市民一人ひとりの力で社会変化を起こす「コミュニティ・オーガナイジング」。この手法を用いて、実際に身近な課題の解消を目指すにはどのようにアクションを起こせばいいのでしょうか?NPO法人コミュニティ・オーガナイジング・ジャパン理事の鎌田華乃子さんにお話を聞きました。

鎌田華乃子

特定非営利活動法人コミュニティ・オーガナイジング・ジャパン理事 共同創設者

鎌田華乃子

神奈川県横浜市生まれ。ハーバード大学ケネディスクールに留学しMaster in Public Administration(行政学修士)のプログラムを修了。卒業後ニューヨークにあるコミュニティ・オーガナイジング(CO)を実践する地域組織にて市民参加のさまざまな形を現場で学んだ後、2013年9月に帰国。特定非営利活動法人コミュニティ・オーガナイジング・ジャパン(COJ)を2014年1月に仲間たちと立ち上げ、ワークショップやコーチングを通じて、COの実践を広める活動を全国で行っている。ジェンダー・性暴力防止の運動にも携わる。現在ピッツバーグ大学社会学部博士課程にて社会運動に人々がなぜ参加しないのか、何が参加を促すかの研究を行っている。著書に『コミュニティ・オーガナイジング ほしい未来をみんなで創る5つのステップ』(英治出版)がある。

社会変革を起こすための「5つのステップ」

コミュニティ・オーガナイジング 5つのステップ

──鎌田さんは著書『コミュニティ・オーガナイジング ほしい未来をみんなで創る5つのステップ』の中で、コミュニティ・オーガナイジングには大きく分けて5つのステップがあると書かれていました。この5つのステップについて改めて教えてください。

鎌田さん
1つ目のステップは「パブリック・ナラティブ」。これは、周囲の人たちに対して共に行動を起こすためのストーリーを語ることを目的としています。コミュニティ・オーガナイジングにおいて大切なのは、自分自身がなぜその問題に関心があり、相手と一緒に何ができるのか、そして、相手がチームに参加してくれるとなぜ強いのかを提案すること。そのためには、自分の個人的な体験をシェアする「私のストーリー」、聞き手と共有する価値観や経験について語る「私たちのストーリー」、なぜいま行動する必要があるかを示す「行動のストーリー」という3つのストーリーをうまくつないで語ることがポイントです。

2つ目のステップは「関係構築」。社会運動やボランティア活動には上下関係や雇用関係があるわけではないので、「こんなことを大切にしている」「こんな社会がつくりたい」といった価値観を共にすることが重要になってきます。1つ目のステップの3つのストーリーを共有しつつ、目の前の人と共に行動を起こせるような関係をつくっていくことを目指します。

価値観を共有できる人が少しずつ増えてきたら、3つ目のステップ、「チーム構築」が大切になってきます。ただ漠然と集まっているだけでは意味がないので、チーム全体で共有する「目的」を確認し、チームが気持ちよく活動を続けていけるための「約束事(ノーム)」をつくり、目的のために必要な役割を定義して適任者を考える「役割分担」をすることで、強いチームを育んでいくことができます。

──お互いのストーリーを共有し合うことで関係を構築し、そこからチームの輪を広げていく、というのが3つ目までのステップですね。

鎌田さん
:はい。チームができたら、自分たちの資源をどのように生かせば課題が解決できるかを考える4つ目のステップ、「戦略作り」に入ります。課題解決のために必要な行動は、状況によって異なります。署名活動や話し合いの場を持つこと、デモなど、その時々に応じて必要な行動は何か、状況を分析しながら考えていきます。


そして最後のステップが「アクション」です。人はやはり、周囲の友人や知り合いから「一緒に行動しよう」「協力してほしい」と言われると動くので、周囲の人々を活動に誘いながら各々のリーダーシップを育て、キャンペーンメンバーの輪を広げていくことを目指します。


やや抽象的な説明になってしまいましたが、ここまでが「5つのステップ」です。

「会社のトイレにナプキンを常備してもらう」ためには、どのようなアクションを起こすべき?

コミュニティ・オーガナイジング 会社のナプキン

──5つのステップを具体的にどのように進めていけばいいかお聞きしたいです。例えば、「会社のトイレに生理用ナプキンを常備してほしい」という目的がある場合、どのような順番でアクションを起こせばいいのでしょうか?

鎌田さん
まずは、「ナプキンが常備されていないのを不便に感じてるのって、私だけかな?」と周囲の人たちに尋ねてみるところから始めるといいでしょうね。何気ない会話の中でもいいのでなるべく多くの人たちに話をしてみて、「自分も必要だと思っていた」という声がもし大きければ、それは自分だけの問題ではなく自分たちにとって共通の課題になってきます。そうなったときに初めて、アクションを起こすためのモチベーションが湧くと思うので、まずはいろいろな同僚に声をかけて話を聞いてみるのがポイントだと思います。

周囲の人たちと話していくうちに、課題に共感してくれる熱量の高い人が、おそらく何人かは見つかると思います。自分以外の人がいるとそれだけで思考が広がっていくので、最低でも3人の仲間をつくるのがおすすめです。そこから、集まったメンバーで最初のミーティングをしてみる。

──まずは少人数でもチームをつくるんですね。会社の場合、それぞれの業務もあって忙しい人たちを、どのようにミーティングに誘えばいいのでしょうか?

