人間に生まれつき備わっている回復力や強みに注目するストレスコーピング、「BASIC Ph」。人のストレス対処の方法は、「Belief(信念)」「Affect(感情)」「Social(社会)」「Imagination(想像)」「Cognition(認知)」「Physiology(身体)」の6つのチャンネルのどれかに分類されるとされています。自分の得意なチャンネルを知り、その力を使えれば、ストレスにうまく対処できるようになります。この記事では「BASIC Ph」の6つのチャンネルのうちのひとつ、「Social(社会)」について、詳しく解説します

解説してくれたのは…

BASIC Ph JAPAN代表

新井陽子

臨床心理士、公認心理師。BASIC Ph JAPAN代表。日本EMDR学会所属。公益社団法人被害者支援都民センター勤務。東日本大震災の復興支援に関わり、その際にBASIC Phとその提唱者・ムーリ・ラハド氏と出会う。

BASIC PhのS「Social(社会)」とは

BASIC Ph「Social(社会)」

新井さん人とのつながりを求めることで回復するのが「Social(社会)」のチャンネルです。困ったら誰かに相談するとか、会いに行くとか。SNSで「こんなことがあった!」と発信することもそうですね。

あと、社会的な役割をまっとうすることで、困難な状況を生き抜く……というものもあります。東日本大震災のとき、現地の区役所などの公務員の方がすごく働いていたことを覚えていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。

彼らの多くも被災者で、家族も被災していて、家も失っていたかもしれません。ですが、そんな状況であっても、公務員として市民を守ることをまっとうされたのは、公務員という地域に奉仕するという役割、つまり「Social(社会)」を使って生き抜こうとした、というところも大いにあると考えています。

また、逆に「少し距離をとってあえてひとりになる」という社会から自分を遮断することも、「Social(社会)」の回復法です。SNS断ちもこれに含まれるかも知れません。

「Social(社会)」のキーワード

他者 役割 組織 社会的スキル

「Social(社会)」を使ったストレス対処法

家族やパートナーと過ごす。誰かと会う。誰かに相談する。SNSなどで発信する。誰かと繋がる。サークルやボランティア活動などを通じて人と繋がる。興味関心があることでつながる。父親としての役割や課長としての役割など、役割があることで、困難に対処する。

人から距離を取る。引きこもる。

新井さん上記の中に、やったことはないけれど興味があるものがあれば、挑戦してみると、ストレス対処の方法が増やせるでしょう。また、コーピングに「いい/悪い」はない、というのがBASIC Phでの考え方ではありますが、「より安全に」「より長く生き延びる」ためには、やはりポジティブなものを選んでいくほうがいいとも考えています。悪いから手放すのではなく、より長く生き伸びるために健康的な方法へ乗り換える……というイメージです。なので、グレーのマーカーを引いた部分のコーピングに頼っている方は、余裕やエネルギーがあるときに、ぜひ適応的なものを試してみてほしいです

BASIC Ph 「Social(社会)」友だち

「Social(社会)」と一緒に使いたい、隣接するチャンネル

新井さん:「BASIC Ph」には、「得意なチャンネルの両隣にあるチャンネルの行動も、ストレスコーピングとして取り入れやすい」という特徴があります。Sの場合は、「Affect(感情)」と「Imagination(想像)」が隣接チャンネルになります。単体で取り入れるだけでなく、隣接するチャンネル同士を組み合わせた対処法もおすすめです。例えば、「辛かったことを友達に話して泣く(A+S)」のように考えます。

Affect(感情)
起きた問題に対して泣く、怒る、悲しむ、落ち込む、笑うなどの直接的な感情表現のほか、感情について考えることや、作品や場所、人などによって感情を引き出すことも含まれる。


【行動例】
悲しむ、怒る、泣く、笑うなど様々な感情を表出する。落語やコメディ・お笑いを見て気分転換する。感動する・共感する映画を見て感情を表す。お化け屋敷、絶叫マシーンなどで気持ちを発散させる。日記や文書に気持ちを書く。絵を描く、何かを造る。誰かに気持ちを聞いてもらう。毛布などに包まり安心感を得る。

八つ当たり。感情を隠したりないものにする、罪悪感を持つ。後悔をする。落ち込む。

【Sとの組み合わせ例】
友達に悩みを聞いてもらう。

Imagination(想像)
空想や想像を使うチャンネル。ものの見方を変化させる。頭の中で想像することだけでなく、映画や小説やゲームなどファンタジーの世界に没頭する、創作活動や演じることも「想像」。


【行動例】
現実にはできないことを空想の中でやってみる。別の見方や意味づけができないか再考する(リフレイミング)。ファンタジーやイマジネーションの力を使った気晴らし。コンサートやミュージカルや美術館などアートに触れる。ファッションや創作活動、演劇などクリエイティブな活動。テレビや映画などを観て、想像力を活性化する。ごっこ遊びやテーマパークに行く。

現実逃避的な空想。ギャンブルなどに依存。自分の心を切り離す。

【Sとの組み合わせ例】
推しのコンサート(ライブ)に行く。友達と一緒にカラオケに行く。

参考文献:『緊急支援のためのBASIC Phアプローチ――レジリエンスを引き出す6つの対処チャンネル』(遠見書房)ムーリ・ラハド,ミリ・シャシャム,オフラ・アヤロン 編
佐野信也,立花正一 監訳
新井陽子 角田智哉 濱田智子 水馬裕子 丸田眞由子 岡田太陽 柳井由美 訳

取材・文/東美希 イラスト・企画・構成/木村美紀