カリフォルニアに暮らすZ世代のライター、竹田ダニエルさん。この連載では、アメリカのZ世代的価値観と「心・体・性」にまつわるトレンドワードを切り口に、新しい世界が広がる内容をお届けします。第3回のトピックは、「友情」について。必要以上に気を遣ったり自分を取り繕うことなく、友達とよりよい関係を築くにはどうしたらいいのでしょうか? ダニエルさんと一緒に考えていきます。

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竹田ダニエル

ライター

竹田ダニエル

1997年生まれ、カリフォルニア出身、在住。「音楽と社会」を結びつける活動を行い、日本と海外のアーティストをつなげるエージェントとしても活躍する。2022年11月には、文芸誌『群像』での連載をまとめた初の著書『世界と私のA to Z』を刊行。そのほか、現在も多くのメディアで執筆中。

—— Vol.3 "Venting" ——

相談や愚痴が“傲慢”と取られることもある、アメリカの個人主義社会

――yoiで友達に関するお悩みを募集すると、「友達になかなか心を開けない」「自分をさらけ出せない」という声が多かったんです。こういった声を聞いて、ダニエルさんはどう感じますか?

ダニエルさん:日本は“建前社会”という一面もあるから、なかなか本音をさらけだしにくいと言われていますよね。逆に、一度腹を割って話した後は、深い話ができる関係性に発展しやすいのではないでしょうか。一方アメリカでは、言葉を尽くして自分の想いを一生懸命伝えようとする人が少ない印象があります。仲が良くても表層的な会話ばかりになってしまったり…。

――それはどうしてでしょうか?

ダニエルさん:アメリカでは幼い頃から自己主張することを求められます。なぜなら、多様性に富んだ移民国家だから。文化や宗教、価値観などバックグラウンドが異なる人々が大勢暮らしているので、自分の考えは口に出して相手に伝えないと理解してもらえない。そういう社会に生きていると、誰かに質問されたら“深く考える前にとりあえず何かを言おうとする癖”がつきやすいんです。

その考えが行きすぎると、「もっと人と違う意見を言わなければいけない」とか、「いかに突拍子もない発言するか」とばかりに終始する人も出てきます。そのため、“大勢の中のひと言”では目立ったとしても、一対一で深く話すと意外と言葉に重みがないと感じることもあります。

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飛行機から見えるロサンゼルスのビーチと夕焼け/Photo by Daniel Takeda

――ハッキリと意見を伝えることと、そこに内容が伴っているかどうかは、別なんですね。

ダニエルさん:そうですね。あとは友達と真剣に話し合ってもしょうがないと考えている人や、本音で話せるのはTikTokだけという人がいたり。また、前回の連載で議題にも上がりましたが、悩みを打ち明けようとすると、「そういう話はセラピストに話して」と言われることもあります。だから、友達にこそ本音が打ち明けづらいという側面も。



さらに、個人主義が故に、友達に悩みを相談したり助言を求めたりする人は「傲慢だ」と捉えられることがあります。愚痴を言うことも、アメリカでは「ベンディング」といってネガティブなことととらえられたり。相手の時間と労力を奪い、精神苦痛を与え、ストレスをかけるからです。

でも、本来友達は相手に見返りを求めずに成り立つ関係のはず。損得勘定抜きに、友達が困っていたら助ける。日本だったら「お互いさま」で済むことも、アメリカの場合はそういう考えはほとんどないと感じます。

――バウンダリー(自分と相手の境界線)の意識が、友人関係においてもしっかりとあるんですね。

ダニエルさん:そうですね。とはいえ、悩みをすべて打ち明けたり自分の全部を知ってもったりすることが“真の友達”かと言われればそうではない。例えばどれだけ長く一緒にいる友人でも、自分と考えや価値観がすべて合うということはないし、今は気が合っていても、フェーズや環境の変化で考え方も変わっていく。だから、表層的な話になることをあまり気にしなくてもいいのかなと思います。

人間としての価値を、「生産性が高い」「人脈がある」と結び付けない

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韓国のお店の入り口/Photo by Daniel Takeda

