カリフォルニアに暮らすZ世代のライター、竹田ダニエルさん。この連載では、アメリカのZ世代的価値観と「心・体・性」にまつわるトレンドワードを切り口に、新しい世界が広がる内容をお届けします。第5回のトピックは最近アメリカで話題になっている“男性の孤独問題”について。現在のアメリカで社会的孤立が深まる原因について伺いました。

竹田ダニエル 連載 アメリカ Z世代 マスキュリニティ

竹田ダニエル

ライター

竹田ダニエル

1997年生まれ、カリフォルニア出身、在住。「音楽と社会」を結びつける活動を行い、日本と海外のアーティストをつなげるエージェントとしても活躍する。2022年11月には、文芸誌『群像』(講談社BOOK倶楽部)での連載をまとめた初の著書『世界と私のA to Z』を刊行。そのほか、現在も多くのメディアで執筆中。

—— Vol.5 "Male Loneliness" ——

“男性の孤独”はなぜ社会問題になるのか?

竹田ダニエル サンフランシスコ マスキュリニティ 

ダニエルさん:今、アメリカでは男性の孤独問題(male loneliness)が話題になっています。

――具体的にどのようなことが問題視されているのでしょうか?

ダニエルさん:近年日本でも“弱者男性”という言葉が使われることがありますが、アメリカでも貧困・独身などの要素がある男性を中心に、「男性が孤独を深めている実態を社会が救わなくてはいけない」といわれているんです。

しかしここで併せて考えたいのは、男性の孤独は“社会問題”として扱われるのに、女性の孤独は問題視されにくいということ。そのアンバランスさを、もっと語るべきだと思うんです。

昨年、『CDC(アメリカ疾患予防管理センター)』が「悲しみ」と「暴力」を経験するティーンの女子が増加しているという統計を発表しましたが、その際も、この結果があまり注目されていなかったように感じます。

そもそも女性は長い間、社会に参入できずに孤立を経験してきた歴史がありますが、その声は長年無視され続けてきました(参照)。また、『アスペルガー症候群』や『自閉スペクトラム症』といった発達障害に伴う特性は、長年白人男性を中心に臨床実験がされており、女性に焦点が当てられてきませんでした。女性が「人とコミュニケーションを取ることが苦手で孤独を感じる」と叫んでも、その声は軽視されてしまう。『CDC』は統計と合わせて「女子生徒のストレスを軽減させるために学校ができること」などを提案していますが、女性たちが経験している男性による暴力の問題や、それによって生まれる「悲しみ」の根源的な理由は批判も説明もされていません。

つまり、男性の孤独は社会問題の文脈で語られるのに、女性の孤独は「当たり前のもの」「個人の問題」として矮小化されがちということです。

“アルファ男性”とは? 孤独な男性を誘惑する、強烈なマスキュリニティ

竹田ダニエル サンフランシスコ ライブ

ダニエルさん孤独を抱えた男性の中には、女性が自立し、結婚するよりも独身のままキャリアを大切にしたいと考える人が増える中で、自分たちが“不要”になったと焦りを感じ、それが女性への憎悪に変わる人もいて、そうした過激な発想の背景には、“トキシック・マスキュリニティ(有害な男性性)”が深く関わっていると思っています。男性は子どもの頃から「泣いてはいけない」「強くなくてはいけない」といった思想を刷り込まれている人が少なくないですが、こうした強いマスキュリズムを持った男性が女性蔑視とも取れる言動を放ってしまい、まわりと距離を置かれてしまう。それによって、自分がモテないのは“女性が悪い”という発想に変換されるのだと思います。

――なるほど。孤独と“トキシック・マスキュリニティ”がつながってくるんですね。

ダニエルさん:最近では、孤独を抱えた男性につけこむインフルエンサーもいます。元キックボクサーのアンドリュー・テイトは、圧倒的なマスキュリズムに基づいて「お金を稼ぐ方法」や「女性にモテる方法」をアドバイスするオンラインコミュニティを運営し、一部の若い男性を中心に熱狂的な支持を集めていました。

彼は一貫して男性優位性を誇示し、「女性は男性の所有物」「俺はミソジニスト(女性蔑視主義者)」などといった発言で世間を騒がせてきました。彼は自らを“究極のAlpha Male(支配層の一軍の男性)”と称し、若い男性に対して「お前が孤独なのは、弱々しい“Beta Male(二軍のオス)”だから」だと刺激し、カルトリーダーのように若い男性の支持者を集めていました。

――日本語でいう“肉食系男子”、“草食系男子”などの表現が近いのでしょうか?

