情報過多な現代、何を見てもどこへ行っても、感動しにくくなっているのかも
今や世界中にあるガラスのビルで、どこの街も似たような景色になっている。
まだまだ暑さがぶり返す日もありますが、そこかしこに秋の装いを感じはじめている今日このごろ。行動制限も緩和され、開放的な気分で迎える今年の秋は、行楽に、芸術に、食欲に…と、楽しい計画を立てている人も多いかもしれません。一方、コロナ禍で人とのコミュニケーションが減ったり、出かけることがなくなったことが原因なのか、感情がフラットになってしまい、感動しにくくなってしまったと、焦りを感じる人も…。
「コロナ禍や戦争など、暗いニュースの影響もあるかもしれないけれど、今の世の中、とにかく情報が多いから感動しにくくなっているのかなって思います。それでも人は基本的に、初めてのことって物事の大小を問わず“わーっ、すごい!”って、感動しやすいと思うから、そんな瞬間に出会えたら、ありがたいと思わないといけないのかもね。
そもそも、世の中を見渡してみても、以前より感動を味わいにくい環境になっていると思います。たとえば、旅行で世界中どこへ行っても、街並みや風景が似たり寄ったりじゃないですか」
まるで晴海のようなボストンの臨海エリア。広告塔がスポンジボブに見えたのでカシャリ。
「そう実感したのは、先日久々にボストンへ行ったとき。街の半分は海岸を埋め立ててあり、東京の晴海のような雰囲気なんです。コスプレのインターナショナルなイベントもあったりして。でも、それはボストンと東京だけじゃありません。世界中、大都市の沿岸エリアってどこも似たような風景で造られている。だから、どこへ行っても既視感があって感動しにくいですよね。昔は世界中“違って当たり前”だったから、最近の“どこへ行っても風景が同じ”ということに逆にドキドキしちゃうけれど。世の中が均一化していることにびっくりして、そのことに驚いている自分にもびっくりするみたいな。これは現代の感動なのかもしれません(笑)」
人は興味があるものにしか感動しないもの。感動ポイントは人によって違うのが当たり前です
おいしいものを食べたとき、泣ける映画を見たとき、かわいい動物を見たとき、同じような感想や、感動の共有を求められがち。そこに息苦しさを感じる人もいます。
街を散策していた時に見つけた無機質なキレイ。でもきっと誰にとってもキレイじゃないかもしれない。
「“感動しにくい”というのは、世の中のこと=自分を取り巻く環境のことを言っているのかな? それとも自分自身のとらえ方の問題?
僕たちが10代、20代を過ごした時代は、今よりずっと情報は限られていたし、グローバルでもなかったから、知らないことがとても多かったんです。だからこそ、知ったときのショックが大きかった。ある意味、衝撃を知っている世代かもしれません。
ところが、インターネットが発達し、簡単にいろいろなことを知ったり、見られるようになって世界が近くなった今、その便利さが“感動”を遠ざけているのかもしれません。なまじ知っちゃうと、あたかも自分が経験したような気になるけれど、やっぱり本当は、実体験しないと感じられないことっていっぱいあると思うんです。
評判のレストランの食事だって、話題のアクティビティだって、どんなに前情報をいっぱい持っていたとしても、それは脳内だけの擬似体験。実際は味覚、嗅覚、体で感じるわけで、そこに行かないとわからない、というのが本当のところだと思う。だからこそ、なんでもかんでも知っていると信じ込んでいることがいちばん怖いと思うんです。体験することと情報は、違うことだと僕は思うから。
人って、興味があるものを見たり体験したりすれば、やっぱり何かしらの感動はするもの。もし、それがないのであれば、単に興味がないだけなのかもしれません。
どれだけドキッとするのかは、人それぞれだからなんとも言えないけれど、いいか悪いかは別に、感度が高ければびっくりポイントは増えるものだと思う。逆に、興味が少なければ、当然、感動は少なくなってきますよね。もちろん、睡眠不足や疲れなんかでも感性は落ちますが、それはその状態を抜け出せば、もとに戻るはずです。
つまり、感動するかしないかは、感性の問題。人は興味があるものにしか感動しないものだと思うし、その対象が100個くらいある人もいれば、3個くらいしかない人もいると思うんです。だから、人と同じポイントで感動しないのはおかしい、なんて思わなくていいんじゃないかな?
感動ポイントは人によってさまざま。たとえ他の人が泣くようなシーンで泣けなくても、自分は冷たいなんて気にする必要はまったくないと思うし、人が何も感じない言葉で涙が出てくることもある。感情のトリガーは人によって違うんですから」
一緒にいる人とは、同じ感性を持つほうがいい。そう思わない自分は冷たいの? と落ち込みがち。でも、感性は人それぞれ。吉川さんが言うとおり、そこに負い目を感じる必要はまったくないですよね。
取材・文/藤井優美(dis-moi) 撮影/Mikako Koyama 吉川康雄 企画・編集/木下理恵(MAQUIA)