『太陽よりも眩しい星』
河原和音 ¥484/集英社 『別冊マーガレット』にて好評連載中
©河原和音/集英社
河原和音が『太陽よりも眩しい星』で描く、ピュアな初恋と普遍的な他者への憧れ
何かを好きだという気持ちによって自分の世界が広がる。誰しも経験があることだと思う。恋でも、推しでも、人ではなくて夢中になった何かでも。河原和音『太陽よりも眩しい星』は、そんな「好き」という感情のあたたかいパワーを改めて届けてくれる、やさしいラブストーリーだ。
主人公の「岩田朔英(いわたさえ)」は、背が高くて力持ちの女の子。小学校のときからまっすぐで優しい「神城光輝(かみしろこうき)」に片思いしている。子どもの頃は小柄だった神城だが、徐々にたくましく成長。みんなの注目を浴びるようになって、朔英にとっては遠い存在に変わってしまう。そんな二人が同じ高校に進学! ふたたび距離を縮めていく様子が、丁寧につづられている。
くっ。まぶしい。あらすじだけを抽出すると、まぶしくて目玉が溶けそうだ…。だが、天性のコメディセンスを持つ作者の手にかかれば、ピュアな王道ストーリーのなかにも思わずクスっと笑えて同時に切なくなる小さなシーンがいっぱい。大人の読者もどんどん引き込まれてしまう。
たとえば夜、神城が朔英を家まで送るシーン。大きい自分に引け目を感じて遠慮がちな朔英は、「送るよ 暗いじゃん」という神城に対して、心の中で「神城 きっと私クマとかにしか狙われないよ きっと」と思っている。キュンとするくだりではあるのだが、本気で「自分はクマにしか狙われない」と思い込んでいる朔英のずれた自己認識がかわいくも切なくて、読者一同で「いやいや!」とつっこみたくなる。
『太陽よりも眩しい星』は“別マ”こと『別冊マーガレット』で連載している。特に思春期の頃、私はずっと『別冊マーガレット』という雑誌が大好きで、一冊も捨てたくないあまり“別マ”でベッドを作ろうと試みたこともある。恋愛体質というわけでもないのになぜなんだろうと自分でも少し不思議だったのだが、今ならわかる。ボーイミーツガールという形式の中で、感情を微分する。『太陽よりも眩しい星』がそうであるように、ささやかな日常から複雑なきらめきを抽出する、その繊細な文化に強烈に惹かれていたのだ。
まだ何者でもない小さな子どもだった時に素直な神城を好きになった瞬間を、朔英はこんなふうに表現する。
〈小さかった私の宇宙に突然現れた眩しい星〉
星は道しるべになったり、見とれてしまうくらいきれいだったりしながら、怖がりな朔英の勇気を引き出し、彼女の世界を広げていく。以前、河原和音さんへのインタビューで「他人との間の『理解し、理解されたい』という気持ちを、ラブストーリーを通して描いているのかなって思うことがあります。自己肯定と他者肯定のような普遍的なことを恋の中に込められたら」と伺ったことがある。『太陽よりも眩しい星』にも、初恋を通して、より普遍的な他者に対しての憧れや敬意が込められている。この作品自体がまぶしい星みたいだなあと、私は思う。
マンガライター
マンガについての執筆活動を行う。選考委員を務めた第25回文化庁メディア芸術祭マンガ部門ソーシャル・インパクト賞『女の園の星』トークセッションが公開中。
■公式サイトhttps://yokoishuko.tumblr.com/works
文/横井周子 編集/国分美由紀