ダニエルさん:そうかもしれません。もともと“Alpha Male”は哺乳類の群れのリーダーであるオスを指す用語ですが、これが転じて、支配的な肉食系男子といった意味のスラングとして使われています。一方の“Beta Male”はリーダーとしての強さや強靭な肉体を持たない、弱いオスと認識されています。

“Alpha Male”的、男性優位性の思想を刷り込まれた人は、極右の政治活動に同調する危険性があると指摘されていて、まさにアンドリュー・テイト本人は、度重なる差別発言でSNSのアカウントを停止され、昨年売春斡旋と人身売買によって起訴され、現在も身柄を拘束されています。

竹田ダニエル 日常 アメリカ ロサンゼルス 

――アメリカのドラマや映画を観ると、“イケている男性”はまさに“Alpha Male”のような描かれ方をされている印象があります。

ダニエルさん:でも、マッチョな男性よりも、ティモシー・シャラメやトム・ホランドのような優しそうな雰囲気が好きな人も多いですよね…。大半の男性は女性を真の意味でリスペクトしていることは少なく、女性よりも男性からの承認を軸に行動を決定しているので、何がモテるかモテないかも同性間のルールで決めてしまっていて、それが必ずしも「女性が思う良い男性だとは限らない」のだと思います。

アメリカでは、こうした行き過ぎたマスキュリニティによって、自分の弱さを打ち明けることができない空気を作り、さらに孤独を深めるサイクルを生み出しているといわれています。

広大な土地がゆえに、孤独を加速させてしまうアメリカの現状

――こうした社会的孤立の問題に対して、どのようなアプローチが行われているのでしょうか?

ダニエルさん
:アメリカでの孤独問題を解決するキーワードの一つに、『Walkable city(ウォーカブルシティ)』があげられます。車社会のアメリカでは、これまで大都市以外、“車ありき”の街づくりがされてきました。しかし最近では、徒歩圏内で生活できるウォーカブルシティがコミュニケーションを活発化させるアイディアのひとつとして注目を集めているんです。

例えば大学が集まる学生街は、徒歩圏内に商業施設やスーパー、コーヒーショップが配置され、歩きやすさを意識した都市設計によって人が集るスペースも作りやすくなっています。日本では当たり前かもしれませんが、歩きやすい街って、それだけでそこに住む人との結びつきが深まりやすいんですよね。

ただ、大学を卒業して就職すると、ほとんどの学生は車なしの生活が成り立たない郊外に行きます。日本のように就職しても学生時代の友達と頻繁に会うことは難しく、住んでいるエリアでも車社会がゆえに新しいコミュニティを築くことが難しくなって、物理的な距離がゆえに人との交流が再びなくなってしまうことも。


「孤独=コミュニケーションスキルが低いから」という個人の問題に集約しない

ダニエルさん:こうした背景を考えると、孤独を「コミュニケーションスキルが低いから」「モテないから」といった個人の問題に集約するのは短絡的すぎると思います。根本的な原因は、資本主義的な社会システムや教育、街づくりなどが複雑に絡んでいることなんです。そして、孤独問題は男性だけではなく、すべてのジェンダーを包括する問題であり、決して他人事ではない。そのことを、私たちは忘れずにいる必要があるのではないでしょうか。

取材・文/浦本真梨子 企画・編集/種谷美波(yoi) タイトルロゴ写真/Diana Robinson Photography(Getty Images)