健康や美容にいいと話題の「糖質制限」。しかし、自己流で取り組んだところ、逆に体調不良になってしまったり、効果を感じられなかったりという人もいるようです。厳しく制限したものの、やめたとたんにリバウンドして元どおりになってしまった…というケースも少なくありません。

そこでおすすめしたいのが、無理なく日常に取り入れられる“ゆるやかな糖質制限”「ロカボ」です。提唱者で糖尿病専門医の山田悟先生は、「ロカボ」を始めてから体重が10kg減。10年以上、その体重をキープしつづけているといいます。具体的なやり方や、自分のライフスタイルや好みに合わせた“継続できる”取り組み方をアドバイスいただきました!

山田 悟

糖尿病専門医、総合内科専門医、医学博士

山田 悟

北里大学北里研究所病院副院長・糖尿病センター長。食・楽・健康協会 代表理事。糖尿病専門医として多くの患者と接するなかで、カロリー制限中心の食事療法では、食べる喜びが損なわれている事実に直面。ゆるやかな糖質制限「ロカボ」を提唱。啓発、普及のために講演や著作活動も積極的に行う。著書に『糖質制限の真実』(幻冬舎新書)、『北里研究所病院 Dr.山田流「糖質制限」料理教室』(主婦と生活社)などがある。

逆に体調不良になることも…。間違った「糖質制限」とは?

糖質制限をイメージしたイラスト

「糖質制限」「糖質オフ」がブームになったことで、なかにはその内容をよく理解しないままに取り組んで、体調を崩してしまったという人もいるようです。「体調不良は、糖質を控えたものの、タンパク質や脂質をしっかり食べなかったために、カロリー不足になってしまったからという場合が多いようです」と山田先生。

「そうした誤った糖質制限を続け、体重が減ったと喜んでいるうちに、栄養失調といわれるような状況にまで至ってしまえば、だるさや倦怠感は起こって当然です。また、便秘を訴える人も少なくないようです。これは、糖質が高めな穀類や根菜類を制限するなかで、食物繊維が不足してしまったことが原因だと考えられます。代わりに葉もの野菜を増やすなど、食物繊維を積極的に摂取する努力も必要です。

私は、糖質制限の際には食物繊維もしっかりとることをすすめています。例えばコンビニエンスストア『ローソン』が出している『ブランパン』は、1パックの糖質が4.4g(1パック2個入りの場合)しかないにもかかわらず、食物繊維は10g以上。おまけにタンパク質も10g以上入っています。これにバターをたっぷりのせれば油脂もしっかり摂取できます。

極端に糖質を制限すると、どうしても食べられるものが限られてしまいますが、こうした食品も活用しながらゆるやかに糖質制限することが、体調不良を避け、おいしく楽しい食生活を実現させるためのポイントです」

主食だけじゃない、野菜や果物の糖に注意!

「糖質制限を始めて『逆に脂肪がついて太ってしまった』という人は、おそらく、ご飯やパンなどの主食を抜いて、代わりに果物やイモ類を食べているのではないでしょうか。一見ヘルシーな感じがしますが、どちらも糖質をしっかり含んでいます。とくに果物に含まれる果糖は中性脂肪を合成しやすく、注意が必要です。

食材を選ぶ際に覚えておいてほしいのは、イモ類は糖質の含有量が多く、糖尿病や肥満症治療の世界では、野菜ではなく主食の扱いだということです。一方で、にんじんや玉ねぎなど、加熱すると甘くなる根菜系の野菜にも糖質は含まれています。例えば、サラダも、根菜(にんじん、玉ねぎ、れんこんなど)や、フルーツトマトだけに偏ってしまうと、思わぬ高糖質サラダができ上がってしまう可能性が。また、糖類をたっぷり含んだドレッシングにも注意が必要です。

ただ、そこまで気にしていたら生活できません。野菜は、“彩りよく、好き嫌いなく、満遍なく”1食120gで食べるようにしてください。それでも糖質量15g程度にしかなりません。主食を抜くとか、主食の糖質量を20gに押さえておきさえすれば、糖質をほとんど含有しない肉や魚に加え、野菜だってお腹いっぱいを意識して食べても、1食の糖質量は40gにならないのです。

