顔のほてりや多汗、動悸、息切れ、めまい、頭痛、不眠......こうした「更年期障害」のような症状に悩む20〜30代の若者が増えてきているようです。“若年性更年期障害”ともいわれる症状について、産婦人科医の大山香先生にお話を伺いました。

大山 香 (おおやま・かおり)

産婦人科医

大山 香 (おおやま・かおり)

昭和大学医学部卒。日本産科婦人科学会専門医。女性ヘルスケア専門医。臨床研修指導医。気軽に話せる雰囲気づくりと、図や絵を使用したわかりやすい説明を心がけ、「女性ライフクリニック銀座」で臨床にあたっている。

Q1:“若年性更年期障害”とは?

若年性更年期障害 症状

A1:“若年性更年期障害”という病名はありません。

大山先生:「更年期」は、年齢に応じて誰にでも必ず訪れる「期間」のことで、閉経前後5年の約10年間と定義されています。日本人女性が閉経する平均年齢は50歳なので、個人差はありますが45〜55歳が更年期に該当します。
そして「更年期障害」は、その期間中に生じるさまざまな不調が日常生活に支障をきたしている状態をさします。のぼせ・ほてりといったいわゆるホットフラッシュのほか、
手足の冷え、頭痛、めまい、不眠、肌の乾燥、イライラ、倦怠感など多岐にわたります。症状の有無・重さも人によって実にさまざまです。

「更年期障害」の主たる原因は、ズバリ「卵巣機能の低下」
です。閉経に向け、女性ホルモンのうちのひとつ「エストロゲン」が減ることで上記のような症状が現れます。エストロゲンは年齢的に更年期に突入した途端ガクンと減るのではなく、20〜30代をピークに以降はゆるやかに分泌量が減っていきます。そのため、最近は早めに更年期障害が出始める30代後半〜40代前半が「プレ更年期」と呼ばれています。「プレ更年期」も医学用語ではないのですが、病態は更年期と同じく、どちらも卵巣機能の低下によるエストロゲンの減少が関係しています。

では“若年性更年期障害”はプレ更年期よりもっと早い段階でのことを指すのかというと、そうではないんです。
30代前半までは、自然と卵巣機能が低下するには早すぎる年齢です。それなのに更年期障害のような症状が出る場合、多くは、卵巣機能に問題があるのではなく、日常生活で受ける過度なストレスや無理なダイエットによるホルモンバランスの乱れが原因と考えられます。更年期障害とは症状が酷似していても病態が異なるので、“若年性更年期障害”という病名はないのです。

Q2:“若年性更年期障害”とPMSの違いは?

若年性更年期障害 pms 違い

A2:PMSなら、月経開始とともに症状が落ち着きます。

大山先生:ふたつの女性ホルモン「エストロゲン」と「プロゲステロン」は、どちらも月経周期に伴って分泌量が大きく変動するもので、エストロゲンは排卵前(卵胞期)の数日間で一気に増えプロゲステロンは排卵後(黄体期)に増えていくという違いがあります。更年期障害がエストロゲンの低下によって月経周期に関係なく症状が襲ってくるのに対し、PMSはプロゲステロンが増える黄体期にのみ起こるのです。

特に30代後半以降は、職場でこれまで以上に責任の重い仕事を任されるようになったり、結婚・出産・育児・介護など家族にも頼られがちなライフステージに入ったりする方が多く、ストレスがかかり自律神経が乱れやすい時期です。更年期障害は、そうしたストレスも影響して起きやすくなるため、発症のタイミングが掴みにくく、症状の強弱にも波があります。 

一方、PMSかどうかを判断するポイントは「不快な症状が起こるのは月経前だけか否か」という点に絞られます。
私のところへPMSの相談にこられた患者さんには、まずPMS手帳をお渡しして、2〜3カ月間の体調の記録をつけてもらいます。すると心身の状態の変化が可視化され、PMSを患っている場合は明らかに月経前の時期にだけ困った症状が出ていることがわかります。

Q3:“若年性更年期障害”が起こる原因は?

