女性の抜け毛と薄毛の原因は? 開院以来60万人以上の悩みと向き合い、丁寧な診療で多くの女性からの支持を得ている頭髪治療専門クリニックの医師に聞きました。更年期前と更年期以降では原因が異なることも!
クレアージュ総院長 兼 クレアージュ東京院長
医学博士。北里大学医学部卒業。北里大学大学院医療系研究科 臨床医科学群精神科学修了。国際アンチエイジング医学会(WOSAAM)専門医、米国抗加齢医学会(A4M)専門医、日本抗加齢医学会専門医ほか。女性の頭髪治療専門クリニックとして、開院以来60万人以上の悩みと向き合い、丁寧な診療で多くの女性からの支持を得ている。
無理なダイエット、生理不順も抜け毛につながります
増田美加(以下、増田): 抜け毛や薄毛を心配する女性の声が増えているように感じます。長年、女性の薄毛治療をしている浜中聡子先生から見て、最近の女性の髪の悩みはどんな状況でしょうか?
浜中聡子先生(以下、浜中先生):クリニックには薄毛に悩む20代から90代までの女性が年間、数万人も来院されます。その中で、私たち医師の目から見ると、そのうちの約3割は健康な毛髪です。年相応で健康な髪の状態なのに、「もしかして薄毛では?」と心配される方が多いのです。
また、20代~30代の更年期前の若い世代の女性の薄毛、抜け毛の原因は、生理不順や無月経など生理の不調にともなうものと、無理なダイエットによる栄養失調によるものが目立ちます。
無理に体重や体脂肪を減らすと、生理がなくなり、髪質の悪化につながります。また、偏った食生活(暴飲暴食を含む)や睡眠不足などの生活の乱れも原因になります。特に30代半ばから生活習慣の乱れや、それによる女性ホルモンのアンバランスが抜け毛や髪質の低下につながるのです。
食生活も大きく影響します。タンパク質不足の食生活は、じわじわと髪質が低下していきます。
増田:女性の髪悩みとして、どんなものがありますか?
浜中先生:抜け毛、切れ毛、退色、毛の傷み、うねり、乾燥、ツヤなどでしょうか。抜け毛の悩みは最も多いですが、フロントラインが後退する、つむじが目立つなどの外見上の変化を訴える方が多いですね。
増田:産後の脱毛を訴える方もおられると聞きますが、これはまた原因が異なりますか?
浜中先生:これは女性ホルモンが非常に強く関わっています。妊娠中は女性ホルモンが非常に多く分泌されますので、抜け毛も少なく、髪質も維持されます。しかし、産後は急激に女性ホルモンが低下します。これにより、髪が一気に抜け落ちるのが「分娩後脱毛症」です。
分娩後脱毛症は、新たな毛がはえて、しっかり伸びて元に戻るまでに1年~1年半くらいかかります。ゆっくりと髪は戻りますから心配しすぎないでください。ただし、人によっては、戻るのに時間がかかったり、白髪が増えたり、髪が細くなったり、という悩みを訴える方もおられます。この場合は、よりスムーズなリカバリーを促すための治療を行います。
女性ホルモン低下による抜け毛なら1日100本は正常のうち
増田:更年期以降の薄毛や抜け毛の原因はなんでしょうか?
浜中先生:原因は単純にひとつではありませんが、おもな要因は、血流量の低下と女性ホルモンの低下です。うねり、パサつきなど髪質が低下して、髪の太さや硬さが失われてボリュームがなくなるという変化が起こります。
更年期以降は、女性ホルモンのエストロゲンが低下することで、ヘアサイクル(毛周期)に変化が生じます。1本1本の髪にも寿命があり、「成長期」⇒「退行期」⇒「休止期」のサイクルを経て、2~6年くらいで抜け落ちていきます。
エストロゲンには、この成長期を長く保つ働きがあり、十分にエストロゲンが分泌されていれば、毛量も豊かなものになります。このエストロゲンのピークは20代後半。更年期にはエストロゲンの分泌の低下が顕著になります。
ヘアサイクルを考えると1日80~100本の抜け毛は正常のうちです。しかし、年を重ねるほど休止期が長引き、抜け毛量も増加します。加えて、新たに生えてくる髪は、細くやわらかくなるため、薄毛やボリュームダウンとなるのです。
女性の薄毛にはタイプがある
増田:エストロゲンが低下する更年期から抜け毛が増えるのは、自然なことなのですね?
浜中先生:加齢によるボリュームダウンは自然なことで、来院される方の約3割は年相応の健康毛です。
一方で、女性で最も多いのが「びまん性脱毛症」です。男性のようにこめかみ周辺や頭頂部、前髪といった特定の部位から後退していくのと違い、頭頂部を中心に全体が均等に薄くなり、すだれ状に頭皮が透けてくるのが特徴です。
40代~50代を中心に全年代の女性に起こり得ます。原因は女性ホルモンの低下以外に、血流の低下や生活習慣の乱れ、過度なダイエット、ストレス過多、間違ったヘアケアなどで起こります。
また、「牽引性(けんいんせい)脱毛症」という長時間髪をきつく結んでいることで頭皮の一部に負担がかかり、抜け毛となる脱毛症もあります。ポニーテール脱毛症と呼ばれることもあり、バレエで髪を結ぶヘアスタイルをしたり、日本髪を長期間結い続けていたりすると、頭皮に負担がかかり、薄毛になりやすくなります。分け目を同じにしない、必要なとき以外は強く結ばない、シャンプーを丁寧にするなどの工夫も大切です。
「円形脱毛症」は局所的に髪が抜ける症状です。自己免疫疾患のひとつであり、一般的に言われる“ストレス”のせいではありません。この円形脱毛症に関しては、医療機関で健康保険の範囲内でも治療できます。
「脂漏性湿疹」「ひこう性湿疹」など頭皮にできた炎症や湿疹によって、抜け毛が起こることもあります。
また、抜け毛の背後に病気が隠れている場合もあります。女性に多い甲状腺機能の異常、鉄欠乏性貧血、卵巣嚢腫、多嚢胞性卵巣など婦人科系の病気のために、抜け毛や薄毛を招くこともあるので、注意が必要です。
イラスト/大内郁美 企画・構成・取材・文/増田美加