ライター海渡理恵さんによる、音楽を入り口に世界を見つめる連載「世界は鳴っている」。世界中のアーティストから発信される、個人の内面や社会のムードを反映した音楽シーンの躍動をお届けします。現在進行形で世界各地から生まれている音楽に耳をすませて、自分や世の中の内側をのぞいてみませんか?

海渡理恵の世界は鳴っている girl in red

メンタルヘルスに向き合い続けたgirl in redがたどり着いた現在地

girl in red(ガールインレッド) ノルウェー 音楽 アーティスト

以前この連載で紹介したAURORAと同じく、ノルウェー出身のMarie Ulven (マリー・ウルヴェン)のソロプロジェクト、girl in red(ガール・イン・レッド)は、1999年生まれのシンガーソングライター。メンタルヘルスやジェンダーなどをテーマにしたドリーミーかつポップなサウンドの楽曲で、同世代を中心に熱烈な支持を得ている。


そんなgirl in redが、一躍注目を集めるきっかけとなった作品が、ビリー・アイリッシュの兄・フィニアスを共同プロデューサーに迎えた、デビューアルバム『if i could make it go quiet』(2021年)。タイトルには、「頭の中で鳴っているノイズをもし静めることができたら」という意味が込められており、体と心の乖離に対する苦しみを歌った「Body And Mind」や、不安症から抜け出そうともがく心を活写した「Rue」など、自らが抱える不調や痛みを赤裸々につづった曲が収録されている。


その中でも注目は「Serotonin」。軽快なサウンドに乗せて、侵入思考(考えたくなくても勝手に浮かんできてしまう思考のこと)に苛まれていることを明かした曲で、メンタルヘルスに悩む人たちの心に寄り添う一曲として世界中でヒットを記録した。

こうして楽曲制作を通じて、メンタルヘルスに向き合い続けてきたgirl in redが、この春、約2年ぶりにアルバム『I'M DOING IT AGAIN BABY』を発表。以前より、コントロールが難しい心とうまく付き合えるようになったgirl in redの姿が描かれている。本作の1曲目を飾るのは、「I'm Back」。この曲でgirl in redは、羽が生えたような感覚になるサウンドに乗せて、〈帰ってきたよ。以前よりいい気分〉と、現在は好調であることを宣言する。そして、曲のラストで「よいときも、悪いときもあるのが人生」と締めくくり、生きていれば浮き沈みがあって当然だとなぐさめてくれる。

girl in red - Serotonin (official video)

脳内の神経伝達物質のひとつで、精神を安定させる働きをする“セロトニン”をタイトルにした本曲。〈毎日壊れていく。でも私を救えるのは私だけだから、赤ちゃんみたいに泣き叫びながら全てを受け入れるよ〉〈心はどんどん弱ってく。毎晩理解しようとするけど、本当は「辛い」って言いたいよ(中略)セロトニン不足なの〉と、だんだん沈んでいく心と対峙する苦悩と葛藤を表現している。

girl in red - I'm Back (Official Video)

「Serotonin」では、「デイジー畑(心が平穏になれる場所)に連れて行って」と歌っていたが、「I'm Back」では、「デイジー畑にいる」と歌い、MVには花畑で楽しそうに過ごすgirl in redの姿が映る。

気持ちが沈んだときは、"どんな状態の自分も受け入れよう"ともがいてきたgirl in redの音楽を頼ってみてはどうだろうか。誰にも理解されない辛さに寄り添ってくれる楽曲が、暗闇から抜け出す道筋となってくれるかもしれないから。

girl in redの『I'M DOING IT AGAIN BABY』をチェック

girl in red 「I'M DOING IT AGAIN BABY」

『I'M DOING IT AGAIN BABY』 配信中/ソニー・ミュージックレーベルズ

画像デザイン/齋藤春香 取材・文/海渡理恵