10代で俳優としてデビューして以来、さまざまな映画やドラマ、舞台に出演し続けている小林聡美さん。俳優としての活動はもちろん、エッセイを多数発表されたり、2024年には「チャッピー小林」名義で初のコンサートに挑戦するなど、活躍の場を広げ続けています。60歳を目前にした小林さんに、これまでのことを振り返っていただきつつ、「歳を重ねること」についてお話を伺いました。

 小林聡美

俳優

小林聡美

1965年東京都生まれ。1982年『転校生』(大林宣彦監督)でスクリーン デビュー。以降、ドラマ、映画、舞台などで活動。執筆も手がけ、著書多数。2024年には 歌手として初コンサートに挑戦。放送中のドラマに『法廷のドラゴン』(TV東京)、2月から『ゴールドサンセット』(WOWOW)が放送予定。

「この仕事って自分に向いているんだろうか」と悩み続けた20代

小林聡美 インタビュー 20代 仕事 ポートレート

──俳優として長らく活動されている小林さんですが、20代や30代の頃はどんなことを考えながらお仕事に臨んでいましたか?

小林さん 20代の頃は仕事も含め、刺激的ではありましたけど、この仕事って本当に自分に向いているんだろうか、もっと他にも選択肢はあるんじゃないか、と心のどこかでいつも感じながら過ごしていましたね。この仕事はいつでもやめられるし、いつだって新しいことを始められる、みたいな気持ちでいた気がします。そう思いつつも結局、実行には移せませんでしたけどね。

30代になって一度結婚して、また新しい世界が広がって気持ちが楽になるときもありましたけど、20代は本当に……漠然とした「なりたい自分」に自分が全然近づけていないことを、もどかしく感じていました。

──当時といえば、ドラマ『やっぱり猫が好き』への出演で、一躍人気俳優になられた頃だったと思います。にも関わらず、小林さんが「この仕事は向いているんだろうか」「いつでもやめられる」と感じていたというのは少し意外です。

小林さん 当時はいわゆるバブルの時代でしたから、テレビドラマにしてもおもしろいこと、新しいことをどんどんやろうとみんなが考えていて、実験的な作品にいくつも参加させてもらえたのはすごく楽しかったんです。出会う人もおもしろい人たちばかりでしたし。ただやっぱり、私自身は業界の空気に馴染めない感じもあって、居心地はあまりよくなかったかも。

──では、いま振り返って、仕事でもプライベートでも「20代の頃にこれを経験していてよかった」と思うことはありますか?

小林さん やっぱり旅行ですね。プライベートでもそうですけど、仕事でも海外に行く機会が多かったです。日本の常識が海外では通用しないことや、自分が想像もつかないような暮らしをしている人がいることに気づかせてくれる、貴重な時間でした。

20代の始めに、ドキュメンタリー番組の仕事で中国・雲南省の少数民族の村を訪ねたことがあるんですが、そのときのことは特に印象に残っています。電気やお風呂もない中で何日間も過ごすというかなりハードな仕事ではあったんですけど、そこでの暮らしで、「スイッチを入れたら電気がつくのって実はすごいことだ」と気づかされたり。

──当時の日本がバブル真っ盛りだったことを考えると、さらに大きなギャップを感じそうですね。

小林さん ものすごいカルチャーショックでしたし、「もしかして日本は浮かれすぎてるんじゃないか?」とそこで気づいて(笑)。いま振り返ると、当時のことって本当に夢みたいです。

40代は「自分が学びたいもの」が見えてくる年代

小林聡美 インタビュー ポートレート 40代

──小林さんはその後、日本文化を学ぶため、45歳のときに大学に進学されています。大学で学びたい、と思ったきっかけはなんだったのでしょうか?

小林さん 40代の始めに落語を聞くようになって、伝承芸能、話芸としてすごくおもしろいなと思ったのがきっかけでした。そういった日本文化についてもっと勉強してみたいなと。

45歳のときに入学したのは、ちょうどいい仕事のペースだったのと、50歳くらいまでには卒業したいなと思っていたので、逆算すると「いましかない」と。40代のときは、50歳くらいまでだったら頭も体も元気だろう、と想像してたんですよね。でもいざ50代後半になってみても意外と元気だし、なんならいまからでもまた大学、通いたいなと思いますよ(笑)。

──近年も新たにピアノを習い始めたとお聞きしていますが、小林さんは、学びたいことや興味のあることに対する知的好奇心が旺盛ですよね。中には、歳を重ねるにつれ、新しいことに挑戦するのが億劫になってしまう人もいると思うのですが……。

