近年、スポーツ選手をはじめ著名人からも体験者が続出している「眼内コンタクトレンズ(以下【ICL】)」。「本当に視力がよくなるの?」「目を切るって痛くないの?」「レーシックとはどう違うの?」などなど、ICLを検討するうえで気になる疑問について、眼のスペシャリストに答えていただきました。
- Q1. ICLはどんな手術?
- A1. 眼の中に特殊なレンズを挿入して視力を矯正する手術です。
- Q2. ICLはどうやって眼の中にレンズを入れるの?
- A2. 角膜を2.5mm切開し、折りたたまれた状態のレンズを眼の中に挿入します。
- Q3. ICLとレーシックはどう違う?
- A3. ICLは眼の中にレンズを挿入する治療法、レーシックは眼の表面を削る治療法です。
- Q4. ICLで入れるレンズはどんなもの?
- A4. 日本で使用されている主要なレンズは3種類あり、「素材」「光学径(実際にものを見る部分)」「全体のサイズ」などの特徴が異なります。
- Q5. ICLで視力はどのくらい回復する?
- A5. 術後1.0〜1.5になるように調整します。
- Q6. ICLは誰でも受けられる?(ICLが向かない人は?)
- A6. 視力や眼の形状によっては難しい場合があります。
- Q7. ICLのレンズの種類によって、安全性や見え方は変わる?
- A7. レンズの種類によって安全性や手術方法、術後の見え方が大きく変わることはありません。
- Q8. ICLのレンズは何年で交換が必要?
- A8. 基本的にお手入れも交換も不要で、半永久的に効果が継続します。
- Q9. ICLの手術は怖くて痛い?
- A9. 手術中の視界はぼんやりとし、麻酔や切開による痛みはほとんどありません。
- Q10. ICLでドライアイになる?
- A10. ICL手術がドライアイの原因になることはありません。
- Q11. ICLに失明や視力低下のリスクはある?
- A11. ICLによって視力が下がった・失明したという前例はありません。
- Q12. ICLを受けると生活は制限される?
- A12. 術後1カ月間はさまざまな禁止事項があります。
- Q13. ICLで目が大きくなる?
- A13. 外見で他人に気づかれることはありません。
- Q14. ICLの費用相場はどのくらい?
- A14. 両眼で60万円、乱視矯正を加えると70万円前後と言われています。
- Q15. ICLは保険適用?
- A15. 保険適用外で、全額自己負担が必要な治療です。
- Q16. ICLを受けるクリニック選びのポイントは?
- A16. 実際に手術をする医師の執刀実績をチェックするとよいでしょう。
冨田実アイクリニック銀座院長
愛知医科大学医学部卒業。関西医科大学大学院終了後、米国ハーバード大学眼科を経て、2005年より品川近視クリニックに入職。2007年には最高診療責任者に就任し、100名を超える屈折矯正専門チームを率いながら、自ら10万件以上のレーシック手術を執刀。2014年に冨田実アイクリニック銀座を開院。海外での講演や論文発表など多数。
医学博士
日本眼科学会認定眼科専門医
アメリカ眼科学会役員
温州医科大学眼科 眼科客員教授
河北省医科大学 眼科客員教授
Q1. ICLはどんな手術?
A1. 眼の中に特殊なレンズを挿入して視力を矯正する手術です。
ICLはImplantable Contact Lens(=埋め込めるコンタクトレンズ)の略称で、フェイキック手術と呼ばれることもあります。 眼には、ピントを調節する役割を持つ水晶体というパーツがあり、この前面に人工のレンズを挿入することで、眼鏡やコンタクトレンズを装着せずとも良好な視力を得ることが期待できます。

Q2. ICLはどうやって眼の中にレンズを入れるの?
A2. 角膜を2.5mm切開し、折りたたまれた状態のレンズを眼の中に挿入します。
手術の流れは以下の通りです。
①点眼で眼を消毒・麻酔
②専用器具で上下のまぶたを開いたままで固定
③角膜(黒目と白目の境目)を2.5mm切開
④折りたたまれた状態のレンズを眼の中に挿入
⑤眼の中でレンズを広げて固定
切った傷は自然に閉じるので縫合や抜糸の必要はなく、入院も不要です。 手術台の上にいる時間は、両眼の手術で30分が目安です。
Q3. ICLとレーシックはどう違う?

