中元日芽香さんは乃木坂46の元メンバーであり、現在は心理カウンセラー。この連載では、“推される側”を経験し、“推す側”のメンタルにも寄り添ってきた彼女ならではの視点で推し活とメンタルヘルスの関係について語ります。推し活が一大ブームの今、中元日芽香さんが思うのは「過剰に自分をすり減らしていくのではなく、自分を豊かにするための“推し方”があるのではないか」ということ。アイドル時代の自分自身を振り返りながら、推す/推される人間関係の適切な距離感について、読み解いていきます。

中元日芽香 連載 推し活とメンタルヘルス

中元日芽香

心理カウンセラー&メンタルトレーナー

中元日芽香

1996年4月13日生まれ、広島県出身。2011年からアイドルグループ・乃木坂46のメンバーとして活動し、2017年に卒業。認知行動療法やカウンセリング学などを学び、2018年にカウンセリングサロン「モニカと私」を開設。心理カウンセラーとして活動を始め、今に至る。著書に、『ありがとう、わたし 乃木坂46を卒業して、心理カウンセラーになるまで』(文藝春秋)。2003年12月、第2弾となる著書『なんでも聴くよ。 中元日芽香のお悩みカウンセリングルーム』(文藝春秋)を出版。

第1回 のキーワードは「推し活と距離感」

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乃木坂46での経験と、心理カウンセラーとしての今が、「推し活とメンタルヘルス」でつながる

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こんにちは、中元日芽香です。推し活をテーマにメンタルヘルスを考えるこの連載、今、誰もが“推す側”・“推される側”になり得るからこそ『心と体を豊かにする「推し活」ってなんだろう』と私なりに考えていきます



振り返れば、乃木坂46として活動していた10代の頃は心身の不調に悩まされていました。アイドルとして生活する中で、自覚できていなかった悩みやコンプレックが、自分の心にストレスとして重なり睡眠障害や適応障害という形で体に影響を及ぼしていたのです。



その不調を知るきっかけとなったのが、芸能活動休業中に受けたカウンセリングでした。自分の心を救ってくれた心理カウンセラーというお仕事に興味を持ち、乃木坂46を卒業後、2018年に早稲田大学人間科学部eスクールに入学、心理学を学びながらカウンセラーとしてのキャリアをスタートしました



現在は、自身のカウンセリングサロン「モニカと私」にて、オンラインでの有料カウンセリングを行っています。また、ポッドキャスト番組『中元日芽香の「な」』(PodcastQRで毎週月曜配信)では、リスナーさんのお悩みに会話する形で寄り添っています。



“推される側”だったアイドル時代に、私は自分自身のメンタルヘルスと向き合いました。そして、推し活が大ブームとなった今「推しとの接し方」に悩む人からメンタルヘルスについてアドバイスを求められることも多いです。この連載を始めるにあたり、アイドルをしていた過去から心理カウンセラーとしての現在がつながるように感じて、わくわくしています。記事を読んだ方々が、カウンセリングに興味を持ったり、自分のメンタルヘルスを考えてみようかな、と思ったりするきっかけとなればうれしいです。

推しとの距離感とは? 推し活のスタンスを健全に保つためにできること

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「推しに対して、この情熱の傾け方は違うのかな」と悩んでしまう――心理カウンセラーとして、よく受ける相談です。



例えば、推しに対して直接あるいはSNSなどでネガティブなことを言ってしまい、後悔しているというお悩み。友人や家族が相手だったら、後日、後悔した発言について、自分の気持ちはこうだったと伝えたり、相手はどう思ったかをたずねたりすることができるでしょう。そこで誤解を解いて仲直りができます。



けれど、推しに対しては一方的なコミュニケーションになることが多いので、“答え合わせ”ができない。だからすごくモヤモヤしてしまい、カウンセリングで話しに来たという方もいます。