若年性更年期障害 若者 男性

A3:ストレスやダイエットが影響を及ぼしている可能性大。

大山先生:20〜30代の比較的若い方に、月経周期に関係なく更年期障害のような症状が出ているのであれば、診察ではまず問診で月経の有無や周期、日常生活におけるストレス、激しいダイエットによる体重減少の有無などについて詳しくお話を伺います。
稀に40歳未満で閉経してしまう「早発閉経」が原因で更年期障害のような症状が出ることもあるので、血液検査をしてホルモン値を確認したり、
子宮や卵巣に病気が潜んでいる可能性も考慮して、経膣超音波検査を実施したりする場合もあります。

Q4:“若年性更年期障害”の治療方法は?

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A4:生活習慣の見直しが第一ですが、漢方薬やホルモン治療も選択できます。

大山先生治療が必要な他の病気の心配がなければ、自律神経やホルモンバランスの安定を目指して、食事・運動・睡眠を意識した健康的な生活改善が第一です。「本当にそれで効果があるの?」と思われるかもしれませんが、実際に診させていただいた若い患者さんのなかには、過度なダイエットをして月経が止まってしまったとか、睡眠時間が昼夜逆転していて症状が出たという方もいらっしゃるので、自律神経を安定化させてあげることは重要です。
それだけでは改善しない場合には、イライラや不眠などの症状を緩和してくれる漢方薬や、月経不順を改善する低用量ピルで症状を改善させる治療法があります。「早発閉経」など、実際にホルモン量の低下がある場合には、飲み薬や貼り薬で
エストロゲンを加えてあげるホルモン補充療法もあります。

Q5:自分の更年期障害の程度を知る方法は?

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A5:簡略更年期指数(SMI)というチェックリストがあります。

大山先生SMI(=Simplified Menopausal Index)は日本人女性特有の更年期症状をもとに考案された、更年期症状の程度を評価するためのスケールで、実際に外来で使用されています。
下記の10項目の症状について自分でその程度に点数をつけ、合計点をもとに更年期症状の程度を把握します。
月経不順、かつ合計点が51点以上であれば、婦人科を受診することをお勧めします。

・顔がほてる
 (強=10/中=6/弱=3/無=0)

・汗をかきやすい
 (強=10/中=6/弱=3/無=0)

・腰や手足が冷えやすい
 (強=14/中=9/弱=5/無=0)

・息切れ、動悸がする
 (強=12/中=8/弱=4/無=0)

・寝つきが悪い、または眠りが浅い
 (強=14/中=9/弱=5/無=0)

・怒りやすく、すぐイライラする
 (強=12/中=8/弱=4/無=0)

・くよくよしたり、憂うつになることがある
 (強=7/中=5/弱=3/無=0)

・頭痛、めまい、吐き気がよくある
 (強=7/中=5/弱=3/無=0)

・疲れやすい
 (強=7/中=4/弱=2/無=0)

・肩こり、腰痛、手足の痛みがある
 (強=7/中=5/弱=3/無=0)

【自己採点の評価法】

0〜25点:上手に更年期を過ごしています。これまでの生活態度を続けていいでしょう。

26~50点:食事・運動などに注意をはらい、生活様式などに無理のないようにしましょう。

51~65点:医師の診察を受け、生活指導、カウンセリング、薬物療法を受けた方がいいでしょう。

66~80点:長期間(半年以上)の計画的な治療が必要でしょう。

81~100点:各科の精密検査を受け、更年期障害のみである場合は、専門医での長期の計画的な対応が必要でしょう。

Q6:“若年性更年期障害”は何科を受診?

若年性更年期障害 何科 男女

A6:女性なら、まずは婦人科へかかりましょう。

大山先生昔は「更年期障害」の認知度が低く、つらい症状があっても周囲の人に理解されにくかったものですが、最近はメディアで取り上げられることも増え、“若年性更年期障害”という言葉が使われるくらいメジャーになって、理解が進みつつあると感じます。男性でも、男性ホルモンである「テストステロン」が低下すると更年期症状が出ることがあり、泌尿器科に専門外来が設けられている医療機関もありますね。

とはいえ、女性の不調をなんでも「更年期障害」と決めつけてしまうと、思いもよらない病気のサインを見過ごしてしまうことになるかもしれません。例えば、若いうちから異常なエストロゲンの低下によって無月経の状態が6カ月以上続くと、将来的な骨粗しょう症のリスクが高まってしまいます。若い方でも、月経不順や更年期障害に似た症状が続く場合は、一度婦人科にかかって

構成・取材・文/月島華子