人間に生まれつき備わっている回復力や強みに注目するストレスコーピング、「BASIC Ph」。人のストレス対処の方法は、「Belief(信念)」「Affect(感情)」「Social(社会)」「Imagination(想像)」「Cognition(認知)」「Physiology(身体)」の6つのチャンネルのどれかに分類されるとされています。自分の得意なチャンネルを知り、その力を使えれば、ストレスにうまく対処できるようになります。この記事では「BASIC Ph」の6つのチャンネルのうちのひとつ、「Cognition(認知)」について、詳しく解説します

解説してくれたのは…

BASIC Ph JAPAN代表

新井陽子

臨床心理士、公認心理師。BASIC Ph JAPAN代表。日本EMDR学会所属。公益社団法人被害者支援都民センター勤務。東日本大震災の復興支援に関わり、その際にBASIC Phとその提唱者・ムーリ・ラハド氏と出会う。

BASIC PhのC「Cognition(認知)」とは

BASIC Ph「Cognition(認知)」

新井さん情報を収集・整理して、戦略を立てて知的にそして現実的に問題解決をしていくチャンネルです。遅刻しそうなときにスマホで時刻表を確認するとか、わからないことがあるときにまずGoogleで検索してみる……なんてことは、まさに「Cognition(認知)」です。つまりこれって、私達はけっこうよく使っているチャンネルなんですよ。大人は自分で解決できそうな問題は、「Cognition(認知)」で乗り越えることが多いですよね

とても問題対処に強い方法ではありますが、「正解の問題解決の方法がない」場合などには困りごと自体の情報収集や分析だけでは対応しづらいこともある、ということも覚えておくと良いと思います。

確かに、認知的な対処ではうまくいかない時もあるでしょう。そんな時はクイズやパズルなどで息抜きや頭の体操などをしたり、「問題解決」から離れたストレスコーピングを試せるといいかもしれません。でも実はそれも「Cognition(認知)」のチャンネルなんですよね。

「Cognition(認知)」のキーワード

情報 知識 問題解決 現実

「Cognition(認知)」を使ったストレス対処法

情報を収集し、論理的な分析、優先順位などを考えて現実的な戦略を立てる。やることリストを作る。ブレーンストーミングをする。タイムラインを考える。データを活用する。言語化、可視化する。計画を立てる。本を読む。資格を取る。過去の経験から解決策を探る。クイズやパズル、謎解きゲームなど。

考えることを放棄する。批判的に思考する。

新井さん上記の中に、やったことはないけれど興味があるものがあれば、挑戦してみると、ストレス対処の方法が増やせるでしょう。また、コーピングに「いい/悪い」はない、というのがBASIC Phでの考え方ではありますが、「より安全に」「より長く生き延びる」ためには、やはりポジティブなものを選んでいくほうがいいとも考えています。悪いから手放すのではなく、より長く生き延びるために健康的な方法へ乗り換える……というイメージです。なので、グレーのマーカーを引いた部分のコーピングに頼っている方は、余裕やエネルギーがあるときに、ぜひ適応的なものを試してみてほしいです

BASIC Ph 「Cognition(認知)」情報収集

「Cognition(認知)」と一緒に使いたい、隣接するチャンネル

新井さん:「BASIC Ph」には、「得意なチャンネルの両隣にあるチャンネルの行動も、ストレスコーピングとして取り入れやすい」という特徴があります。Cの場合は、「Imagination(想像)」と「Physiology(身体)」が隣接チャンネルになります。単体で取り入れるだけでなく、隣接するチャンネル同士を組み合わせた対処法もおすすめです。例えば、「買い物に行く(C+Ph)」のように考えます。

Imagination(想像)
空想や想像を使うチャンネル。ものの見方を変化させる。頭の中で想像することだけでなく、映画や小説やゲームなどファンタジーの世界に没頭する、創作活動や演じることも「想像」。


【行動例】
現実にはできないことを空想の中でやってみる。別の見方や意味づけができないか再考する(リフレイミング)。ファンタジーやイマジネーションの力を使った気晴らし。コンサートやミュージカルや美術館などアートに触れる。ファッションや創作活動、演劇などクリエイティブな活動。テレビや映画などを観て、想像力を活性化する。ごっこ遊びやテーマパークに行く。

現実逃避的な空想。ギャンブルなどに依存。自分の心を切り離す。

【Cとの組み合わせ例】
戦略ゲーム。小説を読む。

Physiology(身体)
「身体を動かす」「身体に働きかける」チャンネル。自身の身体の動きだけでなく、マッサージやマインドフルネス、お酒や煙草など、身体に影響を与えるものも含まれる。


【行動例】
体を動かす、スポーツをする。散歩する。食事やおやつを食べる。薬やサプリを摂る。お酒を飲む。タバコを吸う。寝る。料理を作る。お風呂に入る。マッサージ。深呼吸や発声。掃除する。セックス。ストレスが身体症状として出る(胃痛・頭痛・皮膚炎など)。

過度な運動。飲みすぎる。自棄食い。拒食。過剰な服薬。自己破壊的な行動。

【Cとの組み合わせ例】
計画的に掃除をする。歩きながら考える。

参考文献:『緊急支援のためのBASIC Phアプローチ――レジリエンスを引き出す6つの対処チャンネル』(遠見書房)ムーリ・ラハド,ミリ・シャシャム,オフラ・アヤロン 編
佐野信也,立花正一 監訳
新井陽子 角田智哉 濱田智子 水馬裕子 丸田眞由子 岡田太陽 柳井由美 訳

取材・文/東美希 イラスト・企画・構成/木村美紀