今週のエンパワメントワード「今ここで生まれている輝きを またたきを そのまんま、あなたにも」ー『ダンス・ダンス・ダンスール』より_1

『ダンス・ダンス・ダンスール』
ジョージ朝倉 ¥715/小学館 ©️ジョージ朝倉/小学館

終わりなき芸術の舞台で爆ぜる星たち

感動さめやらず…‼︎ 先日行った、ジョン・ノイマイヤー率いるハンブルク・バレエ団の日本公演の話だ。84歳のノイマイヤー自身が舞台上でナレーションをつけて自作を振り返る「ジョン・ノイマイヤーの世界」を観ながら、涙が止まらなかった。愛に満ちていて、特に『作品100 モーリスのために』から『マーラー交響曲第3番』への流れは、個人的な愛が人間全体への愛にまで昇華されていく濃密な時間だった。客席でただ観ているだけなのに、作品の一部に自分も巻き込まれていくような感動に包まれた。

鳴り止まない拍手を聞きながら、このバレエの感動がものすごいエネルギーで活写されているマンガを思い出していた。ジョージ朝倉『ダンス・ダンス・ダンスール』だ。

名作が数多あるバレエマンガの中で『ダンス・ダンス・ダンスール』が独特なのは、タイトルの「ダンスール」というフランス語の男性名詞からもわかるように、主人公が「村尾潤平」という男の子であるということ。お調子者だけどバレエに対してまっすぐで貪欲な主人公・潤平のキャラクターもあり、いい意味で泥くさく、ドラマチックな青春ストーリーになっている。

幼い頃、偶然目にした天才「ニコラス・ブランコ」のバレエに「星が爆ぜる」ような衝撃を受け、バレエ教室に通いはじめた潤平。しかし父の急死をきっかけに「男らしくあらねばならない」と決意。バレエをやめ、ジークンドーを習っていたが、中学2年生のとき、同級生の誘いでもう一度バレエをはじめることに。天性の華と身体能力、ずばぬけた感受性や音楽性を武器に、潤平はバレエにのめり込み、ダンサーとして急成長をとげていく──。

忘れられないシーンはいくつもあるが、印象深いのは、ジョーカーのように涙を流すメイクで踊った「ジゼル」のアルブレヒト。ライバルの演じたアルブレヒト像を乗り越え、本番で爆発する潤平のダンスシーンは、まるでロック。ストーリーとダンス、画面構成がすべて同期して生まれるバレエマンガの推進力が、ここぞとばかりに発揮されている。作者のジョージ朝倉さんも潤平と一緒にゾーンに入っているのでは、と感じる大迫力だ。

コミックス24巻と4月12日発売予定の25巻に収録される「コッペリア」も熱い。全身が粟立つような描写。「今日の俺、120%の日かも…」と感じた潤平は踊りながらこう思う。

〈今ここで生まれている輝きを またたきを そのまんま、あなたにも〉

舞台上も、客席も、もちろんバックステージも。劇場全体を共振させる、ダンサーのエネルギーと献身がマンガの上に描きとられていて、どうしたって感動してしまう。バレエという芸術には刹那的な魅力があり、今日観たダンサーがまた明日も観られるかわからないし、同じ舞台は二度とない。だからこそ美しいのだが、それがこんなふうに紙の上に留められるなんて。実は本作ではこのあと、物語全体を揺るがす大きな事件が起きる予感もあるのだけれど…、そこも含めて、どうかこの熱量を、爆ぜる星を、見逃さないでほしい。ああ、書きながらまたバレエを観に行きたくなってきた。

横井周子

マンガライター

横井周子

マンガについての執筆活動を行う。選考委員を務めた第25回文化庁メディア芸術祭マンガ部門ソーシャル・インパクト賞『女の園の星』トークセッションが公開中。
■公式サイトhttps://yokoishuko.tumblr.com/works

文/横井周子 編集/国分美由紀