鎌田さん
:終業後に残ってミーティングをするとなるとやや大変なので、最初はあくまで気軽に、ランチタイムに集まるところから始めるといいんじゃないかと思います。「お店でランチをするついでに軽く話そうよ」という感じで誘ったら、お互いに負担が軽そうですよね。

そして、何人か集まったら、会社における意思決定のプロセスや協力してくれそうな人、効果的な働きかけを探っていく。中には、意思決定の構造に詳しい人や、誰が反対しそうかを知っている人、女性の問題に対してシンパシーを抱いてくれそうな同僚に声をかけてくれる人もいると思うので、役割分担をしつつ、少しずつ情報を収集していけるといいと思います。

──社員の要望を伝えるうえで、会社における意思決定のプロセスを知ることはたしかに重要ですね。

鎌田さん
:そうですね。活動の基本は地道な聞き込みを続け、協力者を増やしていくことだと思うので。そんなの大変、と感じる人もいるかもしれないですが、意思決定の構造を知れると会社の眺めが変わりますし、今後もし新たな課題が生まれた際にも有効なアプローチを考えやすくなるというメリットがあるので、楽しみながらアクションを起こしてみてほしいです。

「迷惑がかかるから……」と反対する人との関わり方

コミュニティ・オーガナイジング 反対意見

──活動を続けていると、中には「まわりに迷惑がかかるからやめたほうがいい」「会社の負担が増えるだけだよ」と声をかけてくる人もいるのではないかと思います。そういった反対意見に向き合う際のポイントはありますか?

鎌田さん
そういった人がいた場合、まずは相手の話に耳を傾けることが大切だと思います。おそらく、単に活動を妨害したいというよりも心配から声をかけてくれていると思うので、最初から「そんなことありません」と跳ね返してしまうのではなく、まずはその懸念を受け止めるのがポイントなのかなと。

声をかけてくれたことへのお礼を伝えたうえで、自分がなぜその活動を進めているかの思いを端的に語り、「〇〇さんはどう思いますか?」と相手の関心も聞いてみるのがいいと思います。中には、ネガティブな意見を言っているけれどその課題自体には関心があるという人もいるので、「どうすればできるだけ迷惑をかけずにこの課題が解決できそうでしょうか?」と尋ねてみてもいいかもしれないですね。そこから話が広がれば、相手が仲間になってくれる可能性もゼロではないと思います。

一度目の活動で状況を変えられなくても諦めないで

コミュニティ・オーガナイジング 再チャレンジ

──「変えたい」と感じている課題があって、コミュニティ・オーガナイジングに関心を持っているものの、最初の一歩が踏み出せずにいる人も多いと思います。鎌田さんから、あと押しとなるようなメッセージがあれば教えてください。

鎌田さん
もし、皆さんが何か自分で行動を起こしてみようと考えているのであれば、それはすごいことだと思うんです。仮になんらかの課題を感じても、具体的な行動は起こさずに見過ごしてしまう人が世の中の大半なので。

とはいえ、最初から自分がリーダーになって一人でアクションを起こすのはなかなか大変なことです。もしハードルを感じたら、まずはSNSを通じて同じ課題に取り組んでいるコミュニティを探してみたり、関心のあるテーマのイベントに足を運んでみたりすることも大きな一歩です。「自分一人が参加しても何も変わらない」と思う人も多いかもしれませんが、実際には、社会運動においては、一人の参加が他のメンバーにとっての大きなエネルギーになります。寄付やイベントへの参加など、自分にとってハードルが低いと感じるところからアクションを起こしてみてほしいと思います。

──中には、イベントへの参加や署名活動などを通じて行動を起こしたけれど、掲げていた課題が結局解消されなかった、というケースもあると思います。「変化を起こすことができなかった」という無力感にはどう向き合えばよいのでしょうか?

鎌田さん
:私自身、大学院に通っていたとき、コミュニティ・オーガナイジングの授業の担当教授だったマーシャル・ガンツさんに「活動に膨大な時間を割いたとしても、結局その目的が果たせなかったらどうすればいいんですか?」と聞いたことがあります。ガンツさんは2008年のアメリカ大統領選でバラク・オバマを大統領にした「オバマ・キャンペーン」に貢献していたことでも知られている人物です。彼の答えは、「たとえすぐには活動の成果が出なかったとしても、その活動のために築いたチーム、コミュニティの関係性は残っていますよね」というものでした。

実際にアメリカでも、選挙戦などにおいてコミュニティ・オーガナイジングの手法はよく使われているのですが、選挙戦で支援者たちがコミュニティをつくり、懸命に支援活動をしても落選してしまうことはしばしばあります。でも、そこで築いたコミュニティが徐々に拡大していき、2回目の選挙では勝てるというケースもよくあるんです。

社会が変わるためには、社会運動はもちろん、世論の影響や運といったさまざまな要素が必要だと思います。だからこそ、あきらめずに活動を続けることでいずれ大きな変化を起こせる可能性がある、というのは覚えていてほしいですね。もちろん、疲れたりやる気をなくしたりすることがあれば、その都度、活動から離れてもいいと思いますし。ただ、選挙ひとつ、活動ひとつで状況が変わらなかったら永遠に変わらないということは決してないので、希望を捨てずにいてほしいと思います。共に歩んでいきましょう。

イラスト/大内郁美 取材・文・構成/生湯葉シホ 企画/木村美紀(yoi)