および社会課題についての調査」(2023年8月)

鈴木さん 例えば、選挙前も今も、朝に駅前で活動をまとめたニュースを配布するのは一人でも大丈夫。明るいし、人がいっぱいいるし、通勤前の忙しい時間帯だから、あまりハラスメントに遭うことはありません。でも、夕方の帰宅時間になると皆さん疲れているし、お酒を飲んでいる人もいて周囲も暗いから、一人で駅前に立つのは難しいのも事実です。何人かスタッフがいても女性だけだと危ないので、必ず男性に来てもらうようにしています。

なかには「こんな社会が悪いんだ。だから私は屈しないで一人でも夜の駅前に立つ」っていう人もいるかもしれないけど、私はやっぱり怖いし、何かあってからじゃ遅いので。ただ、今の時点ではそうしているけれど、これは自分が悪いわけではなくて、社会がもっと変わらなきゃいけないことだと考えています。

能條さん 現場を見たり、みんなの話を聞いたりして感じるのは、本当にひとつひとつが心を折ってくるんですよね。この社会に根付いている女性蔑視、例えば会社で男性しか昇進できないといった差別もあれば、女性だから街中で絡まれるとか、選挙で街頭に立つにも警察署の前にしか立てないとか、組織の中でセクハラがあるとか…意欲を持った人たちの心を挫いたり、棘をさしてくることってめちゃくちゃあるんだなと。しかも、有象無象に起こるから対策の取りようがない。

未来の候補者を育てる意味でも、選挙ボランティアに参加するアクションはすごく大切だと思う一方で、ボランティアもハラスメントに遭うケースがあります。議員へのハラスメント問題は話題に出るようになったけれど、その先にいるボランティアスタッフの被害についても考えていく必要があると改めて思いましたね。

これからのチャレンジは、たくさんの小さな輪をつくること

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鈴木さんが地元で開いた議会報告会の様子。

──手応えもネガティブな現実も含めて、選挙のリアルを体感された1期だったかと思いますが、候補者を支える能條さんと、議会を含めた政治の現場に立たれている鈴木さん、お二人はそれぞれFIFTYS PROJECTの役割や意義をどう感じていらっしゃいますか。

能條さん じゃあ私から。2期目も含めて、これからどういうふうに構築していけるかを考えているところですが、FIFTYS PROJECTの役割としてやっていったほうがいいなと思っているのは、各地域でのコミュニティづくりです。

例えば、鈴木さんと一緒に朝と夕方、駅前に立ってくれる人が必要な場合、電車で1時間の距離だとコンスタントに手伝うのは難しい。そう考えると、理想はそれぞれの地域でローカルなネットワークをつくって、そこから1人、2人と政治の場の代表を生み出していくこと。私たちの世代はSNSでつながっているぶん、それぞれが暮らす地域を意識することが少ないので、そこにチャレンジしていけたら。

──近くにサポートしてくれるコミュニティがあれば柔軟に対応しやすいですし、新しい風を育む土壌にもなりますね。何かほかにも構想していらっしゃることはありますか?

能條さん これはまだ誰にも言っていなくてアイデア段階なんですけど…最近、国分寺に同年代の子たちがカフェを開いたんですよ。そこで月に1回、FIFTYS PROJECTゼミのサテライト会場としてジェンダーや政治に関心のある周辺エリアの子たちが集まっています。

どこか1カ所で100人集めるみたいなイベントもたまにやると楽しいけど、よりしなやかな運動体であるためには、3〜4人とか5〜6人でもいいから、小さな輪をたくさんつくっていくことが必要だと感じています。

鈴木さん それはすごく持続可能なあり方だよね。

能條さん 私たちは政治家じゃなくてNPO(社会的な問題に取り組む非営利の組織・団体)だから、政治家や候補者と有権者との間に立てる部分があると思うし、そういう機能をもっと広げていきたいなと思いますね。

投票率が上がれば絶対に社会は変わっていく

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議会の場で発言する鈴木さん。

鈴木さん 私がFIFTYS PROJECTに期待する役割のひとつは、投票率を上げること。政治に不安や不満を感じる人や期待を持てない人たちを見ていると、政治についての話を「無視する」「考えないようにする」結果、「選挙に行かない」っていう人が本当に多くて。

そこに、FIFTYS PROJECTみたいに楽しそうで面白そうで、若い人たちがやっているちょっとおしゃれな運動体があることで、「ちょっと選挙行ってみようかな」と思う人が少しでも増えてくれたらいいなと。選挙に行っていない人たちが投票して、投票率が上がれば、絶対にこの社会はよくなるし、変わっていくはずだと私は思っています。

もうひとつは、引き続き女の子たちをエンパワメントしてほしい。ジェンダー差別が根深い日本で女性として生まれると、大人になるにつれてどんどん自己肯定感とか自信を失って「自分は価値がない人間だ」と考えてしまいがちだし、その実感もあります。でも本当はそんなことない。それは自分の責任じゃなくて、社会が変わらなきゃいけないことだから。

能條さん 本当にそこだよね。

鈴木さん そして、社会を変えるチャレンジは誰がしてもいい。女の子でも性的マイノリティの人でも、みんなが「自分でもやっていいんだ」と思えるような社会にしたいし、FIFTYS PROJECTがそういう人をエンパワメントする存在であり続けてほしい。私も、次世代の女の子やさまざまなマイノリティの人のために、できることは何でもやりたいと思っています。

能條さん うん。私も、みんなに2期目をやりたいと思ってもらえるように頑張ることが自分の役割だと思ってる。

鈴木さん 最後に、これは私自身もやらなきゃと思って考えているんですけど、選挙にまつわる経験やデータの蓄積もFIFTYS PROJECTにぜひ期待したいです。組織や政党に所属していない人が選挙で勝つのは本当に難しい。誰でも候補者になれるけれど、それを支える人が必要なんです。事務をやってくれる人、必要な小物を制作してくれる人、記録やデザインをしてくれる人が必要だし、そういう人たちを取りまとめる選挙参謀というかリーダーみたいな人も実はすごく大切。

候補者に伴走しながら精神的にも寄り添いつつ、大局観を持っていろんなことが見られる人を育てていくには、選挙にまつわる蓄積=集合知が必要だと思います。さまざまな候補者を通じて選挙の集合知が持てたら、一時的なムーブメントとしてではなく、未来のことを考えながら選挙で勝てるようになるんじゃないかなってずっと思っています。

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写真提供/能條桃子・鈴木ちひろ 画像デザイン/坪本瑞希 前原悠花 構成・取材・文/国分美由紀