「ホゥ」という独特の語尾が特徴的な任侠キャラとして活動する芸人のアイパー滝沢さん。インタビュー後編では、実際にアイパーさんが手編みしたオリジナルの編み物作品を見せていただきつつ、その魅力を教えていただきました。

編み物初心者がツールを揃えるのは、まずは100円ショップから

──アイパーさんに、これから編み物を始めたい読者へのおすすめアイテムを教えてほしいです。編み物初心者の人は、まずはどこで基本のアイテムを揃えるのがいいのでしょうか?
アイパーさん:最初は100円ショップがいいと思います。いま、編み物ブームということもあって、毛糸もたくさん売ってますから。
最初は針1本でできる「かぎ針編み」がおすすめなので、それ用のかぎ針をひとつと、好きな色の毛糸を買うだけでも十分かな。糸の処理をするためのとじ針も、できればあったほうがいいですね。
毛糸は何玉買ってもいいんですけど、いまってグラデーションみたいに一玉の中にいろんな色が入ってる毛糸もあるので、ピンときたやつをまずは手にとってみてほしいです。初心者の人は太めの針と太めの糸を選ぶのがポイントかなと。
──最初から専門店に行かずとも、100円ショップで道具が揃うのは嬉しいです。
アイパーさん:俺、編み物歴12年になるんですけど、ここまで続けられた理由は100円ショップで道具が全部揃うからなんです。編み物って一番安く気軽に始められる趣味のひとつなんじゃないかなって思いますよ。
失敗したら糸をほどいてまた使えるのもいいですし。 もちろん、慣れてきたら専門店に行ってみるといろんな種類の毛糸があっておもしろいし、いい毛糸を使うと編み心地が全然違うことにも気づくんじゃないかなと思います。
東京だと、新宿に本店がある手芸専門店の「オカダヤ」さんがおすすめです。編み物関連のグッズはそこに行けば、たいていなんでも揃うので。
編み物好きな人の中には、新作の毛糸を見つけると編むものが決まってないのについつい買っちゃうって人も多いんですよ。だから、「この毛糸を使いたい」ってところから始めるのもいいですね。
──初心者が編むものとしては、最初は何がおすすめですか?
アイパーさん:やっぱり、俺も最初にチャレンジしたコースターですかね。この前、初めて編み針にさわるっていう人に編み方を教えたときは、90分くらいで最後まで編めてました。
まあ、俺の編み方がうまかった可能性もあるんですけど(笑)、初心者の人も短時間で編めるので、いいんじゃないかなって。編み方は100円ショップで初心者向けの本を買って勉強してもいいし、俺のYouTubeを見ながらっていうのもおすすめですよ。ホーゥ。

チャカカバー、アイコスケース、手錠のミサンガ──アイパーさんのユニークすぎる作品紹介
──ここからは実際に、アイパーさんが編まれた作品を紹介していただきたいと思います。どの作品も本当に唯一無二ですが、アイディアはどこから生まれるんですか?
アイパーさん:代表作の「チャカカバー」(写真上右)とかは単純に、俺のキャラである極道と真逆な編み物を組み合わせたら面白いんじゃないかなって発想で作ってみただけですね。毛糸で作ると怖いものもかわいくなっちゃうので、それがいいなと思って。

↑「アイコスケースのシリーズ」(写真上左&中)、「チャカカバー」(上右)、「手錠のミサンガ」(下左)。「ドスケース」(下右)。「俺はタバコは吸わないんですけど、アイコスが流行ってるって聞いたときに作りました。魚肉ソーセージを食べてるふりとか、カフェラテを飲んでるふりをしながらこっそり吸えるっていうのがポイントです」。「手錠のやつは、切れたときに初めて自由の身になれるミサンガです。これかわいいですよね」(アイパーさん)
──ここまでユニークで凝ったものを作れるようになるには、かなり年月がかかったのでは?
アイパーさん:あ、でも、「チャカカバー」は本当に編み物を始めたての頃に作ったものなんですよ。そんなに難しい編み方をしてるわけじゃないので。大変だったのはこのあたりですかね、故hideさんのギターを再現した「hideのギター」(下写真)。
ドット絵が作れるアプリみたいなもので完成図のイラストを描いて、それを見ながら1目ずつ編んでいったんです。基本的に俺はまだ誰も編んでないものを編みたいと思ってて。

