「yoi」で大人気の竹田ダニエルさん連載「New"Word", New"World"」に加筆・追記をしてまとめた書籍、『ニューワードニューワールド 言葉をアップデートし、世界を再定義する』が2024年10月25日に発売されました。いち早く読み終えたyoi読者4名による読書会を、学芸大学駅近くの「カウンターブックス(COUNTER BOOKS)」で開催! 印象に残った“ニューワード”から、書籍を通じて得た発見や学びまでを、じっくりと語り合ってくれました。
左からNさん(代理店勤務)・Sさん(出版関連会社勤務)・Kさん(メーカー勤務)・Rさん(デザイナー)
自分で自分の機嫌を取るのって当たり前? 「トキシック・ポジティビティ」に共感!
Toxic positivity(トキシック・ポジティビティ)・・・“有害なポジティブさ”という意味で、さまざまな困難な状況に陥っている人に対して楽観的であることを過度に強いるなど、“ポジティブであることこそが最重要である”と考える社会的価値観の有害性を指す。
──本書で印象的だった"ニューワード"として「トキシック・ポジティビティ」を挙げる方が多かったです。日常で、トキシック・ポジティビティを実感する場面はありますか?
N 先日、友達と仕事の話をしていた時に聞いたのですが、上司に「うちの会社は、機嫌のいい状態で出社することがルールなんだよね」と言われたそうです。
オフィスで一緒に仕事をするうえで、雰囲気がいいに越したことはないと理解しています。でも、機嫌ってコントロールできないこともあるし、他人に強制してルールにするもの?と納得できずに、モヤモヤしていたんです。この本を読んで、“あれはトキシック・ポジティビティだったんだ!”とハッとしました。
R 私は機嫌の悪さを、前職の上司から注意されたことがあります。「後輩に対して冷たいね。今日は機嫌悪いの?」と。当時は繁忙期でヘトヘトで、そんなときも無理してニコニコしていなきゃいけないのか…と、さらに心労が増えました。
K “自分の機嫌は自分で取るのが社会人だ!”みたいな雰囲気は、社会の風潮として感じます。私は“いちいち他人の言葉や行動に傷ついたり怒ったりせず、無視して常に前向きに生きるのがいい”という文脈の自己啓発系の投稿を見て、何事も気にしすぎず、落ち込まないようと自分を律していたことがありました。
そうやって負の感情が蓄積され続けた結果、あるとき極度に落ち込んでしまって。表面的にポジティブでいることで解決されることもあるけれど、負の感情と向き合うことも大切だと学びました。
S 同感です! 不安や悩みを相談すると、“前向きでいよう!”とポジティブな言葉で励ましてもらうことが多くて…ありがたい反面、問題の根源は解決されないこともよくあって、疑問を抱いていました。この本を読んで、苦しいときに笑顔でいることだけが正義じゃないとわかり、心が救われました。
K 伝統的な日本企業に勤める友達は、チアリーダーのような、いつも元気で愛想がいい女性でいないといけない、とプレッシャーを感じることがあると言っていました。なぜなら上司に可愛がられるのは、いつもそういった女性ばかり。愛想が悪いと上司に好かれず損をする、と発想させるような環境も、一種のトキシック・ポジティビティですよね。
N まさに、そうですね…!
S 本書のルッキズムに関する章に出てくる「日本は外見主義的な思想と資本主義が結びついていて、“可愛いと得をする”と感じてしまう」というトピックとも関連していますね。誰だって損はしたくないから、得している人の外見や人柄を目指して、自分を変えようとする。職場でのふるまいはお給料や業務量に影響する気もしますし、なおさら損得勘定が強まりますよね。
上司と同じように働くのは無理! 「レイジー ガール ジョブ」とは?
Lazy girl job(レイジー ガール ジョブ)・・・フルリモートでフレキシブルに働けてPTO(有給)がついている、ベネフィット(手当や福利厚生制度)がよい、簡単な事務作業のみで済む、うるさい上司がいない、など、身を粉にして必死に頑張らなくても、それなりに暮らしていける仕事を指す。
──第2章の「仕事とお金」のトピックも皆さん印象に残ったようですね。この章に出てくる「レイジー ガール ジョブ」は、Rさんが特に刺さった言葉として挙げていました。
R 今の仕事は、まさしくレイジー ガール ジョブ。前職で全力疾走しすぎて、疲れ果ててしまい…自分の心と体の変化にちゃんと気づける働き方をしたいと感じて転職しました。
人生ずっと全力で走り続けられる人ばかりじゃないし、ゆるい働き方を選択する人がいてもいいはず。それでも“怠け者の女の子の仕事”という自虐的な名前がついているのは、社会的にはよしとされていないからだろうな、と感じました。
K 私のまわりにも、「必要以上に仕事を頑張ることはやめた」という人も何人かいます。最低限の仕事をこなしていればいい、とサボる人を見ていたら、自分だけ頑張るのが虚しくなってしまった、と感じるようです。
N 全力で走り続けることをよしとする「ハッスルカルチャー」世代の上司とは、仕事に対する意識とか熱量がまったく違うと感じます。否定する気は一切ないけれど、自分にはできないし、したくないかな。
S 私も仕事を頑張りすぎて、燃え尽き症候群になってしまった経験があります。本書に出てくる言葉でいうと、「仕事はただの“ATM”」と割り切るのも大事だと思う。でも週5日、1日8時間以上を働き続けるためには、お給料だけじゃ乗り越えられない気がして…。
R 私は、感情が燃え上がるような趣味と出合って働き方が変わりました。ぬいぐるみ作りにハマってしまったんです! 以来、時間を捻出するために、爆速で仕事をするようになって(笑)。“仕事を頑張る理由=やりがいがあるから”とは限らないんだな、と身をもって知りました。
仕事一筋の結果、友達の少ない父親が思い浮かんだ「メイル・ロンリネス」
Male loneliness(メイル・ロンリネス)・・・男性の孤独。「alpha male」(アルファ・メイル=支配的な肉食系男子)以外は弱い存在である、などの「toxic masculinity」(トキシック・マスキュリニティ=有害な男性性)によって、男性が自分の弱さを打ち明けることができない空気がつくられ、さらに孤独を深めるサイクルを生み出していると言われる。
──第4章の「恋愛・人間関係」にある「メイル・ロンリネス」の問題を、身近に感じることはありますか?
