映画『早乙女カナコの場合は』で主演を務めた橋本愛さん。自意識に悩み、自分らしさに揺れた意外な過去と、たどり着いたポジティブなギャルマインドとは? 30代に対する漠然とした恐怖への対抗策についても伺いました。

橋本愛

俳優

橋本愛

1996年1月12日生まれ、熊本県出身。2010年の映画「告白」に出演し注目を集め、「桐島、部活やめるってよ」、連続テレビ小説「あまちゃん」などでも話題に。近年の主な出演作は映画『熱のあとに』、『アナウンサーたちの戦争』、『ハピネス』、『私にふさわしいホテル』など。 

『早乙女カナコの場合は』
早乙女カナコ(橋本愛)は、演劇サークルで留年を繰り返しながら脚本家を目指す長津田啓士(中川大志)と付き合い始めて3年。今年こそ大学を卒業するという約束を覆した長津田と喧嘩になり、二人の関係は険悪になってしまう。そんな中、長津田はサークルに入部した本田麻衣子(山田杏奈)から積極的にアプローチされ、次第に距離を縮めていく。一方のカナコも、内定先の出版社で出会った優しくて頼り甲斐のある先輩・吉沢洋一(中村蒼)から好意を寄せられる……。

周りからの目を気にしないのも違う

橋本愛 インタビュー 早乙女カナコの場合は 主演 

──映画『早乙女カナコの場合は』で橋本さんが演じたカナコは、他者からどう見られるかを気にしているキャラクターです。橋本さんも似たような経験はありますか?

橋本さん:「どう見られたいか」という自意識によって行動が限定された時期はすごく長かったです。でも今は、まわりからの目を気にしないことも違うなと思っていて。 それこそ私は真剣にしているだけなのに怒っているように見られることが多いので、なるべく笑うようにしたり、和やかな空気を作ろうと意識しています。それはまわりから見られる自分の姿を知ったからできるようになったこと。ある意味、他者の目を利用していると言えるかもしれません。 

──「(恋人を)乗り換えるなんて、私ごときがしていいのかな」と、カナコが自分に許可を出さないシーンも印象的でした。

橋本さん:同じような瞬間は私にもいっぱいあります。「私なんてTikTokやYouTubeやっちゃダメだよな」とか思いますしね(笑)。でも、そんな自分を面白がれてもいます。

自分らしさはコロコロ変わっていい

橋本愛 インタビュー 早乙女カナコの場合は 上半身

──では、橋本さんは「自分らしさ」をどう捉えていますか?

橋本さん:私の中にはキャラクターが多く存在しているんです。今は落ち着いていますが、不良な自分が結構な濃度でいた時期がありますし、図書館の隅っこにいそうな文学少女の自分も、親孝行の優しい自分も、池袋で夜を明かす自分もいる(笑)。

本当にいろんなキャラクターがいるので扱うのが難しいのですが、だからこそ、自分らしさはひとつじゃないということだけは普遍なものとしてあります。 だって、映画の舞台挨拶のときにしおらしくなっちゃうのは当たり前じゃないですか。TPOもあるし、関係性によって態度が変わるのは当たり前。

自分らしさについて煮詰めて煮詰めて考えていった結果、変わるのが自分らしさだと気づきました。一貫性がなくてもいい、コロコロ変わってもいいと思えてからは、生きやすくなりました。  

──ちなみに今は、どんなキャラクターが橋本さんの中にいますか?

橋本さん:すごく意識が高い勤勉な人と、ギャルが大半を占めています。 

──ギャルとは?(笑)

橋本さん:ギャルはですね、あまり悲観しないキャラクターです。勤勉な自分は、悲観しまくって痛みを引き受けまくって人間や社会を知っていくキャラクターなのですが、ギャルは心の痛みを跳ね除けるタイプ。たくましさがあります。 あとギャルは自分自身が大好きです。もともと私は自分を愛せないタイプでしたが、愛する努力をしてきた結果生まれたのがギャルマインド。まわりの友達にもギャルが多いんですよ。 

冬は雪山でスノボ、夏は海で素潜り

橋本愛 インタビュー 早乙女カナコの場合は ギャル

——では、忙しい日々の中でご自身のメンタルヘルスを保つためにしていることは?

橋本さん:とにかく自然が大好きなので、しっかり日焼け止めを塗りながら太陽を浴びて幸せホルモンを出すように心がけています。それが私にとって極上の癒しなんです。 冬は雪山にスノーボードをしに行ったり、夏は海で素潜りをしたり。最近は山の中にある焚き火カフェがお気に入りです。焚き火をしながら足湯に浸かって夕陽を眺めるのが最高なんです。

——意外です! アウトドアのイメージがあまりありませんでした。

橋本さん:外の遊びを覚えたのはここ数年のこと。昔はどちらかというとインドア派でしたし、今もコンディションによっては一日中家でゲームをすることもあります。体の声を聞きながら、バランスよく過ごすようにしています。 ただ、太陽を浴びることに関しては執着に近いと思います。カフェでも日没までの太陽の軌道を考えて席を決めるので、店員さんから見たら結構不審だと思います(笑)。太陽を浴びるためにオープンカーも買いました。  

30代への不安と恐怖は整理できた

──読者の中には30代に対して漠然とした不安を持つ人もいます。来年30歳になる橋本さんはいかがですか?

橋本さん:どうしたって恐怖はあると思うんです。その恐怖をひとつひとつ紐解いて対処していくことは、30歳の前にしておきたいと思っています。 まず死に向かっていく恐怖がありますよね。もうこれは考えてもどうしようもないこと。

次に老いへの恐怖。きっとそれはシミやシワが増えていくといった体が変化することへの不安だと思うんです。私の場合、おばあちゃんのシミやシワを「超かっこいいじゃん!」と思っているし、ダメなものとして捉えていません。自分ではなく社会の基準なのだと思えてからは、老いへの恐怖は整理できました。 

あとは30歳を節目とする社会的な基準がありますよね。「30歳なら◯◯ができていないといけない」といった恐怖への対抗としては、「まだ30年しか生きていないじゃん」と発想を転換することだと思います。 本気で「まだ29年しか生きていない若輩者」だと思っているし、足りないスキルも磨いていきたいスキルもたくさんある。

年齢を逆算してカウントダウンするのではなく、カウントアップして積み重ねていこうと意識しています。 とはいっても、生きていればどうしても不安は生まれてしまうと思うので、その都度ちゃんと向き合って、自分自身に問いかけていきたいと思っています。みんなで頑張っていきましょう!

橋本愛 インタビュー 早乙女カナコの場合は 趣味

『早乙女カナコの場合は』
3月14日(金)より全国公開 出演:橋本愛、中川大志、山田杏奈、臼田あさ美、中村蒼ほか 監督:矢崎仁司 原作:柚木麻子『早稲女、女、男』(祥伝社文庫刊) 脚本:朝西真砂 知 愛 配給:日活/KDDI (C)2015 柚木麻子/祥伝社 (C)2025「早乙女カナコの場合は」製作委員会 

撮影/新田君彦(えるマネージメント) ヘア&メイク/赤松絵利(ESPER) スタイリスト/清水奈緒美 取材・文/松山梢 企画・構成/福井小夜子(yoi)