【江口のりこさん】「嫌なことは、そんなに都合よく忘れられない」〈映画『お母さんが一緒』インタビュー後編〉

『お母さんが一緒』STORY
深い山々に囲まれた温泉旅館。親孝行と称して母親を温泉旅行に連れてきた三姉妹は、「母親みたいな人生を送りたくない」という共通の思いを抱えていた。長女の弥生（江口のりこ）は、美人姉妹と言われる妹たちにコンプレックスを抱き、次女の愛美（内田慈）は優等生の長女と比べられてきたことを恨み、そんな姉二人を三女の清美（古川琴音）は冷めた目で観察している。旅の道中から母への不満が絶えない3人の会話は、いつしかお互いを罵り合う激しいバトルへと発展。そこに三女がサプライズで呼び寄せた恋人・タカヒロ（青山フォール勝ち）が現れ、物語は思わぬ方向へ──。

──江口さんが演じる弥生は、「美人姉妹」と言われる妹たちにコンプレックスを抱いています。江口さんは、コンプレックスとどう向き合っていますか？

江口さん　私もコンプレックスはいっぱいあるけど、それが自分だからしょうがないですよね。「嫌だな」「直したいな」「直そうと思ってたのに直せなかったな」と思うことばかりです。

──コンプレックスや悩みを抱えているときのメンタルケアはどうされていますか？

江口さん　私の場合、どうしてもモヤモヤすることは、まず誰かに話すかな。話を聞いてもらうだけで楽になりますし、あわよくば笑ってもらえたらもっと楽になれるし。

ジタバタすると余計事態が悪くなることもあるので、あとは時間が過ぎるのを待つしかない。時が癒してくれることがほとんどですから。日々やらなければいけないことに追われていると、いつの間にか忘れていっちゃうんですよね。

──執着せずに手放せるタイプ？

江口さん　嫌なことはいつまでも覚えてますし、「一生許さん！」とか思いますよ。簡単に「許そう」なんて思えない（笑）。だからちょっと見えないところに置いておくみたいな感じですかね。

ふとしたときに思い出すこともいっぱいありますし。夜寝ているときに、何年か前にした舞台での失敗を思い出して「うわー！」ってなったり（笑）。嫌なことはね、そんなに都合よく忘れられないと思います。抱えながら、折り合いをつけていくしかないのかもしれない。

──江口さんは５人兄妹の４番目ですが、弥生が抱えるコンプレックスやプレッシャーのようなものに悩んだ時期はありましたか？

江口さん　全然ないですね。むしろ誰とでも仲よくなれる妹のことは尊敬してます。人の懐に入るのがすごくうまいんですよ。ただ、たとえ家族といえどもある程度の距離はあったほうがいいと思いますね。

──妹さんを含め、ご家族とのコミュニケーションで心がけていることはありますか？

江口さん　いくら家族とはいえ、「言われたら嫌だろうな」と思うことは絶対に言わないようにしています。それは自分が言われて嫌な気持ちになった経験も、言ってしまって後悔した経験もあるから。家族といっても別々の人間で、別々の人生を歩んでいるわけだし、自分がすべて責任を取れるわけではないので。言わなくていいことは踏み込まないようにしています。

──江口家には、作中のような兄妹ゲンカはなさそうですね？

江口さん　いや、まだわかりませんよ（笑）。４人も兄妹がいるわけですから、今たまたまないだけで、そらあると思います。ただ、私だけでなくみんなが歳を取ったことで、関係は変化してきたと思います。

例えば、子どもの頃の兄は怖い存在でしかなかったけど、丸くなった今はちょっとだけ普通に話せるようになったり。バラバラに住んでいるので、みんなで一緒に集まることはないけれど、誰かが東京に遊びに来たときに会ったりもします。頻繁に連絡を取り合ったりはしないけど、いい関係性ですね。

──『お母さんが一緒』に出演したことで、家族への思いに変化はありましたか？

江口さん　変化というより、自分の家族のいいところを再確認できた気がします。それから、生きているといろいろ焦ることや悩みも出てくるけれど、そういうのって縁というか、巡り合わせもあるから、ジタバタしてもしょうがないときもあると思うんですよ。家族のことも、本当にそうなんじゃないかなと思いますね。

撮影／垂水佳菜 ヘア＆メイク／草場妙子 スタイリスト／清水奈緒美 取材・文／松山梢 構成／国分美由紀