乃木坂46の一期生として活躍し、2017年の卒業以降は俳優として数々の賞を受賞している伊藤万理華さん。10月11日公開の映画『チャチャ』で「人目を気にせず、好きなように生きる」をモットーにする女性を演じています。伊藤さんにとっての「好きに生きる」とは? アイドル時代から振り返り、ご自身について語っていただきました。
映画『チャチャ』あらすじ
“人目を気にせず、好きなように生きる”をモットーに自由気ままな日々を送るイラストレーターのチャチャ(伊藤万理華)。ある時、屋上で偶然出会った樂(中川大志)に興味を持ち、「お互いに好きなものは正反対だけど、二人いたら丁度いい」とチャチャは次第に惹かれていくが…。野良猫系女子の予測不能な恋の顛末を描く。
好きなことを追求したら自分を取り戻せた
——映画『チャチャ』で演じた主人公チャチャは、まわりの目を気にせず、自分が信じる方向にむかって自由きままに生きている女性です。伊藤さんご自身と重なるところはありますか。
伊藤さん:アイドル時代は自分のことをどこか中途半端な存在に感じていて、居場所を常に模索していました。不安も感じていたと思います。でも、乃木坂46を卒業してから、アートディレクションやスタイリングを自分で手がけた個展を3回開催したり、尊敬するクリエイターの方々と本を作ったりしたことで、道がひらけたというか。個展では自分の内省的な部分ととことん向き合ったこともあり、これらの経験を自信にして生きていこうと思えたんです。
自信を持つことや自分を好きになることをためらうのは、これまで頑張ってさまざまなことにチャレンジしてきた自分自身にも失礼なんだ、とやっと気づけました。好きなものを追いかけることは、自分を取り戻す作業につながっていきますね。誰かと自分を比べて、気にすることもなくなりました。
——主人公のような、自由なふるまいをよく思わない人も映画にでてきます。現実にもそういう人はいますよね。
伊藤さん:“人目を気にせず、好きなように生きる”という気持ちもよくわかるし、それを疎ましく思ってしまう人の気持ちもわかる。私はどちらの視点もバランスよく持っているタイプではあるんです。でも、自分の気持ちと他人の視線、どちらを優先するかって自問自答したときに、自分の気持ちを選ぶようにしていますね。だって、好きな服を着ているほうが楽しいじゃないですか。
撮影期間中は自由気ままな主人公の気持ちに寄り添い、共感しようとしていましたが、今までやってきた自分の演技方法や役との向き合い方では太刀打ちできないことも。監督からは「普段の伊藤さんのままでいい」と言われていたのですが、それがなかなか難しくって。第三者から見た「私らしい」ってどういう自分なのだろうということをずっと考えていました。
「私らしさ」を考え抜くことでこの役につながるヒントが得られるかもしれない、でも客観的な目線を持ってしまったらそれはチャチャらしくなくなってしまうかもしれないな、と頭の中でぐるぐる思考する日々で……。「どうしたらいいんだ」って何度も悩みましたが、この壁を乗り越えることで今後もっと色々な役を演じられたり、作品を作っていけたりするのかもしれないと自分を鼓舞していました!
ゼロから作品を作り出せない私は認めてもらえない?
——映画のキャッチコピーに「へたくそだけど私らしく生きる」とあります。伊藤さんが私らしく生きていると感じるのはどんな瞬間ですか?
伊藤さん:人の目を気にせずに、好奇心のおもむくままに尊敬するクリエイターの方々と関わっているとき、でしょうか。対話を重ねて一緒に何かを作り上げるのは、ナチュラルにただただ楽しいし、自信をもらえます。
今まではゼロから何かを作り上げることができるクリエイターの方々に、どこか劣等感を感じていたんです。憧れが強すぎたのかも。「ゼロから生み出せない私はダメだ。認めてもらえないんだ」って思い込んで、壁を作ってしまうこともありました。
でも、どういうプロセスを経て作品が生まれていくのか、たとえそのすべてを理解することができなくても、憧れの方々とコミュニケーションをとってお互いの理解を深めていくことが、いい結果につながっていくのかもしれないって気づけたんです。
「作り出せない私は劣っている」という思い込みを捨てたら、肩の力がすっと抜けて、軽やかに生きられるようになりました。「正しい」という言葉はあまり使いたくないけれど、自分にしかできない「正しい」道を、もがきながら進めているのかなって。
仕事で出会って仲良くなるのもクリエイターさんや裏方の方が多いんです。「生み出す人」と対話を重ねて理解を深めていくことが私の喜びでもあり、役者をやるうえですごく大切にしていることです。
映画『チャチャ』10月11日(金)より新宿ピカデリー他全国公開
ジャケット¥82500、スカート¥51700、ブーツ¥74800/すべてヨウヘイ オオノ 03-5760-6039 チョーカー¥23100/フミエタナカ(ドール 03-4361-8240)
撮影/SAKAI DE JUN スタイリング/和田ミリ ヘア&メイクアップ/外山友香(mod’shair) 取材・文/高田真莉絵 企画・構成/渋谷香菜子