去る2月22日の「頭痛の日」に、主催アムジェン、日本頭痛学会、JPACの後援による「片頭痛コントロールカレッジ」の第3回として「頭痛の日特別トークイベント『片頭痛の、ホントの痛み』」が開催されました。人によっては生活に支障が出るほどつらい片頭痛ですが、日常的に我慢している人も多いよう。原因や治療法、そして上手なつき合い方は? 認定頭痛専門医と、片頭痛に悩む女性を代表するゲストパネリストが登壇し、片頭痛コントロールについて話し合ったトークイベントの様子をお届けします。

片頭痛の女性イメージ画像

片頭痛は日常生活への支障が大きい病気

オープニングトークでは、富士通クリニック内科・頭痛外来の五十嵐久佳先生が、片頭痛の概要をはじめ、女性と片頭痛の関係、頭痛発作だけではない生活への影響や片頭痛の治療法について教えてくれました。

五十嵐久佳先生

富士通クリニック 内科・頭痛外来

五十嵐久佳先生

北里大学医学部を卒業後、英国 The City of London Migraine Clinic での研修を経て、北里大学医学部脳神経内科学客員教授に。宮内庁病院内科医長、神奈川歯科大学内科学講座教授を歴任。現在は富士通クリニック、東京クリニックで頭痛外来を担当。完全予約制の診療で、ひとりひとりの患者に丁寧な問診を実施。頭痛の誘因を掘り下げ、それぞれに適した治療と日常生活のアドバイスを行う。 

日本における片頭痛の有病率の全国調査(Sakai F et al, Cephalalgia 1997 Feb; 17(1):15-22)によると、日本人の約4割が頭痛を抱えて生活しており、そのうち緊張型頭痛(頭全体を締め付ける痛み)が日本の総人口(令和2年国勢調査 人口等基本集計結果 結果の概要[stat.go.jp]2023年1月閲覧)の22.4%にあたる約2,800万人、片頭痛(ズキンズキンという痛み)が約1,000万人(8.4%)、群発頭痛(片目の奥の頭痛)が約7万~50万人、薬剤の使用過多による頭痛が約125万~250万人だそう。なかでも片頭痛は日常生活への影響が非常に大きいことがわかっており、YLD(years lived with disabillity:障害によって損失する期間)は、トップの腰痛に次いで多いのが片頭痛です。

日本の頭痛の有病率グラフ

頭痛の種類と有病率

「片頭痛」とは、読んで字のごとく“頭の片側が痛む頭痛”だと漠然と思っている人は多いかもしれませんが、次の①~④の症状のうち、2つ以上当てはまり、さらに⑤か⑥のうち1つ以上が当てはまれば片頭痛の可能性があります。あなたの頭痛はいくつ当てはまりますか?

【片頭痛のおもな症状や特徴】
①頭の片側に起こる痛み

②ズキンズキンと拍動性の痛み
③我慢できない・仕事などに支障がある
④体を動かすと痛みが悪化する
⑤頭痛が起こると吐き気をもよおす
⑥光・音に敏感になる

片頭痛の女性患者は男性患者の約4倍!

五十嵐先生によると、片頭痛患者は男性よりも女性のほうが約4倍多く、20~40代の女性に特に多いそう。片頭痛が起こる原因となる誘発・増悪因子には、女性特有のホルモンに関連したもの(初潮・月経・更年期)、寝不足や寝すぎ、空腹、ストレス、光や騒音、におい、人混みや天候の変化などがありますが、どの原因によるものかは人によってさまざまで、いくつか重なって起きることも。頭痛日数がひと月の半分以上ある「慢性化」の状態や、市販薬を使用しすぎることで起こる頭痛もあります。

また、女性では月経の前後に頭痛が起こるという人も多いのではないでしょうか。その月経時の片頭痛を約8割の人が生理痛の一種と感じており、「生理痛の一種だから仕方がない」と思っている人が多いのではと五十嵐先生は言います。

片頭痛による日常生活への影響

こうしたさまざまな原因による片頭痛は、生活にもいろいろな形で影響を及ぼします。仕事や生活、家族関係への影響、精神的影響、ライフイベントへの影響など、大事なときに限って頭が痛く、つらい思いをしたという人も多いのでは。週1回の頭痛でも、通算すると1年間で約50日(約2カ月)も頭痛に悩まされていることになります。