A3. ICLは眼の中にレンズを挿入する治療法、レーシックは眼の表面を削る治療法です。
視力矯正の治療法としてよく知られているレーシックは、黒目のいちばん外側にある「角膜」というパーツをレーザーで削って変形させることで視力を矯正します。
近視や乱視が強いと、たくさん角膜を削らなくてはならないので、
・矯正できる度数に限界がある
・不正乱視が増加する可能性がある
・再手術を受けられる回数に限りがある
など、いくつかのリスクがあります。
角膜を削ることと、眼の中にレンズを入れること、どちらも不安に思われる方はいらっしゃると思います。よく調べ、自分の目に適していて、納得のいくほうを選ぶとよいと思います。
Q4. ICLで入れるレンズはどんなもの?
A4. 日本で使用されている主要なレンズは3種類あり、「素材」「光学径(実際にものを見る部分)」「全体のサイズ」などの特徴が異なります。
国内で使用されているレンズには ①プレミアム ICL、②EVO+ICL、③アイクリルレンズの3種類があります。それぞれ特徴が異なりますので、自分が安心できるものを選ぶのがよいでしょう。
①プレミアム ICL
製造:EyeOL社(イギリス)
素材:ハイブリッドアクリル
光学径:6.6mm
サイズ:13サイズ
特徴:2014年に登場した最新のレンズ。光学径が6.6mmと3つのレンズの中ではいちばん広く、眼の手術後に懸念されるハロー・グレア(※光の周囲がリング状にぼんやりとにじんだ状態に見える現象)の発生リスクが低い。サイズ展開が13段階と豊富なので、目の形状に最適で安定性の高いレンズをオーダーメイドで作ることができる。白内障・緑内障の予防機能のほか、遠視や老眼にも対応可能。

プレミアムICL(イギリス)。レンズに開けられた7つの穴によって、眼の中の液体(=房水・ぼうすい)の流れをよくして白内障や緑内障の発生も抑制する効果もプラス。
②EVO+ICL
製造:STAAR SURGICAL社(アメリカ)
素材:コラマー
光学径:6.1mm
サイズ:6サイズ
特徴:1993年にヨーロッパで初めて採用された、最も歴史の古いICLレンズ。日本では2010年に厚生労働省が認可して以降、国内唯一の薬事承認レンズとして普及したため、すでに長期的な安全性が確認されている。既製品のみのため、在庫があれば短い待ち時間で手術を受けられる。

EVO+ICL(アメリカ)。唯一のコラマーでできたレンズ。レンズの光学径が6.1mmに拡大リニューアルされたことで、以前よりも手術後のハロー・グレアの発生が抑えられるように。
③アイクリルレンズ
製造:WEYEZER社(スイス)
素材:ハイブリッドアクリル
光学径:4.65〜5.5mm
サイズ:3サイズ
特徴:国内では症例数の少ないものの、EUにおける安全性の基準を満たしていることを証明する「CEマーク」は取得済みで、世界20カ国以上で使用されているレンズ。

アイクリルレンズ(スイス)。素材はプレミアムICLレンズと同じであるものの、レンズの光学径がやや小さく、ほかの二つのレンズよりもハロー・グレアが発生する可能性が高め。
Q5. ICLで視力はどのくらい回復する?
A5. 術後1.0〜1.5になるように調整します。
ICLでの視力矯正範囲は、レンズの種類によって差があります。
・プレミアムICL:-1.0D~-30.0D(乱視あり......+0.5D~+10.0D)、遠視対応レンズあり。
・EVO+ICL:-3.0D~-16.0D(乱視あり......+1.0D~+4.0D)
・アイクリルレンズ:-0.5D~-23.0D(乱視あり......+0.5D~+10.0D)、遠視対応レンズあり。
目の状態によって異なりますが、主に術後の視力が1.0〜1.5になるようにレンズで調整します。事前の適応検査で、術後の視力の目安も確認することができます。
Q6. ICLは誰でも受けられる?(ICLが向かない人は?)
A6. 視力や眼の形状によっては難しい場合があります。
そもそも眼内にレンズの入るスペースがない方や、白内障などの眼疾患がある方、斜視・弱視が原因でレンズの挿入では視力の回復が見込めない方は、ICL不適応となるケースがあります。これらは、いずれも事前の適応検査で判断されます。
また、術後に抗生物質の服薬と点眼があるので、妊娠中の方は手術ができません。授乳中である場合は、ミルクへ置き換えることができるかなど、受診のタイミングを検討する必要があります。
Q7. ICLのレンズの種類によって、安全性や見え方は変わる?
A7. レンズの種類によって安全性や手術方法、術後の見え方が大きく変わることはありません。
日本で唯一薬事承認されている②EVO+ICLは、コラーゲン由来の「コラマー」という素材でできています。発売年の1997年当時は、まだ柔らかいレンズをつくる技術が未発達だったため、この「コラマー」製レンズが唯一のICL専用レンズとして流通してきました。
その後、①プレミアム ICLや③アイクリルレンズなど「ハイブリッドアクリル」でつくられたレンズが登場しました。「ハイブリッドアクリル」製レンズは、ICLにおいては後発ですが、実はICLより歴史が古く患者数も多い白内障の手術で使われているレンズも同じハイブリッドアクリル製。素材の安全性はこちらもすでに充分証明されています。
どのレンズで手術を受けても術後の視力や経過に大きな差がないことが、海外の学会や医学誌で報告されています。性能や特徴を踏まえ、自分に合ったレンズを選びましょう。クリニックによって採用しているレンズが異なるので、希望がある場合は、事前に問い合わせてみるのがよいと思います。
Q8. ICLのレンズは何年で交換が必要?
A8. 基本的にお手入れも交換も不要で、半永久的に効果が継続します。
ICLのレンズはどれも汚れが付着しにくいよう構造が工夫されており、特別なお手入れをすることなく、長期的に安定した視力を保つことができます。
「どうしても慣れない」という場合にはレンズを取り出すこともできますが、年齢を重ねて老眼が進行したので老眼用のICLレンズに交換する、または白内障などの眼の病気が見つかって手術を受ける、という場合を除き、一度入れたレンズを取り出すことは非常に稀です。
Q9. ICLの手術は怖くて痛い?

