日々、当たり前のように行なっている「睡眠」。実は、私たちが健康に過ごすうえで欠かせない重要な役割を担っています。その仕組みや役割はもちろん、睡眠不足のデメリットから“質のいい眠り”を手に入れるためのアドバイスまで、医学博士の西野精治先生に教えていただきました。今回は、「すっきり目覚めるコツ」について。

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Q9.どうしても朝が苦手です…すっきり目覚めるコツはありますか?

教えていただいたのは…
西野精治

医学博士

西野精治

スタンフォード大学医学部精神科教授、同大学睡眠生体リズム研究所所長。日本睡眠学会専門医。ブレインスリープの創業者兼最高研究顧問。著書に『スタンフォード式 最高の睡眠』(サンマーク出版)、『眠れなくなるほど面白い 図解 睡眠の話』(日本文芸社)など。

A9.温度差や感覚刺激は“最高の目覚まし”に!

眠りにつくと筋活動が低下し代謝も落ちるので、深部体温はさらに下がります。睡眠中に体内の熱は体外へ放たれ、深部体温は低い状態で保たれます。そして、明け方に近づくにつれて深部体温は上がっていき、覚醒がはじまります。

起床すると深部体温は自然に上がりますが、目が覚めたらベッドから出て朝の支度をはじめるなど、すぐに行動を開始すると覚醒スイッチがオンに切り替わり、深部体温をさらに上げることができます。また、深部体温と皮膚温度の差が縮まると眠気が強くなる性質を逆手にとって、深部体温と皮膚温度の差を広げることができれば、眠気が消えてより早く脳が目覚めます。

深部体温と皮膚温度の差を広げるには…
⚫︎水で手や顔を洗う
⚫︎冷たい水で水仕事をする
⚫︎朝ごはんを食べる
⚫︎あたたかい飲みものを飲む

一方で朝風呂は要注意です。入浴すると深部体温はたしかに上がりますが、その反動でしばらくすると体温が大きく下がり、かえって眠くなってしまいます。朝の覚醒には、シャワーのほうがいいでしょう。

目や耳、皮膚への感覚刺激もおすすめ

目覚ましなどで無理やり起こされると、いつまでも頭がぼんやりして眠気やだるさが消えないことがあります。なかなか覚醒状態に切り替わらないこの状態を「睡眠慣性」や「睡眠酩酊」と呼び、起きるタイミングが悪いことが主な要因と考えられます。

そもそも、寝起きの認知機能は1日の中でもっとも低く、活動中のピーク時と比べると6割程度。このときの脳波を測定すると、目は開いていても脳は睡眠中とほとんど同じような状態となっています。

そんなときにおすすめなのが、感覚神経を刺激すること。耳や目や皮膚などがとらえた感覚情報が送られる脳幹の「上行性網様体」は、覚醒にかかわる部位として知られています。例えば、眠っているときに救急車やパトカーのサイレンの音が聞こえたり、明かりをつけたりした途端に起きてしまうのは、この上行性網様体が刺激されて覚醒させられたためと考えられます。

この性質を利用して、朝起きたら、すぐに目や耳、あるいは皮膚などから感覚刺激を届けると、睡眠慣性が解消されてしっかりと目覚められるはずです。

感覚刺激の一例
⚫︎裸足で冷たい床の上を歩く(皮膚感覚を刺激)
⚫︎カーテンを開けて太陽の光を浴びる(視覚を刺激)
⚫︎音楽やラジオをかける(聴覚を刺激)

朝の光を浴びて活動モードに切り替える

地球上のほとんどの生物は固有の体内時計を持っていて、その働きで地球の自転に合わせて体内の生理現象を変動させる生体リズムがつくられています。体内時計の中で最も睡眠と関わりが深いのが、約24時間の周期で働く「概日リズム(サーカディアンリズム)」です。

地球の自転にともなう1日の長さは24時間ですが、人間の概日リズムは約24.2時間なので、放っておくと地球のリズムより少しずつ後ろにズレていきます。このズレを修正してくれるのが「光」です

目の網膜が光を感知すると、その刺激が視床下部の視交叉上核にある体内時計をリセットし、地球の時間と体内時計とのズレをなくすことができるのです。特に朝の光は強いエネルギーを持つため網膜まで達しやすく、覚醒への影響が大きいとされています。目覚めたらまず朝の光を浴びると、体内時計が整い、眠気を覚ましてくれるのです。

20分間隔のアラームで起床のベストタイミングを狙う

「1回の目覚ましでは起きることができない」「二度寝してしまう」「寝起きが悪い」──そんな悩みを抱えている人は少なくありません。すっきり目覚めるには、レム睡眠のときか、その前後で起きるのがベストです。ベストタイミングを外さないために、目覚まし時計のアラームは2度に分けてセットするといいでしょう。

1回目は、「ごく微音で、短い」アラームをセット。レム睡眠のときは覚醒しやすいことが多いので、 この微音アラームで起きられたなら、レム睡眠のタイミングに合っていたことになります。そのまま気持ちよく目覚められるでしょう。

2回目は、1回目で起きられなかったときのためにセットしておくアラームです。1回目から20分あけて、「普通の音」でセットします。1回目に深いノンレム睡眠で目覚めなかったとすると、20分後にはレム睡眠もしくは浅いノンレム睡眠になっている確率が高いので、2回目のアラームで起きればいいのです。

ただし、「スヌーズ機能」の使用は避けましょう。1回目のアラームで起きられなかった場合、短い間隔で繰り返し鳴るスヌーズ機能を使うと、ノンレム睡眠中に何度も起こされることになり、かえって寝起きが悪くなってしまいます。

構成・取材・文/国分美由紀
出典/『眠れなくなるほど面白い 図解 睡眠の話』(日本文芸社)