秋から冬へと変化する季節の環境に体が反応することで起こる「冬季うつ」。自分の心と体に負担をかけないコツや、身近な人が冬季うつを発症した場合にできるサポートについて、臨床心理士の山内恵理子さんに教えていただきました。

山内恵理子

公認心理師・臨床心理士

山内恵理子

愛知県名古屋市にある女性のための小さな相談室「こはる心理カウンセリング室」を運営。精神科・心療内科で長年勤務した経験やスクールカウンセラー・大学の学生相談室の経験を基に、生きづらさを抱える女性のための相談活動をしている。「傷ついた心のケアをもっと身近に、必要な場合は医療とつなげて」をキーワードに、個人カウンセリングだけでなく、企業や学校向けのゲートキーパー(自殺対策)講座やストレスケア講座の講師を務める。共著に『クライエントと臨床心理士 こころの「病」と心理療法』(金剛出版)。

まずは休息が最優先。予定がない日をつくろう

冬季うつ 感情性障害 メンタルヘルス3-1

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──前回、「自分の心や体にこれ以上、負荷をかけないように気をつける」というお話がありましたが、今回は冬季うつとの向き合い方について、もう少し具体的に伺っていけたらと思います。

山内さん まず、心身の疲れをとるために大事なことは「休息」です。気温や天候が揺らぐ時期は疲れやすく、だるさが出やすいので、無理に予定を入れないようにしましょう。冬季うつを含めて、うつ病の典型的な傾向として「予定を入れたけれどうまくいかなかった」「ドタキャンしてしまった」「うまく話せなかった」と自分を責めてしまいやすいので、「予定がない日をつくろう」とポジティブに考えるようにするのがいいかもしれません。

──自分を責めてしまう気持ちが湧いてきたときに、できることはありますか?

山内さん これまでもお伝えしていることですが、まずご自身で「そういう時期だから」と知っておくことが大切です。そして、「約束をドタキャンしちゃった」→「あの人に嫌われたに違いない」→「だってこの間もうまく話ができなかったし…」とネガティブな悪循環になっているときは、「本当にそうなのかな?」とひとつひとつ検証していくプロセスが必要になります。

それを一人で行うのは難しいので、身近な人に相談したり、カウンセリングを受けたりすることをおすすめします。そうして今の心身の状態や思考パターンを客観的に見つめていくと、本来の調子のいい状態に戻っていきやすくなります。しんどい状況が続くときは、他の病気が隠れている可能性もありうるので、早めに心療内科などの受診を検討してほしいと思います。

お守りがわりの「マイリスト」をつくっておく

──自分なりのリフレッシュ法を持っておくのもよさそうですね。

山内さん そうですね。ストレス対処法のマイリストをつくっておくと、ネガティブな気持ちをそらせるのでおすすめです。対処法といっても、特別なことでなくてかまいません。水を飲む、歯を磨く、窓を開けるなど、小さくても自分には効果があると思えるものを選ぶことが大事です。また、例えば「菓子パンを食べたくなったらお茶を飲む」など、行動の置き換えパターンをリスト化しておくのもあり。どちらも、できるだけ具体的に書いておくといいですね。

──それはなぜですか?

山内さん こうしたリストが必要なときというのは、心身が弱って自分では判断できなくなっていることが多いので、見るだけですぐ行動に移せる内容なら心理的なハードルも低くなります。スマホのメモに入れたり、可愛い付箋やカードに書いて貼っておいたり、お守りとしていつでも見られるようにしておきましょう。それから、ストレスを緩和したり、落ち込みをためないためには呼吸も効果的です。

──お守りがわりのリストがあると安心ですね。ぜひおすすめの呼吸法も教えてください。

山内さん 「10秒呼吸法」といって、いつでも、どこでも実践できます。不安や怒りをエスカレートさせずに済むので、冬季うつに限らず、ぜひ皆さんに知っておいていただきたい呼吸法です。姿勢は立っていても座っていてもかまいません。

【10秒呼吸法】
姿勢をととのえて、両足の裏を地面につけて胸を開く。両肩に力を入れて上に上げ、一気にストンと落として脱力する。
静かに目を閉じる(閉じられない状況なら開いていてもOK)。
口から息を全部吐き出す。
鼻から息を吸いながら「1、2、3」と3秒間カウントし、お腹をふくらませたら「4」でいったん息を止める。
「5、6、7、8、9、10」とカウントしながら口から息を吐き出して、お腹をへこませる。
④→⑤を繰り返す

身近な人が発症したときにできること

冬季うつ 感情性障害 メンタルヘルス3-2

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──確かに、これなら移動中やトイレ休憩はもちろん、仕事中でも実践できそうです。自分が冬季うつになった場合のことを伺ってきましたが、身近な人が冬季うつかもしれないと感じたときにできることはありますか?

山内さん 大前提は「責めない」こと。体を動かしたくてもだるくて動けない、食べたくないのに食べてしまう状況のときに、責められたり、「怠けている」という反応をされたりするのは、本人にとって何よりつらいことですから。ほかにも、次のようなことを意識してみてください。

⚫︎まず話を聞く
冬季うつに限らず、「だらしがない」と思われてしまいがちな不調や悩みを人に話すのは、それだけで勇気が必要なこと。否定したり、何か意見を言いたくなっても、まずは相手の話を否定せずに聞く。声かけをする場合は、「そんなにしんどいのに、頑張っていたんだね」など、相手のつらさを認めるような言葉をかける。

⚫︎正しい情報へのアクセスをサポートする
症状が悪化すると、正しい情報を素早く判断することが難しいだけでなく、より過酷な情報に触れて自分を追いつめてしまうことが多い。気力、体力的に一人で調べることが難しい場合も多いので、厚生労働省や行政の相談窓口、地域の精神科・心療内科などの正しい情報にアクセスできるよう、一緒に調べたり確認したりすることも大きなサポートに。

⚫︎専門家につなぐ
症状が持続しているかエスカレートしているかを本人に確認しながら、症状が2週間以上続いていて、気分転換してもリフレッシュできない状況であれば、「自分も話を聞くけれど、専門家にも相談するのもいいんじゃない?」と声かけをして専門家につなぐ。

本人は「自分が怠けているだけ。病気じゃない」と言うかもしれませんが、身近な人が「病気じゃなくても、眠れないことや疲れに対するアドバイスはもらえるんじゃない?」「症状が2週間以上続いているなら、受診を考えてもいいって書いてあるね」とポジティブにすすめたり、受診に付き添ったりすると、スムーズな場合が多い気がします。

──シンプルなことが大事であり、大きなサポートにつながるのですね。

山内さん そうなんです。日本はまだまだ精神科や心療内科、婦人科などに対して、一歩目のハードルが高い印象があります。ですが、例えば「これはむし歯に違いない!」と歯医者を受診したらなんでもなかった…というのはよくある話ですよね。心もそれと同じです。

「何もなくてよかった。でも、こういうところに気をつけていくといいですよ」となれば、それで安心できますから。自分の状態を確認するぐらいの気軽さで受診してもいいんだということを、ぜひ知ってほしいと思います。

構成・取材・文/国分美由紀