片頭痛日数も男性よりも女性のほうが多く、片頭痛による日常の活動が制限される期間は女性のほうが長いことが海外のデータでも報告されているそう。女性は、男性に比べて片頭痛患者数が多いうえに、片頭痛による支障度も大きいということですね。

片頭痛、どう治す? 市販薬のほかに予防薬も効果的

頭痛がしたら、ひどくなる前に痛み止めを服用する人が多いと思いますが、18歳以上の日本人に横断的にweb調査を実施し、17,071例を対象とした調べでは、片頭痛患者の4人に3人が市販薬で対処しており、予防治療薬やトリプタン(片頭痛の痛みに特化した頭痛薬)を使ったことのある患者は1〜2割ほどしかいませんでした。ほとんどの人が市販薬で対処し、片頭痛のための医療機関を受診したり、予防治療薬やトリプタンを使用したことがある人は半数以下でした。

片頭痛の痛み止めの薬には、市販薬のほかにも片頭痛に特化した以下のような薬があります。それぞれの目的を知り、上手に利用したいですね。

■急性期治療薬
片頭痛発作による痛みを早く確実に止めて、日常生活への支障を減らします。アセトアミノフェンや非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は市販薬としても販売されており、病院やクリニックで処方される薬には、トリプタンなどの急性期治療薬があります。


■予防薬
痛みの発生頻度や重症化を減らす、急性期治療薬の効き方を改善する、片頭痛の生活への支障を減らすといった目的があります。痛みを予防することで、「また痛くなるかも…」という不安を和らげることができるかもしれません。抗てんかん薬や、抗うつ薬、β遮断薬、カルシウム(Ca)拮抗薬は、片頭痛のために開発された薬ではありませんが、片頭痛にも効果があり、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)関連抗体薬は2021年から日本でも使用できるようになり、片頭痛に特化した薬です。

片頭痛に対する治療薬

セルフコントロールで頭痛の発作を防ぐ

五十嵐先生によれば、片頭痛の誘発因子を避けることも片頭痛対策になるといいます。「においや光は片頭痛の発作が起こる原因にもなるので、自宅の室内では芳香剤ではなく消臭剤を使用したり、こまめな換気をする、部屋のカーテンを遮光へ変更し、外出時にはサングラスや帽子を着用するといった対策も、痛みの発作を減らすのに有効です」(五十嵐先生)

片頭痛の原因を避ける

ほかにも、食事や睡眠を気をつけることで片頭痛の発症を防ぐことができると五十嵐先生は言います「マグネシウムやビタミンB2は片頭痛の発生を防ぐといわれているため、青魚や牛乳、大豆、ほうれん草などの食材を多く使った食事を積極的にとるといいそう。睡眠時間は寝すぎても寝不足でも片頭痛にはよくなく、6〜8時間の睡眠が片頭痛が起きにくいとされています。さらに、治療にヨガやストレッチを取り入れることで片頭痛の症状が軽くなるというデータもあります」

片頭痛とうまく付き合うためのセルフコントロール方法

自分の頭痛のパターンを知ることが大事

トークイベントのパネルディスカッションでは、パネリストのゲスト2名が登壇。自身の頭痛歴や症状、頭痛による日々の悩みについて語り、その対処方法やアドバイスを五十嵐先生に伺いました。

女性代表パネリストゲスト
北川 容子先生

成城ハートクリニック 院長

北川 容子先生

東京女子医科大学医学部を卒業後、東邦大学大橋病院第3内科(現・東邦大橋医療センター 循環器内科)へ。その後、循環器内科を専門に地域の基幹病院での勤務を経て、成城ハートクリニックを開業。 循環器専門医としての知識と経験を活かし、患者の不安に寄り添いながら心のこもった診療を行う。 

●パネリストとして参加した成城ハートクリニック院長の北川容子先生も、日常的に片頭痛に悩むひとり。幼少期から学生時代は、運動会や球技大会など炎天下のイベントでは必ずと言っていいほど帰宅後に激しい拍動性の頭痛を発症。市販の痛み止めを飲むと3時間ほどで治っていたそう。20代の頃の発作は年に数回程度。鎮痛薬でごまかし、肩や首のこりがひどいこともあり、頻繁に整体へ。目の奥の痛みも眼精疲労と思い込み、自分が片頭痛であるとは考えていなかったそう。30代は毎日のように頭重感が。「緊張型頭痛」だと思い込み、温めたりほぐしたりして逆にズキズキと拍動性の頭痛が出る状態に…。鎮痛薬の効果も薄く、脳神経内科の先生に相談したところ「片頭痛では?」と言われ、片頭痛の薬を処方してもらったら劇的に症状が緩和。そこで初めて片頭痛と認識したそうです。



