トップモデルとして活躍する冨永愛さんにも、「自分だけは自分のことを守ろう」と思わなければ立っていられないほど追い詰められた日々があったといいます。後編では、怒りや悲しみといった感情や「自分」との向き合い方について語っていただきました。〈yoi3周年スペシャルインタビュー vol.2 後編〉

冨永 愛

モデル

冨永 愛

17 歳でNYコレクションにてデビューし、一躍話題となる。以後、世界の第一線でトップモデルとして活躍。モデルのほか、テレビやラジオパーソナリティ、イベント、俳優などさまざまな分野にも精力的に挑戦。俳優としては、TBS日曜劇場『グランメゾン東京』(2019年)をはじめ、 2023年から放送された NHK ドラマ10『大奥』では徳川吉宗役として主演を務め話題となった。日本人として唯一無二のキャリアをもつスーパーモデルとして、チャリティ・社会貢献活動や日本の伝統文化を伝える活動など、その活躍の場をクリエイティブに広げている。2024年4月、全国の伝統文化を訪ねる番組『冨永愛の伝統to未来』(BS日テレ)がスタート。公益財団法人ジョイセフアンバサダー、消費者庁エシカルライフスタイルSDGsアンバサダー、ITOCHU SDGs STUDIO エバンジェリスト。著書に『冨永愛 美の法則』、『冨永愛 美をつくる食事』(ともにダイヤモンド社)、『冨永 愛 新・幸福論 生きたいように生きる』(主婦の友社)など。

怒りも悲しみも、自分にとっては大事なエネルギー

冨永愛 インタビュー モデル 3周年2-1

──32歳のときに書かれた『Ai 愛なんて大っ嫌い』には「悔しさ」「復讐」「闘い」といった言葉とともに、まるで叫びのような感情が込められていました。冨永さんが幼い頃から内に燃やしていた怒りは、時に大きなエネルギーになってきたと思いますが、そうした感情との向き合い方に変化はありましたか?

冨永さん さすがに昔みたいにあからさまな怒りとしては表に出さないけれど(笑)、根本的にはあんまり変わっていないんですよ。怒りや悲しみって確かにネガティブな側面はあるけれど、私はエネルギーとして大事にしていかなきゃいけないとも思っていて。自分はどうして悲しいのか、なぜ怒っているのか。それを考えることは自分を知るうえでもすごく大事だから、素直に感じるようにしています。

──怒りや悲しみ=人前では抑えるべきものという刷り込みや、「相手が謝ったなら許すべき」といった社会的な圧もまだまだ存在します。

冨永さん そうですね。自分の怒りや悲しみを抑えてまで人に対して思いやりを持ちなさい、みたいな押し付けは絶対に違うと思います。自分の気持ちを押し殺してしまうと心が壊れちゃうから、それはしなくていいと思うし、「謝られたから許さなきゃいけない」ということもないですよね。許したかったら許せばいいし、許したくないならそれでいい。

相手に敬意を払える、相手を思いやることができるのは日本人のすごくいいところなのに、今はそれがちょっとねじれてしまって、よくない方向に向かっている気がします。

──確かに、そのねじれが「感情は抑えるべき」「謝罪した相手は許すべき」といった強要を生んでいるのかもしれません。素直な感情に立ち戻りにくいからこそ、本来の「自分」が見えづらくて悩んでいる人も多いような気がします。

冨永さん 私の場合は、モデルの仕事も含めた外因的な要素が極端に強くて、嫌でも自分というものを理解せざるを得なかった。だから正解を持っているわけではないけれど、みんなもう少し自分を見つめる時間を持ったほうがいいとは思います。情報が多すぎるというか、つねに手もとのスマホで何かしていて、“何もしない時間”がまったくない状況ですよね。

私は、何も考えずにぼーっとする時間ってめちゃくちゃ大事だと思っているんです。「あのとき、こうだったな」って思い返したり、そこからいろいろなことを考えたり。もちろん何も考えなくてもいい。そういう時間がないと、どんどん自分が見えなくなっていくんじゃないかな。

