1990年代前半からテレビでフェミニズムを語り、「日本一有名なフェミニスト」としても知られている田嶋陽子さん。インタビュー後編では、今の日本が置かれている状況について田嶋さんが感じていることや、「yoi」の愛読者が多い30代に向けてのエールをいただきました。
1941年岡山県生まれ。静岡県で育つ。元法政大学教授。1991年に『ビートたけしのTVタックル』(テレビ朝日)に出演して注目を集め、その後はフェミニズム研究者として著書10数冊。またオピニオンリーダーとしてマスコミで活躍。還暦を過ぎてからは、シャンソン歌手、書アート作家としても活動。2023年、シニアハウスに入居したことが話題に。最新刊は『わたしリセット』(文春新書)。
世間が変わらないなら、まず自分が動いてみる
——「yoi」の愛読者が多い30代は、日本経済が豊かだったときをあまり知りません。そのため「何を言っても無駄かも……」と、諦めや閉塞感を感じている人も多くいるように思います。
田嶋さん:そうですね。私たちが若い頃に比べたら、明らかに国に体力がないよね。諦めてしまう人がいるのもわかる気がします。ただ、日本経済が豊かであろうとなかろうと、人間一人ひとりは、自分の実力や技術をコツコツと高めることはできるのでは。「その日のために」自分を豊かに育てておく努力をするのはどうですか?
日本の景気を復活させるためには、絶対に女性の力が必要なの。女性には男性より低い賃金しか払わないとか、子育てのサポートがないから専業主婦にならざるを得ないとか、そういったことはやっぱり私たちが声をあげて変えていかないといけない。そのうえで、女性が男性と同じように思いっきり働けたら、日本はそのぶん今の2倍豊かになれますよ。
30代なら、まだあと人生3回くらい生き直せると思います。まだまだ若いじゃない。それに今の仕事や会社にこだわってしがみつかなくてもいいと思います。どんどん自分に合った環境に移っていくのも、ひとつの手。ほかにやりたいことがあるなら、その準備を始めてみるのも素晴らしいことです。第2のキャリアを求めて動き出すことは、女性の自立につながっていきます。「世間が変わらないなら、まず自分が変わってみる」、この考えを持つことはとても大切です。
——自分に合った仕事や環境がわからない人はどうすればいいでしょうか。
田嶋さん:自分に合った仕事がわからない人は、まずは目の前の仕事に手を染めて努力してみるしかないのでは。努力をしてもつまらないならほかの仕事に移るとか。
運のいい人は初めからわかるのでしょうが、普通は試行錯誤が続きます。私などは奨学金を返さないで済むには教職につくしかなかった時代です。でも、その中で少しずつ自分の得意なこと、できることを見つけてここまで来ています。
「自分」なんてそんな簡単にわからないものですよ。自分「らしく」生きなさいってよく言うけど、「らしく」って、おかしくないですか? 「自分を生きなさい」とは言わないですよね。それはみんな、自分をわかっていないからだと思います。
「自分」を知るには、女性の場合、女性差別によっていかに自分が歪められたか、考えてみるのも手ですね。親との関係について深く考えたり、社会や政治について自分なりの意見を持ってみたり、そういうことの掛け算みたいなことから、徐々にわかってくるんじゃないですか。
ひとつずつわかっていくなかで、なぜこんなにも苦しいのかと自問自答するプロセスが必要だと思います。自分を知るには、必ず苦しみがついて回ってくるので、それを乗り越えることがまず第一歩かもしれませんね。
日本の国力を上げるのは、女性の力
——2024年11月のアメリカ大統領選では、女性として、またアジア系のルーツを持つ人物として初の大統領になる可能性があったカマラ・ハリス氏がドナルド・トランプ氏に敗れましたね。
田嶋さん:アメリカは急激なインフレで、生活苦を訴えている人たちがたくさんいます。「食うか食われるか」といった状況の中で、トランプのほうがこの苦しい状況を変えてくれると思った人が多かったのかもしれません。
ハリスは中絶の権利擁護を掲げて戦っていたけれども、「女性の人権の前に、まず、みんな食えることのほうが大事ではないだろうか」と感じていた人がアメリカにはたくさんいたのだろうと、思わされた結果でした。トランプのマッチョ言動や態度を、力強く感じた人が多くいたのかもしれません。
日本もどんどん経済が悪化してくると、みんな目先のことにばかりとらわれてしまって、女性差別の是正なんて二の次、三の次になってしまうかもしれない。でもそれじゃ、ダメなんですよ。女性が家に閉じ込められてしまっていたら、絶対に経済状況は改善しない。きちんと女性にも男性と同額の賃金を払って、その賃金で納税してもらう。
そうしたサイクルを作ることではじめて経済はよくなっていくと思います。女性をこんなにも無駄遣いしている国は、先進国では日本だけ。日本の国力を上げるのは、国民の半分を占める女性の力のフル活用だと、私はずっと言い続けています。
それに女性が活躍するためには、やっぱり女性の議員を増やさないといけません。こないだの選挙でやっと国会議員の女性の割合が15.7%になったけれど、それでも国際的に見たら非常に低い水準。女性差別を是正する法案を通すためにも、まずは女性議員を増やさないと。男性に政治を任せ続けたら、「選択的夫婦別姓」ですら、いつ実現できるのかわかったもんじゃありません。
声をあげ、連帯する。そして、女性議員を増やす。当たり前のことですが、日本はまだまだ実現できていないことが多すぎる。あなたたち世代で変えていってほしいです。頑張って!
「わたしリセット」田嶋陽子 ¥1100(文春新書)
撮影/上澤友香 取材・文/高田真莉絵