――「自分の意見を受け入れてもらえるかわからず、だんだん自信がなくなってしまう」という悩みや、すぐに「すみません」と謝ってしまうという声も聞かれました。

ダニエルさん:アメリカだとこういう悩みを抱えている人は少ない気がします。「謝っちゃダメ」と言われることが多いので、たとえば自分が遅刻したとしても「待たせてごめん」ではなく、「待っててくれてありがとう」と言う。

自分の発言を受け入れてもらえないと感じてしまうのは、自分だけに非があるのではなく、相手が聞こうとする態度を持っていないことが問題だと思います。だから、自分の意見に価値がないという思い込みをまず捨ててみてほしい。相手から否定されて「すみません」と謝っても、自分の意見は聞いてもらえるようにはならないから。

――根底には、「人に嫌われたくない」という思いがあるかもしれないですよね。特に今は、SNSを開けば日常的に誹謗中傷の言葉が飛び交っているし、人から嫌われることに過剰反応してしまっているのかなと。

ダニエルさん:それはよくわかります。私もネガティブな考えを持ってしまいそうになったら、ジェニファー・ローレンスの「私は全員に好かれているわけではないけれど、私も全員が大事なわけじゃない」という言葉を思い出します。つまり、自分にとって大事な人にだけ理解されていたらいいんです。話を聞こうとしないのは相手が自分の価値をわかっていないということ。もちろん、自分の意見に価値があると思えるぐらいの根拠は必要ですが、自分を低く見積もらないことが大切だと思います。

――「自分の価値」ですか…。

ダニエルさん:日本では「自分は大したことない」と謙ったり、自虐的な振る舞いをすることで相手を尊重しようとする人が多いので、特に女性は「自分には価値がない」と思わされている人が多い気がします。一方、アメリカの場合は「あなたは特別な存在なんだよ」と言われて育つ人が多いので、自尊心が低い人はあまりいないように感じます。

そもそも人間の価値とは何かを考えると、どうしても資本主義と結び付いてしまうんです。仕事の場面を考えるとわかりやすいですが、“生産性が高い”とか“人脈がある”とか、逆にミスすると自分は役に立たないダメな人間なんだと落ち込んだり。そうした“ジャッジ”を友人関係や自らにまで当てはめてしまっていることで、“価値があるかないか”で判断してしまうのかもしれません。

――相手にとって意味がある存在にならなくてはいけないと思い込んでしまう。

ダニエルさん:そうそう。でも本音を言って受け入れてもらえないんだったら、その人と無理に一緒にいなくてもいいんです。「私なんて」と自分を卑下していたら、自分が虐げられていることにも気づきませんから。

「モヤモヤ」の感情を言語化することで、自分の発言に自信がつく

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サンタモニカビーチの海/Photo by Daniel Takeda

――相手に気を遣うがあまり、抽象的で曖昧な言葉を使って遠回しに伝える配慮をする人も多いですよね。

ダニエルさん
:だからこそ、相手を傷つけずに曖昧な関係を保てるというのはあると思います。ただ、そうした態度を「自分自身の感情」に対して向けるのはどうだろう?と思います。自分が感じた違和感や不快感、怒りの原因や背景にたどり着けなくなってしまうような気がするから。

私も、「なんか嫌だな」という気持ちをうまく言葉で表現できずにいたこともありました。ただ、フェミニズムやルッキズムなどを学んでいくうちに、嫌な気持ちの原因がわかり、社会の構造に目を向けられるようになりました。だから自分の気持ちを言語化することは、人と関係を築く上でも大事なことだと思うんです。

共感性、想像力が持てるようになると、むやみに「こんなこと言ったら嫌われるかな」とビクビクすることが減ります。「これを言っても大丈夫」と自分の発言にも自信もつくはずです。誰かと本音で言い合える関係を結ぶためには、まずは自分の感情に向き合って言語化することから始めてみてはどうでしょうか。

取材・文/浦本真梨子 企画・編集/種谷美波(yoi) タイトルロゴ写真/yurii_zym(Getty Images)