毎日のように「免疫」という言葉が聞かれるようになった昨今。細菌やウイルスの脅威から体を守るだけでなく、がん細胞を殺す役割があるなど、「免疫」は、人間が生きていく上で必要不可欠なものといえます。食品メーカーの『明治』が発表した研究結果によると、ヨーグルトが発酵する過程で乳酸菌が生み出す“ある成分”が、免疫のバランスを保つのに貢献することがわかったそう。それだけでなく、野菜の栄養吸収率を高めるなど、さまざまなうれしい効果が発見されました。冬にかけてますます健康管理を意識したい今、ヨーグルトと健康の関係について注目です!

研究発表会・集合写真

免疫機能を高める栄養素「EPS」とは?

そもそも免疫には、体内に入ってきたウイルスなどに、いち早く反応して退治する「自然免疫」と、特定の病原体や異常のある細胞などに反応して退治し、再び同じ病気にかからないようにする「獲得免疫」の二種類があります。

免疫力・栄養吸収率をUP! ヨーグルトのねばり成分「EPS」の新たな力とは?_2

『明治』と共同研究を行うフランスのパスツール研究所は、ヨーグルトが発酵する過程で乳酸菌がつくりだすねばり成分「EPS(エクソポリサッカライド)」が、感染症への抵抗力を高めることを発見しました。ほぼすべてのヨーグルトにEPSは存在しますが、特に、この「乳酸菌1073R-1株(通称R-1株)」が発酵する過程でつくられるEPSは、「自然免疫」と「獲得免疫」のどちらの免疫をも活性化することができるんだそう。

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インフルエンザの予防にも効果を実証

順天堂大学大学院、医学研究科の竹田和由准教授によると、これからはやり出しそうなインフルエンザの予防にも、「乳酸菌1073R-1株(通称R-1株)」のEPSは効果があることが発見されているとのこと。

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「ここ2年程、コロナ禍で手洗い・うがいの習慣が定着したことにより、インフルエンザがそこまで流行しませんでした。そのため、インフルエンザに対する経験値が薄れており、今年は再び世界的にインフルエンザが流行する可能性が高いといわれています。『乳酸菌1073R-1株(通称R-1株)』のEPSを含むヨーグルトを食べることで、インフルエンザも予防できることが明らかになっているため、1日1カップを目安に食べることをおすすめします。たくさんの量を食べるというよりは、2週間、3週間、継続してとることが大切です」(竹田先生)

野菜に含まれる栄養素の吸収を高める

EPSの効果は、免疫に対してだけではありません。野菜に含まれる健康に有益な栄養素「カロテノイド」の吸収を促進する働きがあることも、研究によって明らかになりました。

健康に有益な栄養素「カロテノイド」について

京都大学大学院、農学研究科の菅原達也教授によると、これらのカロテノイドは、生野菜だけでは十分に体内に吸収されないと言います。

「カロテノイドには、人参ならβカロテン、トマトならリコピン、ほうれんそうならルテイン、などの栄養が挙げられますが、例えば人参に含まれるβカロテンの場合、生で食べるとわずか10%しか吸収されないことがわかっています。一方で、油と一緒に摂取すれば、カロテノイドの吸収率は50〜70%まで上がります」(菅原先生)

野菜は生で食べたほうが健康によさそうなイメージがありますが、カロテノイドの場合はそうではないのです。しかし、油のとりすぎも気になるところ…。そこで、ヨーグルトが役に立つのです。

無脂肪ヨーグルトと野菜を一緒に食べた場合の吸収率

ヨーグルトによる野菜の栄養素吸収促進の効果があるとわかったのは、『明治』の今回の研究が世界初だそう*。

「一度にたくさんの野菜を食べなくとも、効率的に栄養が摂取できるので、食の細いお子さんや高齢者の方にも取り入れていただきたい習慣です」(菅原先生)
*2L. delbrueckiisubsp. bulgaricus OLL1251/S. thermophilus OLS3290が産み出すEPSの乳酸菌のEPS

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「腸管バリア」を強化してあらゆる病気から体を守る

さらに、慶應義塾大学医学部、腎臓内分泌代謝内科の伊藤裕教授によると、乳酸菌には体の免疫機能を司る“腸のバリア機能”が発見されたそう。

「腸は体内にありながら、実はその管の内側は外界と同じように異物にあふれていて、“体の外”と同じような状態です。イメージするなら、ちくわのような状態。ちくわの中心の空洞って、内側にありますが、外の空気に接していますよね。それと同じなんです」

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「そこで外界から悪いものを通さないようにする機能『腸管バリア』が働きます。腸の中には、腸管という長い管があって、非常に小さい細胞がつながってできています。その細胞をしっかりとくっつけているのが、『タイトジャンクション』という連結装置です。それが壊れてくると、湿疹ができたり、アレルギーを起こすものが体内に侵入して、アトピーが起こってしまったりします。このタイトジャンクションは、加齢やストレス、暴飲暴食によって緩み、体の中に悪いものが入り、いろいろな病気を引き起こす可能性が」(伊藤先生)

乳酸菌には、腸内のバリア機能を改善する効果があるため、まさに、「お腹のマスク」のような役割を果たしてくれるんです。

腸管バリアの3つの主な機能

本格的に寒くなってくるこれからの季節。ヨーグルトをぜひセルフケアの選択肢に入れてみるのはいかがでしょうか?

構成・文/長岡絢子 編集/種谷美波(yoi)