ちなみに、我が家では、サニーレタス、ブロッコリー、チンゲン菜、もやし、アボカド、きゅうり、オクラなどを多用しています。もちろん、120gの野菜を食べきれなかったり、毎回たくさんの種類の野菜を用意できないこともあるでしょう。それはそれで仕方ありません。まずは意識することが大切です」(山田先生)

サラダのイメージ写真

日常に取り入れるなら、「ロカボ」がおすすめ

体調不良などの失敗を防ぐために、山田先生はゆるやかな糖質制限「ロカボ」をすすめています。

「『糖質制限』は英語で『 low-carbohydrate(ローカーボハイドレート)』。これを略して『ロカボ』としたのですが、『老化防止』という意味も込めています。

普通、私たちは、1食あたり90〜100gくらいの糖質をとっています。つまり1日300g程度ですね。“ゆるやかな糖質制限”ロカボでは、1食20g以上40g以下とし、プラスしておやつやお酒などの嗜好品で、1日に10gの糖質量を提案しています。1日70〜130gを目指すのです。これを1食20g以下にしてしまうと、極端に糖質を制限することとなり、食べられるものがグッと減ってしまうだけでなく、我慢することによるストレスも増えてしまう。途中で挫折してリバウンドする原因にもなりやすいですし、先ほどお伝えしたように体調不良にもなりかねません。

ロカボは、豊かな食生活を楽しめていることが条件です。厳密にこの数字どおりの食事ができなくても、糖尿病や肥満が改善され、楽しい食生活を送れているというなら、それでもいいと思うんです。食事を楽しみながら糖質制限のメリットをちゃんと得られているということ、できる限り我慢をしないことが、糖質制限を上手に続けるポイントなのです」(山田先生)

毎日の食事を「ロカボ」にするためのヒント

毎日の食事を「ロカボ」にするにはどうしたらいいのでしょうか? 10年以上「ロカボ」生活を送っている山田先生に、1日のメニューの例を挙げてもらいました!

「ロカボでは、とにかく1食の糖質を20~40g以下に収められれば、何を食べるかは自由です。大切なのは、工夫すること。自分が食べたいものに優先順位をつけて、そのために何を調整すればいいのか考えましょう。初めは面倒に感じるかもしれませんが、自分なりの食べ方が確立できれば、あとは続けるだけです」(山田先生)

ロカボの解説

●朝食は1日のなかでも最も糖質を控えめに!

「朝食は、いちばん食後の血糖値が上がりやすいので、3食のなかでも糖質を控えめにするように心がけましょう。私がよく食べるメニューはポトフです。作り方は簡単。100gくらいの肉の塊と、キャベツ、にんじん、玉ねぎを一緒に煮込みます。糖質が高いじゃがいもは避けてください。味つけは、食べる直前にパラリと塩を振るだけ。あとはオリーブオイルをたっぷりと垂らします。これで糖質は10g程度。濃い味つけはどうしてもご飯やパンを食べたくなってしまうので、できるだけ素材の味を楽しむのがコツ。自然と塩分も控えることができますよ」

●昼食は、肉・魚のおかずをメインに

「昼食は外食になる人も多いと思いますが、おかずはお肉やお魚をメインに、主食の量を少なめに調整するのがコツです。『大戸屋』のような定食屋なら、ライス抜きも頼むことができます。それに唐揚げや、冷奴などの小鉢を1品か2品プラスしてもいいですね。私は社員食堂を利用することもよくあるのですが、ある程度融通が利くので、ご飯は抜き、代わりに低糖質のパンを持ち込んだりすることもあります」