「片頭痛の人にとって、運動会は強力な誘発因子となりますね。まぶしい光や騒音、人混み、早朝からのお弁当作りによる寝不足などは片頭痛を引き起こします。緊張型頭痛は姿勢やストレスによって首や肩まわりの筋肉が緊張し、血流が悪化することによる頭痛ですが、片頭痛でも8割は首や肩のこりを感じる人が多く、肩こりや首の痛みだけで片頭痛か緊張型頭痛かを区別することはできません。動くと痛みがつらくなり、光や音によって悪化するのが片頭痛。目の奥が痛いのも片頭痛の痛みの可能性もあります。整体は、頭痛のないときに行くのはいいのですが、頭が痛いときに整体をすると痛みが悪化するので注意が必要です」(五十嵐先生)


●中年期以降は、仕事でも家庭でも休めないことが多く、多少の頭痛を押してでも頑張らなくてはいけないことが増えたという北川先生。仕事の打ち合わせやママ友づき合いなどで気遣いや緊張する場面が増え、帰宅後ほっとした瞬間に頭痛が起きるように。休むより薬を飲んでなんとかこなし、最後に倒れ込むことも…。そんな中でも近年は、片頭痛の誘因になるものを記録し、自分で何とかできることと、どうにもならないことを把握して頭痛に対処しているとのこと。例えば、寝不足は自分で改善できること、月経や天候は自分ではどうにもならないので薬に頼るなど、頭痛とうまくつき合う努力をしていることがうかがえます。



北川先生のように、ご自分の片頭痛のパターンを記録するなどして把握するのは、片頭痛と上手につき合うためにもとてもいいと思います。そのうえで、片頭痛のつらさをまわりに話してみることが第一歩。医師にも自分のつらさを伝えられない患者さんもいます。まずは家族や仕事の同僚などのまわりに話し、つらいときには無理をせずに休んだり、ペースダウンできるように理解を得ておくことが大事です」と五十嵐先生。

また、頭痛のたびに鎮痛薬を飲むのは、頻度によっては薬剤の使用過多による頭痛になる可能性もあるので、鎮痛薬の飲みすぎには注意が必要だといいます。「薬を飲むタイミングがずれると頭痛がひどくなるという経験をしている人は、少しの頭痛でも薬を飲むようになる。そうすると、わずかな痛みでも脳が過剰に痛みを感じてしまい、余計に薬を飲んでしまうのです」(五十嵐先生)

月経時の片頭痛は重症化しやすい

女性代表パネリストゲスト
tsukiさん

ヨガライフスタイリスト・パーソナルトレーナー

tsukiさん

ヨガライフスタイリスト・パーソナルトレーナーとして、フィットネスモデル、ヨガポーズ監修、ヨガプログラム開発や、地上波・CMや雑誌などの各種メディアで活動中。NYでヨガ国際資格を取得。指導歴10年のヨガ・パーソナルトレーナー、 トレーニング・コンディショニング経験により、参加者の悩みに合わせて幅広いクラスを構成。 

●ヨガライフスタイリスト・パーソナルトレーナーのtsukiさんは、高校生〜20代で頭痛を感じるように。生理直前がいちばんひどく、PMS(月経前症候群)とともにズキズキと脈打つような痛みが。生理前以外だと、寒暖差など何が頭痛になるきっかけやタイミングがわからず、いつ頭痛がくるのか予測がつかない不安があるとのこと。片頭痛への対処法として、現在は頭痛やPMSをやわらげるヨガを実践中。前屈や深呼吸などのリラックス系、むくみを予防するようなポーズ、腰回りをほぐすようなポーズなど運動強度を下げて落ち着けるポーズを取り入れているそうです。

片頭痛持ちの女性の約半数は、月経の数日前〜月経中に片頭痛を感じやすいことがわかっています。また、月経時の片頭痛は、月経時以外の片頭痛発作と比べて重症化しやすいのも特徴です。痛みの持続時間が長く、痛み止めで改善しても24時間以内に再発することが多い。強い吐き気を伴うことも多く、急性期治療薬や予防薬が効きにくいので、生活への支障度が大きいといえます。ヨガは、肩や首の痛みを取りのぞいたり、自律神経と副交感神経を整えてくれるので片頭痛にいい効果がありますね。ただし、ホットヨガは逆に片頭痛の誘因になるので注意が必要です」(五十嵐先生)

頭痛に関するさまざまな悩みに五十嵐先生が回答!

