圧倒的な表現力で、多くの人の心を揺さぶってきたアイナ・ジ・エンドさん。BiSHでの活動を経て、ソロアーティストとしても輝き続けるアイナさんが、初のフォトエッセイ『達者じゃなくても』を発売。本書にも綴られている、上京当時から変わらず大切にしている想いを語ってくれました。

アイナ・ジ・エンド フォトエッセイ

アイナ・ジ・エンド
アイナ・ジ・エンド

1994年生まれ、大阪府出身。2015年、楽器を持たないパンクバンド「BiSH」のメンバーとして始動。23年6月の解散後は、ソロで活動中。アーティスト活動と並行して、22年日本初上演となるブロードウェイミュージカル「ジャニス」では主演のジャニス・ジョプリン役を演じ、23年10月には岩井俊二監督映画『キリエのうた』で映画初主演を務め、数々の賞を受賞。25年の10月からは、全国9都市を巡るワンマンツアー「革命道中」を開催予定。

ネットという逃げ場があったからやってこれた

アイナ・ジ・エンド インタビュー

——初のフォトエッセイであるご著書『達者じゃなくても』では、幼い頃の思い出も多く綴られています。小さな頃はじっとしていられなかったとのことですが、その頃、世の中に自分がフィットしていないような生きづらさは感じていらっしゃいましたか?

アイナ・ジ・エンドさん(以下アイナさん):その頃は「生きづらい」って言葉を聞いたことがなかったし、今より一般的ではなかったので、つらいのが当たり前だと信じていました。「普通、つらいもんでしょ?」みたいな。

自分の中にあるつらさを当たり前のように抱えていたので、誰かに共有することもなかったんです。でも、高校生になって学校にいけなくなったときに、「あ、本格的に世界になじめていないのかも」と気づいちゃった感じですね。

当時は、すごい悲しい出来事があっても、Yahoo!知恵袋で相談していたんです。意外とインターネットにはいい大人がいるもので、的確な答えが返ってくることもあるんですよ。

——どのようなことを、Yahoo!知恵袋で相談していたんですか?

アイナさん:しょうもないことから、深い悩みまで色々ですね。ネットで人とつながれている実感をもらえたのは大きかったと思います。ネットには、学校でうまくいかなくてもいいと思える逃げ場を提供してもらっていましたね。私みたいな子も多いんじゃないかな。

アイナ・ジ・エンド ファッション

愛を知ると一人が寂しくなるけれど、それも受け入れる

——18歳で上京して、バイトに明け暮れていた頃とは、今はまったく異なる環境に身をおいていらっしゃいますよね。当時から変わらずに大切にしている考えはありますか?

アイナさん:「なるようになるし、今の現状を受け入れる」という考えはずっと変わらず持ち続けています。10年前は家で一人でたこパ(たこ焼きパーティ)するのがあんなに楽しかったのに、友人らと一緒にやるたこパの楽しさを知ってからは、一人でするのはとても寂しくなってしまいました。

こんなふうに、日々生きていると寂しいという感情がどんどん明確になってきてしまうんですが、それも「なるようになる」と否定せずに受け入れるようにしています。

書籍でも一人暮らしの寂しさから、隣人に「おはよう」とか「おやすみ」とか声をかけてしまいそうだと書いているように、寂しいという感情って人を変えてしまうくらい大きなパワーを持っているけれど、その感情を否定しないというのは大事にしています。

——抱えている感情を否定しないのは、自分を認めてあげるためにも大切ですよね。上京当時は、今のような状況になることは想像されていましたか?

アイナさん:何も考えていなかったかもしれません。「テレビに出演して歌ってみたい」とは漠然と夢をみていましたが、「まぁまぁ稼げてればいいかな」くらいの感覚でしたね。

アイナ・ジ・エンド ポートレート

岩井俊二さんが、自分の力でやりきる大切さを教えてくれた

——ご家族や古くからのご友人はもちろん、アイナさんの人生にはBiSHのプロデューサーである渡辺淳之介さん、映画『キリエのうた』で監督をつとめられた岩井俊二さんなど、さまざまな方が関わっていらっしゃるかと思います。これらの方々にかけられた言葉で印象に残っているものはありますか?

アイナさん:たくさんありますが、『キリエのうた』のための楽曲作りが間に合わず音を上げそうになったときに、岩井さんがおっしゃってくれた「最後までアイナさんが作ったほうがいいと思う、そうじゃないと後悔すると思う。頑張れ!」という言葉ですかね。

誰かに手伝ってもらうより、自分一人で失敗を重ねながらもやり遂げたほうが、次の機会にはもっとうまくいくし、全部やり切ったほうが後悔しないと気づかせてもらえました。ステージに立っているときや振り付けを考えているときにも、ふとこの言葉を思い出します。ずっと心のどこかにある言葉です。

——その『キリエのうた』では、報知映画賞新人女優賞や、日本アカデミー賞新人俳優賞などさまざまな賞を受賞されています。まわりから演技が評価されたことに対してどのように感じていらっしゃいますか?

アイナさん:芝居が上手とか下手とかもよくわからないまま、出演者の皆さんの背中を追いかけていったら撮影が終わったという感覚なので、「こんな未熟な自分をこのような素晴らしい場所に呼んでくださってありがとうございます」という気持ちが強いです。

『達者じゃなくても』

アイナ・ジ・エンド『達者じゃなくても』

『達者じゃなくても』¥2970/幻冬舎

初のフォトエッセイ。BiSHへの想い、ソロになってから抱いた覚悟、ダンスへの目覚めなど、一人の少女時代からアイナ・ジ・エンドを名乗りはじめたあとの歩みを惜しみなく綴る。文章だけでなく構成まですべて自身で手掛け、本人による撮り下ろし写真も多数収録。

トップス¥15840/NOT YOUR ROSE(ハナ コリア support@hana-korea.com) パンツ¥12870、ベルトバッグ¥8140/ASURA(ハナ コリア) ブーツ¥86900/GRAPE(合同会社九狐 info@9fox.ltd)

撮影/東啓介 スタイリスト/菅沼愛 取材・文/高田真莉絵