今日はごろごろしながら部屋で配信ドラマが観たい! そんなときは日本ドラマの過去作を観るのはいかが? SNSで話題のドラマウォッチャー、編集者の綿貫さんが前回に続いて、ごはんを食べることを通した「セルフケア」を描いた作品を新たに紹介してくれました。忙しい日々にそっと寄り添う、3作品の魅力を語ってもらいます。
「晩餐ブルース」(2025年放送)
「晩餐活動」を通して描く男性同士のケア

STORY
高校時代の旧友である井之脇海演じる悠太と、金子大地演じる耕助の二人は、友人の離婚をきっかけに再会。ただ一緒にごはんを食べる活動「晩餐活動」を通じて心を回復させていく。
綿貫さん:男性同士がプライベートで会うときって、酒やサウナのような趣味に近い別の置き換えが必要なんですよね。労ってもらうことは女性に求め、男性同士ではお互いに弱さを見せ合えないから。
でも「晩活」というコミュニケーション方法を発明し、従来のホモソーシャルなやりとりを描かない作品をつくったことに意義を感じます。「男性たちはお茶ができない」と言われがちなように、おしゃべりを通してお互いをケアすることを描いた物語って少ないんです。
お酒を飲んで酔っ払いながら愚痴をこぼし合うシーンはよく見かけるかもしれませんが、このドラマでは、一緒に買い物をし、料理をして、男性同士で語り合う、同性間のケアを丁寧に描いています。男らしさの呪縛にとらわれず、涙を流したり弱さまでさらけ出して、互いを肯定し合う描写があることもポイントです。
男性3人だけの関係性で閉じてしまったり、男のつらさだけを描いていたりしたら物足りなさを感じていたかもしれませんが、本作は性差の壁やモラハラなどに苦しめられてきた優太の同僚・上野ゆい(穂志もえか)など、3人以外の登場人物の背景も描かれることにより、より深みが出ています。
いままで3人だけで行っていた「晩活」ですが、最終回で新たなメンバーが加わったことは、希望と広がりを感じさせます。
「晩餐ブルース」
井之脇海、金子大地、草川拓弥、穂志もえかほか
U-NEXT、Netflix、TELASAほか各種動画配信サービスにて配信中
「しあわせは食べて寝て待て」(2025年放送)
食事は、心や体と向き合う大切な時間

STORY
水凪トリの同名漫画が原作。桜井ユキ演じる麦巻さとこは「一生つき合わなくてはならない」病気にかかってしまい、生活が一変。会社を辞め、新しい住まい探しを余儀なくされた彼女は薬膳と出合う。薬膳と団地の人たちとの交流を通して、さとこは身近な幸せに気づいていく。
綿貫さん:タイトルの「しあわせは食べて寝て待て」がこの作品の魅力をあらわしていますよね。世の中には幸せを積極的に求めたり「幸せにならないといけない」と思わせたりする作品が多いなか、このドラマは「自分が心地よく生きて待っていれば、その先に幸せがあるかもしれないね」という緩やかなスタンスでいることの心地よさをそっと差し出してくれます。
病気によって不安を抱えている主人公・麦巻さとこ(桜井ユキ)の心強い味方となっているのが薬膳。「頭痛のときに大根をかじる」なんていう、手軽に真似できる知識が多く得られるところもポイントです。そのうえで、効能をうたいすぎない絶妙なバランス感にも好感が持てます。
そして一人で買い物をして、料理をして、暮らしを整えていく。自立した日常の中で、自分をいたわり、ケアしていく過程が丁寧に描かれています。食事という行為が、自分の体と静かに向き合うかけがえのない時間であることを、あらためて思い出させてくれるはずです。
元気なときもあるけれど、苦しくて部屋で寝込んでしまうこともある。またつらくなったときは誰かに料理を作ってもらったっていい。自活しながら、周りの人に頼りながら生きていくさとこの日常に共感を覚えます。
「しあわせは食べて寝て待て」
桜井ゆき、宮沢氷魚、加賀まりこほか
NHKオンデマンド、U-NEXT、Amazonプライムほか各種配信サービスにて配信中
「À Table! ~ノスタルジックな休日~」(2024年放送)
穏やかな時間が育む夫婦のコミュニケーション

STORY
暮しの手帖社発行の名作レシピ本『おそうざい十二カ月』『おそうざいふう外国料理』が原案。東京・吉祥寺近くに暮らす市川実日子演じる藤田ジュンと中島歩演じる夫、ヨシヲの日々の暮らしを描く。
綿貫さん:包丁がまな板にあたる心地よい音や、料理が鍋で煮込まれている様子が丁寧に描かれていて、良質なライフスタイル番組のようなつくりのドラマです。主人公夫婦を演じるのが市川実日子さん、中島歩さんという最高なキャストであることにもぜひ注目してください。
他人に愚痴るほどではない、小さな悩みや生きづらさを抱えている夫婦が、今も多くの人に愛され続けているレシピ本『おそうざい十二カ月』『おそうざいふう外国料理』を手にとり、一緒に料理を作っていきます。
物語に大きな事件は起きないし、劇的な展開があるわけではありません。でも、食事の準備から調理、そして食卓を囲むひとときの中で夫婦の会話が自然と生まれ、コミュニケーションに深みを増していく様子に、観ている私たちの心も自然とほぐれていきます。
この夫婦は、一緒に片付けもしますが、夫のヨシヲ(中島歩)のほうが片付けがうまい、という描写も。性別役割ではなく、能力の高さで物事をはかるところもいいですよね。
レンチンするだけでもいいし、カップラーメンでもいい。食事はつきつめればなんだっていいのかもしれません。それでも、この二人の暮らしの中で「一緒に料理をすること」がひとつのささやかなケアとして描かれているのが印象的です。
料理は労働だと思ってしまうとつらいけれど、それだけではなく、心を豊かにする営みであることをこのドラマは優しく伝えてくれます。観終えたあとは、レシピ本を開いて少し時間をかけて料理をしてみたくなるかもしれません。
「À Table! ~ノスタルジックな休日~」
市川実日子、中島歩ほか
U-NEXTほか各種配信サービスにて配信中
イラスト/よしいちひろ 取材・文/高田真莉絵 構成/渋谷香菜子