若者の4人にひとりが小児性被害の経験者と言われる現代。特にスマホやパソコンを通じた性犯罪の被害が10代~20代の間で年々増加しており、子どもの有無にかかわらず、社会全体で取り組むべき問題となっています。Xフォロワー14万人の医療インフルエンサー「ふらいと先生」こと現役小児科医の今西洋介先生に、著書『みんなで守る子ども性被害』の中から、近年急激に深刻化しているという「デジタル性暴力」の実態や、子どもが性被害にあわないためにできることを教えていただきました。
小児科医
1981年石川県生まれ。国内複数のNICUで新生児医療を行う傍ら、SNS上では「ふらいと先生」の名義で小児医療・福祉に関する情報発信を行う。私生活では3姉妹の父親で、現在は米国在住。近著に『小児科医「ふらいと先生」が教える みんなで守る子ども性被害』(集英社インターナショナル)がある。
- Q1:「デジタル性暴力」とは?
- A1:スマホやパソコンなどの電子機器を用いて行われる性暴力のことです。
- Q2:知らない人とやり取りしなければデジタル性暴力にあわない?
- A2:性暴力の加害者は、被害者の「知り合い」が圧倒的多数です。
- Q3:デジタル性暴力でねらわれるのは女の子ばかり?
- A3:未成年の被害者のうち、3人にひとりは男の子です。
- Q4:子どもにスマホを持たせないほうがいいの?
- A4:デジタル機器そのものが犯罪被害の原因ではありません。
- Q5:性被害を防ぐためには、性教育は何歳から必要?
- A5:諸外国における性教育の指針となっている「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」で、包括的性教育の開始年齢は5歳とされています。
- Q6:性被害を防ぐために今すぐできることは?
- A6:男性を含め、身近な人と性暴力のことを話題にしてみてください。
Q1:「デジタル性暴力」とは?
A1:スマホやパソコンなどの電子機器を用いて行われる性暴力のことです。
今西先生:性暴力というと、まずレイプや痴漢を含む強制的なわいせつ行為といったものを思い浮かべる人が多いと思いますが、「同意のない性的言動」すべてが性暴力であり、たとえ身体的な接触がなくとも、卑猥なことを言われる・言わされる、AVや性行為を見せられるなども性暴力です。なかでも「デジタル性暴力」の被害は、若年層を中心に年々増加・多様化しています。
Q2:知らない人とやり取りしなければデジタル性暴力にあわない?
A2:性暴力の加害者は、被害者の「知り合い」が圧倒的多数です。
今西先生:性暴力は、家族や親族・元交際相手など、被害者にとって身近な人が加害者である場合が非常に多い犯罪です。デジタル性暴力も同様で、大きく分けて以下の5種類があります。
・オンライン性的勧誘......「下着姿の写真を送って」など、写真や動画を送るように要求すること。
・グルーミング......「毛づくろい」を意味する単語で、16歳未満の者に性的な目的で接触すること。
・画像ベースの性的加害......性的な画像や動画を見せること。性教育という名目でAVや性器の写真を見せるのもNG。
・児童性的虐待の映像・マンガ作成......性的虐待に相当する内容の動画や漫画を作成すること。
・セクストーション......sex+extortion(脅迫)の造語で、性的な写真や動画をネタに「〇〇しないとInstagramで画像を拡散する」 などと脅すこと。「リベンジポルノ」もこの一形態。
実際に、元交際相手によるセクストーションから殺人事件にまで発展したケースもあり、SNS上で知り合う相手だけを警戒すればよいというのは危険な思い込みです。
Q3:デジタル性暴力でねらわれるのは女の子ばかり?
A3:未成年の被害者のうち、3人にひとりは男の子です。
今西先生:小児科医として多くの親御さんと接する中で、お子さんが息子さんか娘さんかによって、親御さんが持つ性被害への認識に差があると感じます。しかしながら、小児性加害者の多くは、被害者の「幼児性」に重点をおいており、私が実際に会って話した加害者の中には「毛が生えていなければ男の子・女の子どっちでもよかった」と言った者もいました。「男性は性犯罪への意識の低いので、父親と一緒にいる子のほうがねらいやすい」と考えている者もいます。「うちは息子だから大丈夫」「自分は男だから心配ない」という認識は改めなければいけません。
Q4:子どもにスマホを持たせないほうがいいの?
A4:デジタル機器そのものが犯罪被害の原因ではありません。
今西先生:大人はもちろん、子どもにとっても、現代の生活にスマホやタブレットは欠かせません。学校の宿題などで必然的に触れる機会のほか、習い事への送迎時に親子間での連絡に使用したり、きょうだいが勉強に集中できるように30分だけ動画を観て待っててほしい......など、家族みんなで生活するうえで、デジタル機器は強力な助っ人にもなってくれるものです。機器の利用やネットの使用を全面禁止にして遠ざけるよりも、デジタル機器がどのように悪用されるのかを把握し、その使い方を子どもと一緒に学ぶことが大事だと思います。
Q5:性被害を防ぐためには、性教育は何歳から必要?
A5:諸外国における性教育の指針となっている「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」で、包括的性教育の開始年齢は5歳とされています。
今西先生:子ども自身が集団生活にある程度慣れ、男の子・女の子という性の違いを認識できるようになるのがそのくらいの年齢なので、0〜1歳など、あまりに早くから取り組む必要はないでしょう。
欧米諸国には包括的性教育の一環として「水を一緒に飲まない?」というプログラムがあります。子どもが水の入ったコップを持って教室内を歩き回り、クラスメイトに「お水を一緒に飲まない?」と話しかけていきます。話しかけられた子は「いいよ」「いまは飲みたくない」などそれぞれ自由に答えてよく、「YES/NO」をはっきり伝えることができると、先生が「自分の意志を表明するって大事だね」と褒めてくれる、というものです。
誰かと何かをするときに、積極的にしたいという意志があることが「同意」で、それがセックスを含めた性的行為であれば「性的同意」です。私は当時4歳の娘を通わせる保育園を見学したときに初めてこのプログラムを目の当たりにしたのですが、幼い子でも「“NO”と言ってもいいんだ」ということがわかる授業に大変感心しました。日本では、こうした後々の具体的な性教育の前段階であり根幹となる教育がまだまだ足りていないと感じます。
Q6:性被害を防ぐために今すぐできることは?
A6:男性を含め、身近な人と性暴力のことを話題にしてみてください。
今西先生:残念なことですが、女性は通学時の痴漢や職場でのセクシャルハラスメントなど何らかの実体験があり、体感を持って情報収集されている方が多いのですが、男性はそういった経験が少なく、男女間で認識にギャップがあるように思います。その点では、今後の日本の性教育の意識を高めるキーマンは男性と言えるかもしれません。ぜひ、恋人や夫婦間で「こんなこと知ってる?」と性被害のことを話題にしてみてください。
「性」をタブー視しないというのは、家庭においても大切なことです。親が「性」というトピックを避けていると、子どもは、性被害を受けても「恥ずかしい、言ってはいけないことだ」と思い込み、打ち明けることができなくなってしまうものです。結婚や子育ての前段階から日常的になんでも話せる環境を作っておくことがよいと思います。
あとは、セクストーションの可能性を少しでも減らすためにも、子どもや自分が裸で写った写真をシェアするのは、たとえ相手と親しい間柄であっても避けましょう。基本的に自宅の玄関扉に貼れない画像は撮らない・送らないことです。
子どもを持つ人も持たない人も、みんなが性暴力の実態を知って知識を蓄えておくことで、犯罪を抑制し、安心して子育てできる社会が育っていくと思います。
構成・取材・文/月島華子