今週のエンパワメントワード「人生が旅なら 出会う人たちは旅の仲間」ー『スプートニク』より_1

スプートニク』海野つなみ ¥1,012/祥伝社

束の間の、人生という旅の途上で

25歳の「浅利千尋(あさり ちひろ)」は、3年勤めたウェディングプランナーの職を辞めることにした。上司の「羽鳥汐路(はとり しおじ)」は浅利を引き留めるも、退職理由を聞いて考えを一転、ともに辞めることを決意する。実は汐路は妊娠していた。そして半年後、汐路の結婚式の2次会で酔いつぶれた浅利は、汐路の弟「羽鳥 渡(はとりわたる)」に自宅まで送ってもらい──。

そこから恋が生まれるのかと思いきや、始まったのは10年を超える友情だった。それも、汐路も加わった三人でのゆるやかな関係。仕事でもない、恋愛でもないそのつながりは、浅利が渡に酒の失敗を詫びるために集まったカフェ&バー「スプートニク」から花開く。

本作は祥伝社の月刊誌『フィール・ヤング』にて発表された。2017年に描かれた読み切りが起点となり、2021年にシリーズものとして続編を描くことになったという。その結果、2話目以降にはコロナ禍となった現実が取り入れられている。マスク姿はもちろん、業務縮小によって無職となった浅利の近況や、背中合わせに会話をしながら花見をする様子は、まさしく私たちの「今」につながっている。

さて会うこともままならなくなった三人は、たまにSNSで連絡を取り合い、変わらぬ関係を続けていた。だがある日、羽鳥姉弟の母が倒れたことから事態が動く。夫を亡くして一人暮らしだった母は、施設へ入ることを自ら宣言する。では、空き家となる実家に誰が住むのか。思案する汐路に、ある考えがひらめく。それは長年温めていた彼女の夢と、職業訓練校に通い、マンションのリフォーム技術を身につけた浅利の未来を結びつけるものだった。

互いの事情や環境は、歳を重ねるにつれ自然と変わっていく。気の合う人とのつながりも、決して当たり前のものではない。「スプートニク」で会った帰り道、渡は浅利に店名の意味を話す。それはロシア語で「旅の仲間」を指し、転じて「衛星」の意味になった。渡の言葉を聞きながら、浅利は遠く思いを馳せる。〈人生が旅なら 出会う人たちは旅の仲間〉──ともに過ごす時間が限られたものだとわかっているからこそ、道中の楽しさを願う。その思いを変えることなく、新しいステップへと踏み出した10年後の三人の姿は、まぶしくもどこかうらやましい。

『逃げるは恥だが役に立つ』(講談社)で知られる著者にとって、50冊目となる本作。読み切り連作の形で進む物語は、私たちのリアルな孤独や情けなさにもそっと寄り添ってくれる。自分にとっての「旅の仲間」にすすめたくなる一冊だった。

田中香織

女性マンガ家マネジメント会社広報

田中香織

元書店員。在職中より、マンガ大賞の設立・運営を行なってきた。現在は女性漫画家・クリエイターのマネジメント会社であるスピカワークスの広報を務めている。

文/田中香織 編集/国分美由紀