人間に生まれつき備わっている回復力や強みに注目するストレスコーピング、「BASIC Ph」。人のストレス対処の方法は、「Belief(信念)」「Affect(感情)」「Social(社会)」「Imagination(想像)」「Cognition(認知)」「Physiology(身体)」の6つのチャンネルのどれかに分類されるとされています。自分の得意なチャンネルを知り、その力を使えれば、ストレスにうまく対処できるようになります。この記事では「BASIC Ph」の6つのチャンネルのうちのひとつ、「Imagination(想像)」について、詳しく解説します

解説してくれたのは…

BASIC Ph JAPAN代表

新井陽子

臨床心理士、公認心理師。BASIC Ph JAPAN代表。日本EMDR学会所属。公益社団法人被害者支援都民センター勤務。東日本大震災の復興支援に関わり、その際にBASIC Phとその提唱者・ムーリ・ラハド氏と出会う。

BASIC PhのI「Imagination(想像)」とは

BASIC Ph「Imagination(想像)」

新井さん「Imagination(想像)」はその名のとおり、想像力を回復に使うチャンネルで、大人や日本人が忘れがちなチャンネルでもあります。頭の中で空想したり、物語やファンタジーの世界に没頭したり、自ら創作したりすることで、回復していくんです

美術館にはたくさんの絵がありますね。つまり、私たち人間は、太古の時代からたくさんの絵を描いて生きてきている……ということです。その中には、意識的でも無意識的でも、回復のために描かれたものもきっと多いはずです。

また、現代では映画やドラマ、マンガなどたくさんの物語が作られています。それは、創作された物語や世界を観ること、または自分の手で創り出すことで生き延びている人が多くいることを示しているのではないでしょうか

「Imagination(想像)」のキーワード

遊び 創造性 ファンタジー 直感力 ユーモア

「Imagination(想像)」を使ったストレス対処法

現実にはできないことを空想の中でやってみる。別の見方や意味づけができないか再考する(リフレイミング)。ファンタジーやイマジネーションの力を使った気晴らし。コンサートやミュージカルや美術館などアートに触れる。ファッションや創作活動、演劇などクリエイティブな活動。テレビや映画などを観て、想像力を活性化する。ごっこ遊びやテーマパークに行く。

現実逃避的な空想。ギャンブルなどに依存。自分の心を切り離す。

新井さん上記の中に、やったことはないけれど興味があるものがあれば、挑戦してみると、ストレス対処の方法が増やせるでしょう。また、コーピングに「いい/悪い」はない、というのがBASIC Phでの考え方ではありますが、「より安全に」「より長く生き延びる」ためには、やはりポジティブなものを選んでいくほうがいいとも考えています。悪いから手放すのではなく、より長く生き延びるために健康的な方法へ乗り換える……というイメージです。なので、グレーのマーカーを引いた部分のコーピングに頼っている方は、余裕やエネルギーがあるときに、ぜひ適応的なものを試してみてほしいです

BASIC Ph 「Imagination(想像)」空想

「Imagination(想像)」と一緒に使いたい、隣接するチャンネル

新井さん:「BASIC Ph」には、「得意なチャンネルの両隣にあるチャンネルの行動も、ストレスコーピングとして取り入れやすい」という特徴があります。Iの場合は、「Social(社会)」と「Cognition(認知)」が隣接チャンネルになります。単体で取り入れるだけでなく、隣接するチャンネル同士を組み合わせた対処法もおすすめです。例えば、「友達と映画を観る(I+S)」のように考えます。

Social(社会)
親しい誰かと接したり、誰かと作業をしたり、新しいコミュニティを探したり、人や社会とのつながり、役割によって回復する。逆に社会との遮断も含まれる。


【行動例】
家族やパートナーと過ごす。誰かと会う。誰かに相談する。SNSなどで発信する。誰かとつながる。サークルやボランティア活動などを通じて人とつながる。興味関心があることでつながる。父親としての役割や課長としての役割など、役割があることで、困難に対処する。

人から距離を取る。引きこもる。

【Iとの組み合わせ例】
写真をインスタグラムに投稿する。友達と一緒に創作活動をする。

Cognition(認知)
情報収集や問題解決に向けた思考、優先順位をつけるなど、問題に向き合って回復につなげる。他にもクイズやパズル、謎解きなど頭を使うストレス発散も含まれる。


【行動例】
情報を収集し、論理的な分析、優先順位などを考えて現実的な戦略を立てる。やることリストを作る。ブレーンストーミングをする。タイムラインを考える。データを活用する。言語化、可視化する。計画を立てる。本を読む。資格を取る。過去の経験から解決策を探る。クイズやパズル、謎解きゲームなど。

考えることを放棄する。批判的に思考する。

【Iとの組み合わせ例】
小説を書く。

参考文献:『緊急支援のためのBASIC Phアプローチ――レジリエンスを引き出す6つの対処チャンネル』(遠見書房)ムーリ・ラハド,ミリ・シャシャム,オフラ・アヤロン 編
佐野信也,立花正一 監訳
新井陽子 角田智哉 濱田智子 水馬裕子 丸田眞由子 岡田太陽 柳井由美 訳

取材・文/東美希 イラスト・企画・構成/木村美紀