頭痛とのつき合いが長くても、いざ頭痛に襲われるとそのたびに薬に頼ったり、ひたすら痛みに耐えたり、その都度乗り越えている人が多いと思います。少しでも痛みをやわらげたい、どの程度の頭痛だったら病院を受診したほうがいいのか……頭痛に関する疑問に五十嵐先生が回答してくれました。

Q. 頭痛がひどいとき、薬が効くまでのあいだに少しでも痛みをやわらげる方法はありますか?
A. 薬を飲んでも、動き回っていると効かない場合もあります。片頭痛のときは冷やすのが効果的ですが、体全体は冷やさないほうがいいでしょう。痛む部分を冷却シートや濡れタオルなどで冷やし、静かに暗い室内で、できるだけ体を動かさず安静に過ごしましょう


Q. 片頭痛と緊張型頭痛のどちらかわからず、対処に困ることがあります。見分け方はありますか?
A. ひとつは、頭痛ダイアリー(https://lin.ee/kefKGdP/)をつけること。今日の頭痛には吐き気があった、どういうタイミングで痛くなった、などを記録しておくと、自分の頭痛のパターンや、どういうタイミングで頭痛が生じるかがわかってきます。片頭痛特有のきっかけや症状があるかどうかによって、ある程度判断がつくと思います。片頭痛と緊張型頭痛を合併している人もいるので、頭が痛いときにお辞儀をしてみて、頭痛が増すようなら片頭痛の可能性があります。


Q. どのようなタイミングで病院にかかるべきかわかりません。頭痛の頻度や症状など、何か目安はありますか? また、診察のときに先生に何を伝えればよいでしょうか?
A. 頭痛の頻度が少なくても、頭痛で少しでも困っているのであればぜひ受診してください。週に2日以上、鎮痛薬を飲んでいたり頭痛がある人は受診をおすすめします。また、今までと違う頭痛が起こったときは、命にかかわる頭痛の可能性もあるので受診が必要です。その場合も、頭痛ダイアリーをつけておくと頭痛の傾向がわかるので、受診の際に診断がつきやすいでしょう。

日記をつける女性イメージ

日常的な片頭痛のつらさは我慢しないことが大事

五十嵐先生によると、頭痛持ちの人の多くは片頭痛があるのが当たり前になっているため、頭痛外来を受診して初めて、それまでの生活が普通ではないと気づく人もいるそうです。パネリストとして登壇した北川先生も、長年頭痛に悩まされながら、頭痛持ちという“体質”だと思ってあきらめていたそう。そもそも頭痛を病気と思っていないため学校や仕事を休むと言い出せず、我慢したり別の理由で休んでやりすごすことも。自分も周囲も片頭痛ではないと思い込んでいたのも、正しい診断や治療にたどり着くまでに時間を要した理由のひとつだと言います。

頭痛をあきらめず、どうやって自分の頭痛をコントロールしていくかを知ることが大事。頻度は少なくても、頭痛でつらい思いをしているのなら、受診して医師に相談してください。将来悪化する場合もあるし、もしかしたら命にかかわるような病気が隠れている場合も。もしその可能性がなくても、痛みに対する治療法があるということを知っておいてほしい」と五十嵐先生。

受診に迷ったときに、片頭痛によって自分の生活の質をどの程度落としているのかを考えてみるのも一つの判断基準だと話すのは北川先生。薬を持ち歩かないと不安だったり、大切な予定を頭痛のせいであきらめたりしているようなら、生活を脅かしているものとして受診を検討してみてもいいかもしれません。

今回のトークイベントでは、片頭痛は我慢するものではなく、治療することができる病気であることが繰り返しメッセージとして発信されていました。片頭痛の痛みは生活への影響が大きい一方で、そのつらさはまわりの人になかなか理解されにくいこともあります。片頭痛は受診によって「痛みを抑える」「痛みの発症を防ぐ」治療が可能な病気だと五十嵐先生は言います。痛みを我慢せずに、頭痛外来などで一度受診・相談してみると、“頭痛があることが当たり前の人生”から一歩抜け出せるきっかけになるかもしれません。

取材・文/長岡絢子 Photo by primipil/ iStock / Getty Images Plus , TravelCouples / Moment