小林さん 誰しも働き盛りのときって忙しいですから、新しいことを始めるのはどうしても時間をつくるのが難しいですよね。でも、もう少し歳を重ねて仕事や生活が一段落してくると、ちょっと物足りなくなってくるんじゃないかと思うんです。最近は「学び直し」なんて言葉も聞くようになりましたけど、40代くらいが一番、自分が学びたいものが見えてくる年代じゃないかなと。

もちろん、本当に忙しいときに無理に何かに挑戦しようとする必要はないと思います。でも、一度始めてみると、意外と仕事や生活のやりくりはどうにかなることも多いなって。まずは思いきって始めることが大事なんだろうなと思います。

趣味や学びを継続するコツは、目標を持たないことと「休んでもいい」と割りきること

小林聡美 インタビュー ポートレート 趣味

──ピアノ以外にも俳句、旅行などさまざまな趣味を楽しまれている小林さんですが、趣味や学びを継続する上でのコツはなんだと思いますか?

小林さん 目標を持たないことですかね。高いハードルを設けすぎちゃうとうまくできない自分に腹も立ちますけど、「別にプロのピアニストを目指しているわけじゃないんだから」と思えば、5分だけでもいいから練習しようという気分になってくるというか。

どうしてもできないときは休んでもいいんです。俳句も毎月の句会を楽しみに続けているんですけど、やっぱり忙しいと句会に行けないときもあります。欠席するのは残念だけど、また時間ができたら行けばいいや、と前向きに考えるようにしています。ピアノも俳句も死ぬまで続けたい趣味なので、それならまだあと何十年もあるし、ゆっくりでいいかなと。

──素敵な考え方ですね。ただ、あまりに忙しいときが続くと、好きな趣味を続けたい気持ちが弱まってしまったり、そもそも自分が何を好きなのかわからなくなってしまったりすることもありませんか?

小林さん そうですよね、そういうときもありますよね。そういう時期はいつか終わりが来ますから。忙しすぎるときは無理して何かをやらなくてもいいのではないでしょうか。私の場合は、体が温まるごはんを食べたりするとちょっと元気が出る気がします。

ドラマの撮影中などは特に、外食する時間すらなかなか取れなかったりします。たまにお休みがあってもずっと体が緊張しているからかごはんをつくる気になれないし。

だからこそ、少し仕事が落ち着いている時期にはできるだけ温かい食事をつくろうと意識してますね。お味噌汁とか飲むだけで「うわ~」って感動しちゃったり。当たり前のようでいて贅沢かもしれないけど、やっぱり丁寧にごはんをつくって食べることって大切だなと思います。何かを楽しむための好奇心とかエネルギーも、案外そういうところから湧いてくるんじゃないかなって。

年齢に応じた好奇心や体の使い方を身につけられている気がする

小林聡美 インタビュー ポートレート 60代

──若い方の中には歳を重ねることに対して、漠然とネガティブな感情を抱いている人も多いです。そんな方に対してメッセージを送るとしたら、小林さんはどんな言葉をかけたいですか?

小林さん たしかに、歳を重ねていくと、昔とまったく同じように体を動かしたり、同じものに興味を持ち続けたりすることは難しくなっていくかもしれません。でも、歳を重ねたなりの好奇心や体の使い方が身についていく気がするんです。

たとえば落ちている物を拾うときにも、20代のときと同じように素早く動いて拾おうとしたら、体のいろんなところをぶつけたりしちゃうんですよ(笑)。だからゆっくり動くことになるけれど、そんな年相応の感覚を少しずつ受け入れている。友達と健康の話なんかするのもすごく楽しいですよ。年齢と共に好奇心の形は変わっても、なくなることはないと思います。

──小林さんは2025年には60歳になられます。いま、どんな60代を迎えたいと思っていますか?

小林さん どうなるんでしょうね、60代。還暦って、干支が5回巡って新しく生まれ変わる年とも言いますもんね。ここ数年、仕事に関しては、あんまり熟考しすぎずに「おもしろそうだな」とちょっとでも感じたらやってみることにしているんです。これからも、より軽やかに仕事に関わったり、いろんな人と繋がったりしていきたいなと思いますね。

60代って、定年退職や引退といった、それまでの居場所の終わりを見据えるような年代ですよね。そう考えると、なんだかんだ言いながらこの仕事をここまで続けさせていただいていることに感謝すると同時に、すごいぞ自分、って思ったりしますね(笑)。

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撮影/石田真澄 ヘア&メイク/北 一騎 スタイリスト/藤谷のりこ 構成・取材・文/生湯葉シホ 企画/福井小夜子(yoi)