K メイル・ロンリネスについて読んだとき、父親の顔が浮かんだんです。仕事一筋で生きてきた人だから、プライベートでの友達があまりいない…。でも最近、ゲームなどを通じて地域の人と仲良くなったようで、安心しました(笑)。
S 素敵! やっぱり趣味は大事ですね。
N 私のパートナーもワーカホリックで、友達が少ないタイプ。私が友達の話をしていたときに、「友達がいっぱいいて、すごいね」と言われたことがあるんです。本人は「仕事が好きだし、一人で過ごすのがラク」だと言っていたけれど、ちょっと強がっているようにも感じられて…。
K 同世代の男性を見ていると、私の父親のようになる将来が安易に想像できるんです。平日は接待や残業続きで、週末も取引先とのゴルフなどでつぶれるから、プライベートな時間がまったくない。
「そんな生活を続けてたらしんどくならない?」と聞いたら、「男は、女とは違うゲームをしているんだ」と言われたことがあって。男はこうあるべきだという価値観やプライドを強く持っていて、それが孤立につながるんだろうなと思いました。
S 前の職場では、女性同士はPMS(月経前症候群)のことまでオープンに話し合っていたけれど、男性同士でプライベートについて話している場面をあまり見たことがなかったですね。女性が多い職場だったから、女性に対してすごく気を遣っているのも感じられました。
K ハラスメント意識が浸透して、女性に対するデリカシーのない言動は改善された一方で、根本の意識は変わっていないと感じます。
老舗の日系企業で働いている友人が、男性優位な職場環境の不満を男友達に漏らしたところ、「そういう会社だと理解して入社したんでしょ?」と言われたそう。そもそも男性優位な構造がおかしいのに、それに対して一切、疑問を抱いていないんですよね。
R すごく共感します。アダルト産業について話していたときに、「アダルトビデオに出演するのは女性の選択だから、性的搾取とは言えない」というパートナーの考えを聞いて、根本的な意識の違いを感じました。
S 当事者でなければ見えない景色は確かにあるけれど、もう少し理解しようとする姿勢を持ってくれてもいいのかな、とも思う。男性の理解が深まれば、男性自身も生きやすくなるし、メイル・ロンリネスの問題も改善するはずですよね。
自分の理解が深まるのと同時に、人生を見つめ直すキッカケに!
──最後に、皆さんが思う本書の面白さや魅力を教えてください。
N 全体を通じて、「この感情に名前があったんだ!」とか「今の社会の変化には、こういう背景があったんだ!」といった学びの連続。モヤモヤしていたことの解像度が上がり、自分の気持ちをより明確に言語化できるようになりました。
S 単語帳のような作りでとっても読みやすいので、全世代におすすめ。世代間ギャップを感じていたり、親や教師との感覚の違いに悩んでいる若者も多いはずなので、すべての学校の図書館に置いていただきたいです!
K 私たち世代が感じていることからその背景まで、すごくわかりやすく解説されていて、気持ちがすっきりしました。部下との関係に悩む上司は、絶対に読むべき。「今の若い子は何を考えているのかわからない」の答えが、この一冊にすべて集約されています。
R この本を読みながら、“そういえばこんな経験したな”、“私も傷ついたな”と思い起こすことが多々あり、自分への理解が深まるのと同時に人生を見つめ直すキッカケになりました。これからの生き方を模索している、すべての人に読んでほしいです。
『ニューワード ニューワールド 言葉をアップデートし、世界を再定義する』(竹田ダニエル著)¥1760/集英社
「yoi 読書会」を開いた場所は…
カウンターブックス(COUNTER BOOKS)
学芸大学駅高架下の新施設ガクダイ パーク ストリート内で、2024年8月にオープンした新刊書店。カフェバーを併設しており、本を読みながらコーヒー&ティーやカクテル、軽食を楽しむことができる。
住所:東京都目黒区鷹番3-4-25
営業:11:00〜23:00
定休日:月曜日(祝日の場合は火曜日)
撮影/田村伊吹 構成・取材・文/中西彩乃