僕は自分を信じていません。いいことも悪いことも自分で評価を下したくないから
自信のない自分も“ありのままの自分”。無理に自信を持とうと思うと、見えなくなってしまうものもある。
多様性が認められる世の中になりつつあり、「ありのままの自分」を出すのが当たり前とされる風潮が高まっています。しかし、それも自分に自信がなければなかなかできないのが正直なところ。「秀でるものを持ち合わせていない」「目立ちたくない」と、自分に自信が持てず、 “自分推し”の世の中に難しさを感じる人もいます。こんなことを言うとネガティブでしょうか?
「僕が仕事をするアメリカでは、自分に自信がない人は相手から信用されません。“自分に自信がない”というのは、ネガティブにとらえられてしまいますから。スポーツブランドのキャッチコピーではないけれど、『I can do it!』は当たり前。自分に自信を持つのは当然で、それがいちばんだとされています。
でもね、僕は自分のことを信じていないんです。これはNYに行く前から。いつからだったかは思い出せないけれど、この仕事を始めてからずっと『自分を信じるな』と。いつでも自分を疑っているし、自分はまちがっているかもと思って生きています」
僕の大好きな見晴らし台で、自然を観察。そんなニュートラルな視点で自分自身も見ていたい。
「そもそも自信とは、字の如く『自分を信じる』ことにあるのに、僕はそれとは逆のことを信念にしている。アメリカでは、自信があることが当たり前、って言っているのに、ずいぶんと矛盾していますよね。『自分に自信を』『自分らしく』を推奨している現代においては、ネガティブに聞こえるでしょ。一見NGに思えることだけれども、『自分を信じない』というのも1つの真実だと思うんです。
アメリカに来たばかりの頃、悩んだ言葉のひとつに、『I can try.』というのがあります。うまくいくかどうかはわからないけれど『やってみる!』ってことですよね。そこに絶対の自信がある、なんて言えない。言えないけれど「I can try.」。
もちろん、これまでの下積みがあるからチャンスをもらえているわけだし、実際やれるのですが、“もし失敗したら…”。それは自分にとっては経験になるけれど、仕事をする相手にとってはたまったもんじゃない。そう思うと、なかなか勇気のいる言葉だと思います。
ところが、実際、自分では失敗だと思ったことが絶賛されたりする場合もあったりする。つまり、自分が思う失敗は、自分でつくり上げた理想のイメージに近づけなかったから失敗になるだけのこと。その結果、自信を失くすわけだけれども、結局は自分の価値観なだけであって、他人が見ると意外とよかったりすることもあると思うんです。
だから、『自信がないから』という理由でやらないより、成功しても失敗しても、やったほうがいいときは、やっちゃったほうがいい。それが『I can try.』。そして意外とそれは、自分が失敗だと思っているだけで、人からはOKだったりもする。時にそういう思いがけない視点が、自分の価値観を広げてくれたり。
だからといって、自信がないのに、自信があるように見せようとしなくてもいいと思います。自信がないポイントって、自分が勝手に思っているだけで、もしかすると、そこが強みになることもありますからね。逆に、強い自信は自分を固めてしまって、広がりがなくなってしまうかもしれません。
これが僕が『自分を信じていない』理由。いいことにしろ、悪いことにしろ、自分で自分の評価を下さないようにしています」
自信がないからといってそのことを避けるのではなく、ちょっとずつ飛び込んで、練習していかないと
自信というと、”絶対的”でないといけないと思いがちでしたが、吉川さんのお話を伺っていると、もっとファジーにとらえてもいいのかも、と思えてきます。
「昔は、何に対しても『I can do it!』なんて絶対無理、と思っていたけれど、さまざまな経験を重ねると、その通りだと思える自分がいます。自信のなさをつくっているのは、結局は自分の価値観。そこに気づかないと、この自信のない自分から脱することはできません。
誰にでも、なんにでも“1回目”は必ずあります。
最終的に自分を動かすのは自分しかない。飛び込む勇気、飛び越えてみようと思う気持ちが必要になります。一度飛び込んでOKだったら、今後はそこに近いものは飛び越えられるようになる。でも、飛び込まないと、いつまでたってもずっと怖いまま。自信がないまま。そして、一度飛び込むと、自信がなかったところもOKということに気づくこともできる」
風景の中で固まってしまっている“ずっとそこにある椅子”。
「何に対して自信がないのか? 人前でしゃべることであれば、それを避けるように生きるのではなく、あえて人前でしゃべってみる。すると、ヘタだけど、上手下手は関係ないと気づくかもしれない。確かに、話すことが上手な人を目の当たりにすると、すごいと思うけれど、それが絶対の正解ではないし、そのイメージに引きずられてはダメだと思います。
僕も十分に怖がりなので、その1歩が踏み出せない人の気持ちはよくわかります。自信がないからそのことを避けるのではなく、ちょっとずつ飛び込んで、練習していかないと。自信って結局、その積み重ねなんだと思います」
理想のイメージがあるからこそ、そこに達していないと、自信を失いがち。でも、それを設けているのは結局のところ自分。そのことを自覚し、まずは一度飛び込んでみると、新たな突破口が見つかるかもしれません。
取材・文/藤井優美(dis-moi) 撮影/Mikako Koyama 企画・編集/木下理恵(MAQUIA)