最後の最後で自分を受けとめるのは、この自分しかいない

冨永愛 インタビュー モデル 3周年2-2

──1日5分でも10分でも、そういう時間つくることで見えるものがありそうですね。そして、今すぐに自分を愛することは難しくても、「こういう自分もいるよね」と自分を受け入れるヒントというか、アドバイスもいただけたらと思うのですが。

冨永さん そこは無条件でいい気がする。子どもを育てていると、最終的には「元気に生きてくれればいい」っていうところまでいくんですよ(笑)。そういう感じで自分を愛したり、信じたりしてあげてもいいんじゃないかな。と言いつつ、私も自分についてネガティブに考えてしまうことはあります。でも、自分だけは自分を許してあげる。自分という存在を丸ごと受け入れる。そういう自分が根底にいてもいいんじゃないかな。私はそうだったから。

(モデルとして)存在していることさえも否定されるような時期があって。その時に思ったんです。「自分だけは自分のことを守ろう」って。それほどまでにきつかったんですよ、コレクションでトップを張るということは。そんな時も、気にかけてくれていた人はきっといたんだろうけど。

──どれほど心削られる日々だったか、できる得る限りの想像をするだけでも胸が痛くなります。

冨永さん あんまりね、昔がどうだったとか言うのは好きじゃないんだけど…まぁ二度と御免ですね(笑)。もう一回経験しなさいって言われても、したくはない。ただ、どんな状況でも最後の最後で自分を受けとめるのは、この自分しかいない。寂しく聞こえるかもしれないけれど、たとえ誰もいなかったとしても、自分だけはそこにいるわけだから。

人生を誰かのせいにはしない。決断の積み重ねが今の私

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──何があっても自分だけはそこにいる。そう思えることで視界が開ける人もいるのではないでしょうか。最後に、yoiのテーマでもある「心・体・性」の揺らぎと向き合いながら、自分の人生を歩もうとしている読者にぜひメッセージをいただけたらうれしいです。

冨永さん その揺らぎは、私も経験があるのでとてもよくわかります。ひとつ言えることがあるとしたら、人生は自分自身で決めてほしい。もちろん、人の意見を聞くことも大事だけれど、誰かに決めてもらうのではなく、自分自身が「これでいいんだ」と思えるところまで考えて決めたほうが、たとえ後悔したとしてもその度合いは全然違ってくるから。

上手くいってもいかなくても、ひとつひとつの決断が自分をつくっていくし、その積み重ねが今の私になっている。「あの時、自分がもっとちゃんと決断していれば…」と思うことはもちろんあるし、後悔したこともあるけれど、その経験があるからこそ「今度はこうしていこう」と考えられるので。

──後悔したから失敗や終わりではなく、次にそれをつなげていくことが自分の決断を生かすことにもなりますね。

冨永さん 本当にそう。エッセイでも「自分の人生を誰かのせいにはしない」と書いたけれど、人のせいにするのは後々いちばんつらいと思う。それは、今の自分だからわかることでもあるんですよね。

読者の人たちは、きっとこれからたくさん決断をしていく場面があると思います。ちょっと怖いかもしれないけれど、「みんながそうしてるから」じゃなく、勇気を持って自分自身で考えて結論を出してほしい。自分の人生のために。

冨永愛 インタビュー モデル 3周年2-4

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『冨永 愛 新・幸福論 生きたいように生きる』¥1760/主婦の友社
「生き方に正しいも間違いもない。生きたいように生きればいい」。冨永愛さんが自分で自分を幸せにするために心がけてきたことを綴った最新エッセイ。コンプレックスや苦しかった過去との向き合い方など、冨永さん自身の経験を踏まえたメッセージがそっと背中を押してくれる一冊。

トップス¥85800、スカート¥176000/KAKAN(080-4421-7800) サンダル¥231000/PAUL ANDREW(AMAN 03-6805-0527) リング(右手指先から)¥88000、¥242000、(左手中指)¥275000、(左手薬指)¥275000/Scrysta ベアトップとショーツ/スタイリスト私物

撮影/天日恵美子 ヘア&メイク/美舟(SIGNO) スタイリスト/秋島亜未 画像デザイン/前原悠花 構成・取材・文/国分美由紀