秋のアレルギーといえば、ブタクサなどの花粉症のイメージですが、実はダニアレルギーも要注意の時期。一般的に、最も多いアレルギーの原因=アレルゲンがダニといわれているのはご存じですか? しかもダニの数自体は8月が最も多いけれど、アレルゲン量は10月がピークになるんだとか。そう、秋には秋のダニ対策が必要なんです!
正しくダニ対策を講じるには、まずダニの生態や、アレルギーとの関係を知ることから。『エステー』がダニ研究の専門家とアレルギー専門医監修のもとで作成し、情報発信サイト「くらしにプラス」で公開している「正しいダニの知識とダニ対策の基本」から、知っておくべきポイントをご紹介します。
ペストマネジメントラボ代表取締役
医学博士、獣医師。日本獣医畜産大学卒業。東京大学医科学研究所 寄生虫研究部でダニの研究を始める。埼玉県衛生研究所環境衛生部技術吏員、埼玉県立衛生短期大学非常勤講師、埼玉医科大学非常勤講師などを経て、これまで行なってきたダニに関する調査結果をまとめ、アレルギー疾患に対する治療法と予防法を確立するため、ペストマネジメントラボを設立。 おもな著書に『ダニ病学』(東海大学出版会)、 『ダニの生物学』(共著、東京大学出版会) など。
なんぶ小児科アレルギー科院長
アレルギー専門医、小児科医。京都大学医学部を卒業後、兵庫県立塚口病院(現・兵庫県立尼崎総合医療センター)に赴任。小児科医として勤務した後、京都大学医学部大学院で免疫・アレルギーの研究に従事、医学博士号を取得。アメリカ合衆国アイオワ大学の病理学教室で3年間、免疫の研究を行う。 帰国後、天理よろづ相談所病院で小児科医として勤務し、小児科部長、小児アレルギーセンター長を務める。 著書に『アレルギーから子どもを守る -ダニ対策24の秘訣』(東京図書出版)。
アレルギーを引き起こす“秋ダニ”に要注意!
ぜんそくやアレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎といったアレルギーを起こすおもな原因物質は、食物、花粉、カビ、 ペット、そしてダニなど。なかでも、ダニと花粉に反応する人が多く、アレルギー検査 (IgE抗体検査)を使ったある統計調査では、一般の小児の約50%がダニアレルギー陽性と判定されました*。全員がアレルギーの症状を発症しているわけではないのですが、 これを日本全体に置き換えた場合、国民の2人に1人がダニアレルギーということになります。
アレルギーを考えた場合に気をつけたいのが、ダニの死骸やフン。高温多湿の環境を好むダニは、梅雨の時期から夏にかけて数を増やします。夏の繁殖期を終えて残った死骸やフンは時間とともに壊されて粉々になり、空中に浮遊します。それを吸い込んでしまうと、体が異物を排除しようとして免疫が過剰反応し、自分の体を傷つけてしまうアレルギーを引き起こすことに。秋にアレルギーを発症する人が多いのはこのためです。
ダニの死骸やフンを吸い込むことで、ぜんそくやアレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎を引き起こすだけでなく、花粉などほかのアレルギーの引き金になる可能性もあるので注意が必要です。ダニアレルギーにならないようにする「一次予防」、アレルギーを持つ人がぜんそくなどの症状を発症しないようにする「二次予防」、どちらも大切ですが、まずは家の中にいるダニを減らし、すみつきづらい環境をつくる対策が不可欠です。
*『一般学童における 吸入アレルゲン感作率の経年変化』 楠隆、小西眞、樋上雅一、西川達朗、頼住一、山本克與 「第51回全国学校保健・学校医大会(2020年)での報告」 滋賀県の小学5年生を対象にした調査(2019年)では、ダニアレルゲンに対する感作率が54.0%だった
対策の基本は敵を知ること! ダニの生態を徹底解明
日本の家屋で人のアレルギーを引き起こすといわれているのは、チリダニの仲間であるヤケヒョウヒダニとコナヒョウヒダニの2種類。体長0.2〜0.4㎜で、ヤブ蚊の10分の1ほどと、かなり小さいサイズ。そして色も白や半透明のため、ほとんど目に見えません。そんな小さなダニですが、実はかなり活動的。家じゅうを動き回っていて、ダニ専門家の高岡先生の調査では、一晩で10m歩く可能性が指摘されています。
さらに、繁殖力の高さもあなどれません。1匹のメスは生涯で100個ほどの卵を産みます。1日5個産んだ場合、20日間で卵は計100個。そのうちメスの割合が半分(50匹)と仮定し、同様のスピードで卵を産んでいくと、100日後には100万匹以上のダニがいる計算に!
ちなみに、1㎡あたりにダニ100匹いる環境が、高岡先生が日本の住宅事情を考慮した際のアレルギー発症の目安です。ダニの繁殖力を考えると、自分の家にこの数がいてもおかしくないとわかるはず。それだけ、ダニアレルギーの脅威が身近に潜んでいるということなんです。
高温多湿の環境を好むダニは、梅雨時期から夏にかけて一気に数を増やし、秋になり気温が下がると繁殖は衰えますが、その代わりに死骸の数のピークがやってきます。では、10月は死骸を除去すればいいだけかなと思ってしまいますが、現代の高密閉、高断熱の住宅では秋冬もダニにとって快適な環境が作られるため、越冬する可能性も大いにあるんです。ダニ対策は一年を通してする必要があるというわけ。
また、高岡先生の実験によると、気温50℃の環境に1時間置いてもダニは死滅しませんでした。さらに、生きたダニは繊維にしがみついて、洗濯機の水流などでは簡単にはがれない。正しい対策ができていないと、ダニを取り除くことはなかなか難しいといえます。
ステイホームがダニを誘き寄せているかも!?
そもそもチリダニは高温多湿な環境を好むため、日本の気候が生育に適しています。加えて、通気性のよい木造住宅から気密性・断熱性の高いコンクリートの住宅や木造住宅へ住環境が変化したことで、家の中のダニが増加したことがわかっています。
さらに最近では、コロナ禍のステイホームやリモートワークの習慣が、ダニに暮らしやすい環境をつくった可能性があるとも考えられています。ダニはタンパク質をエサにするので、人が家にいる時間が長い=ダニの繁殖を助長する要因になるというわけ。その一方で、長時間家を空けて、掃除や換気がおろそかになったときにもダニが増えることがあります。
どのような形であれ、生活していくうえでダニをいっさい寄せつけないというのは至難の業。自分のライフスタイルに寄り添う形で、ダニ対策につながる家の整え方を学ぶ必要がありそうですね。後編では、ダニがすみつきづらい住環境にするための具体策をご紹介していきます!
構成・文/政年美代子 イラスト/エステー株式会社提供 "正しいダニの知識とダニ対策の基本"より引用