↑故hideさんのハートイエローギターを模した作品。「編む際はハートをどこに入れたらかわいいか、1段編んではバランスを見て、また1段編んではバランスを見て……と試行錯誤しながら作りました。1ヵ月くらいかかったかな」(アイパーさん)
──編み物をする場所は決まっていますか?
アイパーさん:基本的には家ですけど、カフェとか公園で編むこともありますね。
──お話を伺っていると、アイパーさん、極道チックな見た目に反してとても真面目で気さくな方ですよね。
アイパーさん:いやいや。俺、こういうのがよくないんですよね。気を抜くとボケ忘れちゃう。真面目なんかじゃないですよ。ホーゥ。

↑「これは巾着と目出し帽の2wayで使えるんです。バッグとして出かけて、出先でもしお金に困ったらこれを被って最寄りの金融機関に行ってもらえると、金目のものが手に入ります」(アイパーさん)

↑「これは『釘バット風ペットボトルカバー』です。一見怖いものも編み物にするとかわいくなっちゃうっていうのが不思議だなあと」(アイパーさん)
──普段は、1日のうちどのくらいの時間を編み物に割いているんですか?
アイパーさん:長いときは1日に8時間くらい編んだりしてましたね。でも、そういう生活を続けてると腰とか腕もめちゃめちゃ痛くなってくるので、最近は早起きして朝に編むスタイルに変えたんです。近頃は6時半に起きて読書したりギターの練習をしたりしつつ、編み物することが多いですね。
──なんて理想的な生活……!
アイパーさん:もともとは夜中の2時とか3時に寝るのが普通でしたけど、最近は夜の11時半には寝るようにしてます。刑務所にいるみたいに健全な生活してますよ、本当に。

↑バラをモチーフにしたバブーシュカ(上)、つけ襟(中)、バッグ(下)。「これは王道の作品ですね。俺の見た目でメルヘンでガーリーなものを作ったら面白いかなと思って、バラのモチーフでそろえてみました」(アイパーさん)
編み物は、世界一ファンシーでかわいい趣味

会話をしながら2分ほどで編み上げられていたのは、アイパーさんのトレードマークであるリーゼント型コースーター
──アイパーさんの作品を見ていたら、自分でも編み物を始めてみたくなりました。
アイパーさん:ぜひやってみてください。編み物って、最初の頃はうまくできなくて自分では納得が行かないかもしれないんですけど、できたものを友達に見せたら「え、かわいいじゃん!」って絶対言ってもらえますから。
もし、作ったものを見て悪く言うやつがいたら、そんなやつとは喋らなくていいですから! 編み物なんて世界一ファンシーでかわいい趣味に対してそんなこと言うやつ、絶対にろくなやつじゃないですからね(笑)。
──本当にそうですね。いまや世代も性別も問わず、編み物を趣味にされている方も多いですし。
アイパーさん:そうですよ。そういえば、実はうちのおふくろも、昔から編み物をやってたらしいんです。実家に帰ったときに編んでるところを見たので「最近始めたの?」って聞いたら、「いや、昔からやってるよ」と言われて。
俺、そういうのも昔は全然目に入ってなかったんだなって反省しましたね。最近はおふくろと一緒に編んだり、たまに編み方を教えたりすることもあるんですよ。
──親子2代でできる趣味、すごく素敵だと思います。アイパーさん、今後はどんなものを作ってみたいですか?
アイパーさん:オリジナルのセーターを作って、本名のアツシタキザワっていうブランド名で出せたらいいな、なんて思ってます。俺はおしゃれなものは作れないので、そのへんはちゃんと勉強しなきゃとは思いつつも、いまのところの楽しみです。時間もかかるし、一点ものだから高くなっちゃいそうなんですけどね。
だって、毛糸でできてるhideさんのギターなんて、hideさん本人も持ってなかったと思いますからね(笑)。
撮影/小嶋洋平 構成・取材・文/生湯葉シホ 企画/福井小夜子(yoi)