爪水虫がある人は10人に1人と言われています。足水虫から爪水虫に進行する人も増えていて、国内で1100万人とも*1。爪水虫の重症化で、靴がはけない、転倒、骨折…などにつながることも少なくないとか。爪水虫の最新治療を皮膚科専門医の堀内祐紀先生に聞きました。
*1 望月隆ほか「日皮会誌」123(13):2639−2673,2019年

堀内祐紀(ほりうちゆうき)先生

秋葉原スキンクリニック院長

堀内祐紀(ほりうちゆうき)先生

東京女子医科大学医学部医学科卒業。同年、東京女子医科大学病院皮膚科学教室入局。JR東京総合病院皮膚科、さいたま協同病院皮膚科ほかを経て、2007年現クリニック開設。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本医学脱毛学会理事。Allergan Medical Institute Japan Fuculty、一般社団法人美容皮膚エキスパートナース育成協会代表理事、一般社団法人Aesthetic Medical Academy理事。

爪水虫を治さないと、水虫は退治できない!

水虫 感染のループ

増田:日本の水虫の罹患者数は約2500万人。さらに爪水虫は約1100万人、10人に1人もの方が悩んでいるのですね。
  
堀内先生足の水虫であれば市販の水虫薬でも治すことができますが、爪水虫は市販の水虫薬では治すことができません。爪水虫は、治しておく必要がある病気です。
 
爪水虫の治療が必要な理由は、水虫の蔵元が爪水虫だからです。爪水虫を治さないと、足水虫も退治できません。足から爪、爪から足へと反復して感染します。

足水虫は先に治りますが、水虫の原因である白癬菌は爪にいつまでも残っていて他の爪にも広がったり再発も多いです。自分の足や体に感染するだけでなく、家族や他人にもうつします。
 
増田:爪水虫の症状はどんなものですか?
 
堀内先生爪が白色や黄白色ににごって厚くなり、もろくボロボロになるといった症状が見られます。重症化すると、自分では切れなくなるほど、爪が分厚くなり変形することもあります。

爪水虫は、高齢女性の4人に1人と言われています。高齢になったときまで爪水虫を持っていると、爪の肥厚や変形が起こり、それが原因で靴がはけなくなったり、体のバランスが取りにくくなって、転倒や骨折、ロコモティブシンドローム(運動機能低下)、フレイル(老化による心身の衰弱)で歩けなくなるリスクが高まることも指摘されています。

夏前が治すチャンス!

水虫のチェック

増田:爪水虫は、どんな症状が出るのでしょうか?
 
堀内先生:爪水虫(白癬)はカビの一種です。自覚症状は少ないですが、爪の色や形、厚みに変化が現れます。かゆみや痛みなどの症状が少ないため、気づきにくいのです。

爪水虫にかかった爪は、爪が白または黄色くにごる、爪の裏側がもろくボロボロになる、爪にスジが入って割れやすくなる、爪が厚くなるなどが起こります。ペディキュアをしたままにしていると気づかないことが多いので、ネイルを落としたときに爪にこのような症状がないか、きちんと見て確認しましょう。
 
白癬菌は、湿気がある環境を好み、感染源は家庭内や公衆浴場(温泉も含む)、サウナ、スポーツジムなどのバスマット、スリッパ、床にいます。多くの場合、足水虫が爪の先端や側縁から侵入して、爪で増殖します。
 
爪を切るときも、床に落としたままにしないように、要注意です。爪の破片は、感染能力が高く、少なくとも月単位、場合によっては1年以上も生存している可能性があります。床に落ちた白癬菌が付着して感染するまでの時間は、最短で24時間です。もし付着部に傷があれば、12時間で白癬菌の感染が成立します。
 
日本は四季があるので、夏に水虫の症状がひどくなり、乾燥している時期は水虫の症状は収まります。しかし、角質や爪の硬いケラチンの下で、白癬菌は残っています。ここで治療を止めてしまうことが、何度も水虫の再発を繰り返す原因です。きれいな爪に生え変わる時間は、最短でも半年から1年以上。夏前に皮膚科を受診して処方薬で適切に治療していただきたいです。

爪水虫の治療は医師処方の飲み薬で!

水虫の治療薬

増田:爪水虫の治療薬にはどのようなものがあるのでしょうか?
 
堀内先生爪水虫を治す市販薬で、効能・効果が認められているものは、現状ではありません。適切な治療で悪化を防ぎ、健康な爪に戻し、家族感染を防ぐためにも皮膚科を受診することが大切です。
 
皮膚科で処方される爪水虫の治療薬は抗真菌薬です。現在、保険適用されている日本の爪水虫治療薬は、全部で5種類。内服薬(飲み薬)が3種類、外用薬(塗り薬)が2種類です。『皮膚真菌症診療ガイドライン』による爪水虫の治療の原則は、内服薬とされています。世界的に見ても、日本は爪水虫の治療薬の選択肢が最も多い国です。けれども、患者さんが減らないのは、きちんと最後まで治療する人が少ないからと言われています。
 
内服薬は、有効成分が血液から爪に運ばれ、爪の内側から効果を発揮します。3~6か月の服用が必要です。完全治癒までもっていけるのは、医師の処方薬による抗真菌薬の内服のみです。日本皮膚科学会でもこれをファーストチョイスに、としています。
 
一方、外用薬は爪表面に塗ることで、有効成分が爪の中に浸透します。治るまでに1年以上かかることもあります。塗り薬の2種類とも、爪の奥の白癬菌まで有効成分が届くようにつくられていますが、効果や副作用の表れ方、使用期間、治療費など患者さんの症状や状況に合わせて、医師が処方しています。
 
増田:新しい爪水虫の治療法は、出てきているのでしょうか?
     
堀内先生自由(自費)診療ですが、爪水虫をレーザーで治療する方法があります。外用薬や内服薬の治療では時間がかかるので、すぐに治したい、内服ができない(肝機能が悪い、ほかの内服薬との相性が悪いなど)という方が希望することが多いです。
 
当院で使用しているレーザーの照射時間は、片側12分間で痛みはありません。個人差はありますが、1~2週間に1回、合計4回で効果を実感する方が多いです。当院の費用は、片側1回¥11,000、両側1回¥16,500です。
 
まずは皮膚科専門医のいるクリニックで正しく診断してもらい、ご自分の目的にあった薬を処方してもらうことが大切です。そして、症状がなくなってもすぐに薬をやめず、医師のOKが出るまで使い続けてください。

増田美加

女性医療ジャーナリスト

増田美加

35年にわたり、女性の医療、ヘルスケアを取材。エビデンスに基づいた健康情報&患者視点に立った医療情報について執筆、講演を行う。著書に『医者に手抜きされて死なないための患者力』『もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択』ほか

取材・文/増田美加 イラスト/大内郁美 企画・編集/木村美紀(yoi)