また、逆のお悩みもあります。推しのSNSや配信で「あの言葉はなんだったのだろう?」「なんだか元気がないけれど、なぜだろう?」という疑問。深読みしてしまい、それに対して答えがないことに、ますます不安を感じてしまう。



これがエスカレートすると、推しが自分の望んでいない行動をしたときに、失望や憎しみを感じてしまうことも。「私はあれだけ応援したのに」「これだけお金を費やしたのに」という感情へ変わってしまうのは悲しいことです。


応援するということは、お金や時間、つまり自分のエネルギーを費やすこと。そういう特別な存在だからこそ、独占したくなったり、まるで推しがもうひとりの自分であるかのように、関係性に線引きができなくなってしまう危険があります。


そんなときカウンセリングでは、自分を第三者の視点から見ることをすすめています。感情的・衝動的になっていたら一度立ち止まって、スマートフォンを置き、SNSから離れてみる。相手が友人や家族だったら同じことをするかな? 距離感がゼロになってしまっていない?と、問いかけてみる。


推しとの距離感を見失っているときは、きっと自分の中が推しでいっぱいになってしまっている状態。空気を入れ替えるような気持ちで、実生活でリアルにコミュニケーションがある人と連絡をとることもいいと思います。


最近、仕事に身が入っていないかも? 友達の誘いを断っていない? 出費が多くないかな? 推し活以外に自分を構成するものを見つめ直し、チェックしてみてください。自分のスタンスをバランスよく整えることができれば、推し活のメンタルが健康になると思います。



 


推される側として、ファンやフォロワーとの距離感に悩んだら、自分の軸を見直して

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実は、推される側にとっても「距離感」はとても重要。SNSが発達した今、アイドルは非日常の存在ではなく親近感が湧く相手になりました。ステージ上のパフォーマンスだけでなく、インタビューやMCで垣間見せる人格、SNSで発信するプライベートや本音も含めて見られる存在です。乃木坂46のメンバーだった時代を振り返ってみると、その「見せる自分」と「ファンが求める自分」の距離感をはかれなくて、悩んだ時期がありました。


私は人の意見を気にしてしまう性格でした。「この前のステージ元気なかったね」「この間してた髪型、そうじゃないほうが好き」という言葉に、もっとこうしたらいいのかな、もっと期待に応えたいな、と悩んでしまう。きっとあの頃、推される側としての「私は私をこう見せたい」という軸が揺らいでいたのでしょう。


自分としては「完璧に近い形で見られたい」と頑張っていても「完璧ではないところこそ愛らしい、親近感が湧く」と言ってくださるファンの方もいる。その中で、私の見せたい自分像と、表には出せない本当の私に乖離が発生してしまったのだと思います。


当時の私にアドバイスをするなら「自分の軸を持った上で、ファンの方と接することができていれば、もっと自分らしく生き生きと仕事ができていたんじゃない?」。ステージでの見せ方も、SNSの使い方も、メンタルの持ち方についても、「自分」の軸をしっかり持っていないと、他者との距離をはかれないのです。


今、“推す側“であると同時に“推される側“になっている人も、とても多いのではないでしょうか。自分の趣味を自由に書くアカウントのつもりが、フォロワーの増加や反応が嬉しくて「こんな記事の方がうけるんじゃないかな」と、「求められていること」にシフトしてしまう。ニーズが増えると嬉しい、すごくよくわかります。でも、そこで「自分がこうしたい」というラインが曖昧になってしまうと、関係性に疲れてしまう要因となることも忘れないようにしてほしいです。


推されるときは『自分は自分』という軸をはっきり持つこと。推す相手に対しても自分を重ねすぎないこと。それは、推す側・推される側双方にとって健康な考え方へつながります。距離感をはかることは、自分と推しのメンタルを守ることにつながると考えていただけたら幸いです。


スカート(参考価格)/MOMOKO CHIJIMATSU その他すべてスタイリスト私物

撮影/森川英里 ヘア&メイク/小島紗希 スタイリスト/石田綾 取材・文/久保田梓美 企画・構成/木村美紀(yoi)