A9. 手術中の視界はぼんやりとし、麻酔や切開による痛みはほとんどありません。
ICL手術は、点眼で瞳孔を開いて目に最大限の光が入る状態にして行うので、手術中は照明によって視界はまぶしさでぼんやりとし、メスなどの器具はもちろん、執刀医の顔もほとんど見えません。レンズの位置を調整する際に眼球をグイグイと押される感覚はありますが、麻酔も点眼で行うので、針を刺されたり、メスで切られたりする痛みはほとんどありません。
リラックス効果のある笑気麻酔を追加で選択できるクリニックもありますので、不安に思われる場合は、担当医に相談してみるとよいでしょう。
Q10. ICLでドライアイになる?
A10. ICL手術がドライアイの原因になることはありません。
ICL手術は、切開創が小さいので角膜への影響が少なく、もともとの涙の分泌量が変わることはありません。コンタクトの使用によるドライアイがある方は、ICL手術によってむしろ改善が期待できます。
Q11. ICLに失明や視力低下のリスクはある?
A11. ICLによって視力が下がった・失明したという前例はありません。
これまでにICL手術で失明したという報告はありませんが、手術後に感染症が起こった場合は、失明に至る可能性もゼロではありません。そのため、手術室の環境や器具の滅菌・消毒など感染症の対策は厳しく管理されています。帰宅後は患者さんご自身にも感染症予防に取り組んでもらう必要がありますので、術後の注意事項はしっかり守り、定期検診は必ず受診しましょう。
また、ICLは近視を「予防」する手術ではないので、術後に目を酷使してしまうと、新たな近視が進行する恐れがあります。
Q12. ICLを受けると生活は制限される?

A12. 術後1カ月間はさまざまな禁止事項があります。
クリニックによって期間は異なりますが、手術直後は感染症予防のため、入浴やメイク、運動、デジタル機器の利用など、いくつかの注意事項があります。特に手術当日〜術後1週間は、つねに眼の清潔を心がけましょう。
▼主な注意事項
・テレビ/読書/PC作業......手術翌日から、目が疲れない程度ならOK
・入浴/洗髪/洗顔......術後1週間NG(肩から下へのシャワー、濡れたタオルで顔を拭くのは可)
・アルコール......術後1週間NG
・運転......術後1週間NG
・メイク......術後1週間NG
・運動......軽い運動なら術後2週間後からOK
・アイプチ/つけまつげ/マツエク/まつげパーマ......術後1カ月間NG
・サウナ/温泉/海外旅行......術後1カ月間NG
Q13. ICLで目が大きくなる?
A13. 外見で他人に気づかれることはありません。
「ICLレンズを入れると黒目が大きくなる」「暗いところで眼が光る」といった噂がありますが、ICLは黒目の範囲内にレンズを固定するもので、手術痕なども残りませんので、外見上はなんら変化が起こりません。術後の検診で問題がなければ、市販の目薬やカラーコンタクトなども利用できます。
Q14. ICLの費用相場はどのくらい?
A14. 両眼で60万円、乱視矯正を加えると70万円前後と言われています。
ICLは自由診療のため、手術前の適応検査や、手術、処方薬、術後検診などにかかる費用はクリニックによって大きく異なります。 一般的な相場は両眼で総額50〜60万円、乱視矯正を加えると70万円前後と言われており、強い度数での矯正や、乱視、老眼などの治療が付随するとより高額になる傾向にあります。
Q15. ICLは保険適用?
A15. 保険適用外で、全額自己負担が必要な治療です。
公的保険、高額療養費制度、いずれも対象外となります。ただし、医療費控除は対象となりますので、確定申告の際に申請することで所得税の還付を受けることはできます。申請には領収書が必要になりますので、受診するクリニックで受け取ったら大切に保管しておきましょう。
また、保険会社によってはICL手術を給付金受け取りの対象としている場合があります。民間の生命保険に加入されている方は、加入している保険会社へ確認してみるとよいでしょう。
Q16. ICLを受けるクリニック選びのポイントは?

A16. 実際に手術をする医師の執刀実績をチェックするとよいでしょう。
ICLレンズを販売する各社がそれぞれ独自のライセンスを制定していますが、それ以上に重要なのが医師の執刀実績です。眼というデリケートな部位の手術ですから、レーシックやICLなど屈折矯正の臨床経験が豊富で、さまざまな眼の状態に精通した医師であれば、万が一トラブルが生じた際も心強いですよね。
なかには、著名な先生が在籍していても、実際に手術をするのは別の医師、というケースも見受けられます。自分の目を預ける執刀医がどんな先生なのか、ぜひ事前に確認しておきましょう。
構成・取材・文/月島華子 イラスト/大内郁美