【主食の糖質量の目安】


・ご飯茶碗軽く1膳 55g
・おにぎり1個 40g
・うどん1食 56g
・食パン6枚切り1枚 27g
・食パン8枚切り1枚 20g

「おかずと一緒に食べるなら、ご飯なら半膳に、おにぎりも半分にするのがいいでしょう。パンは8枚切りを選ぶのがいいですね」

●夕食はフレンチがおすすめ。主食を抜けばアルコールもOK

「少し豪華なディナーやお酒を楽しみたいときは、フレンチがおすすめ。意外かもしれませんが、フレンチのメニューは基本的に砂糖を使わないので安心です。フランスパンは、3cmくらいの厚さ一切れで糖質が20g程度あるので、血糖値の急上昇を防ぐためにも最初から食べず、前菜、スープ、メインのあとに食べるのがいいでしょう。また、甘口はNGですが、辛口のワインだったらほとんど糖質がないので楽しめます。ちなみに、主食を完全に抜けば、日本酒なら2合くらいまで、ビールも500mlくらいまでなら問題ありません。家で飲むなら『糖質ゼロ』のお酒を選びたいですね」

●おやつやデザートは糖質10gまでならOK! 低糖質スイーツを頼って

ロカボでは、お菓子やデザート、お酒などの嗜好品での糖質を1日10gまでとしています。小腹がすいたときの間食には、ナッツやヨーグルトなどがおすすめですが、私たちはどうしても甘いものを欲します。甘いものを食べたくなったら、我慢せずに人工甘味料や低糖質のスイーツに頼りましょう。例えばスーパーやコンビニでも買える『モンテール』の低糖質スイーツは、シュークリームやエクレア、どら焼きなどがあり、私も食後のデザートによくいただいています。

夜中にふと甘いものを食べたくなることもありますよね。そんなとき、わざわざコンビニに買いに行くというのも大変です。自宅に低糖質スイーツを常にストックし、毎日食べているということも、ストレスのない食生活のためには大切だと思っています」

糖質は最後に。1食にまとめてはNG! 心がけたい食事のルール

厳しいルールのない「ロカボ」ですが、食事の仕方をひと工夫すると、より健康的で痩せやすい体を目指せるといいます。「1食あたり20~40g以下で糖質をコントロールしたとしても、ご飯やパン、麺類などの単品食いをしてしまうと、一気に血糖値を上げてしまうことに。食事では、必ず肉や魚などのタンパク質、油、そして野菜などの食物繊維を一緒にとるようにしましょう。さらに、大切なのが食べる順番。タンパク質や油、食物繊維は血糖値の急上昇を抑えてくれるので、先にそれらを食べ、糖質が多く含まれる主食はいちばん最後にします。

また、朝食を抜いたからといって、昼食にその分の糖質量をあてがってはいけません。毎食後の血糖値を上げすぎないことが重要だからです。糖質量を1日70〜130gにすればOKと考えるのではなく、1食あたりの糖質量をしっかりコントロールするようにしましょう」(山田先生)

バランスの良い食事のイメージ写真

「ロカボ」で、おいしく楽しく糖質制限を続けよう

糖質制限というと、つらくて我慢の多いものだとイメージしていた人も多いかもしれませんが、山田先生は、「おいしく楽しく食べる」ことが最も大切なことだと言います。

「自分の体は、今日食べているもので決まります。不健康な食事を続ければ、当然不調を招いてしまうことになります。とはいえ食事は毎日のことですから、我慢は禁物。工夫しながら楽しく続けてこそ意味があります。人生100年といわれる今、この先長く健康に生活していくためにも、日々の食生活を見直し、ぜひロカボの習慣を取り入れてみてください。大切なことは賢い、あるいは上手な不摂生です。我慢して健康を目指すのではなく、工夫して楽しい食生活を維持したままで健康を目指してください」(山田先生)

体重が気になっている人や将来の健康が不安な人は、一度、毎食の糖質量をチェックしてみては。暴飲暴食が増えがちな年末年始、この機会に、ぜひ自分に合った「ロカボ」生活を始めてみましょう!

構成・文/秦レンナ イラスト/ナガタニサキ  Photo by Ekaterina Smirnova, istetiana / Moment