年末年始の大掃除、ものを捨てるのが苦手な人も多いのではないでしょうか。そんな方にこそ試してほしいのが、家事効率化支援アドバイザー®で、片づけのプロの古堅純子さんが提唱する「捨てない片づけ術」。古堅さんに「捨てない」ことを肯定する理由や、具体的な片づけのアイディアを伺いました。

古堅純子

幸せ住空間セラピスト・家事効率化支援アドバイザー®

古堅純子

1998年から現場第一主義を貫き、5000軒以上のお宅に伺いサービスを重ね、独自の古堅式メソッドを確立。著書累計発行部数は70万部を超え、新刊本「ものを捨てない!週末片づけの新常識」(宝島社)も出版。YouTubeチャンネル「週末ビフォーアフター」では、総再生回数1億4000万回突破する実践的な片づけ術を発信している。

自分の部屋を掃除することで、心が軽くなる感覚を味わった

古堅純子 捨てない片付け 好きな物を手にしても満たされない

──古堅さんはお掃除のプロとして活動されていますが、最初からお掃除の仕事に目覚めていたのでしょうか?

古堅さん 20代前半の頃は掃除や片づけを仕事にするなんて思ってもいませんでした。その頃はちょうどバブル期で、ものに囲まれた中での生活が当たり前。自然とものが増えていく一方だったんです。そして、欲しいもの、きらびやかなものに囲まれるのが美徳だったので、そこになんの違和感もなく過ごしていたと思います。

でも、欲しいものを手に入れても、何故か満たされない気持ちを抱えていて。ある日、今まで持っていたものをほとんど手放し、更地になった部屋を徹底的に掃除したら、心が軽くなる感覚を味わいました。そこで掃除の魅力に気づきました。

そして、この体験を仕事にしたいと思い、家事代行サービス会社の掃除部門で働くことに。きれいにのばしていた爪を短く切り、かわいい服やヒール靴ではなく、掃除のしやすい格好に着替えると、自然と鎧のように纏っていた見栄やプライドなどが削ぎ落とされていくような感覚になりました。

また、さまざまな人の家を掃除する中で、「ものを持っていても、暮らしやすい家でないと、幸せに感じないんだ」と改めて思うようになりました。

──“捨てない片づけ術”という古堅さんのメソッドはどうやって生まれたのでしょうか?

古堅さん 今は片づけの専門家として注目していただくことが多いですが、最初の仕事が掃除だったからこそ、捨てる提案ではなくお客さまがものを使いやすいように、ライフスタイルに合わせて片づけをしてきました。

「捨てなさい」ということは簡単ですが、その人の人格や思い出などを否定してしまうこともあると思うんです。その人にはその人なりの理由があって、ものを大切にしているから。そこで、自発的に取捨選択しやすい環境づくりを目指すようにしたら、お客さまから満足のお声を多くいただけるようになっていきました。

この経験が、心地のよい暮らし方のヒントとなる「捨てない片づけ術」につながりました。今はこの方法を、片づけに悩む多くの人に伝えたいと思っています。

「片づけ=捨てる」という先入観を捨ててみる

──捨てられないことで悩む方も多いと思います。捨てられない人の特徴はありますか?

古堅さん
 人の特徴というよりは、世代的な傾向はあると感じています。バブル世代の方は、消費が美徳とされた時代を背景に生きてきた人が多いです。また、好きなものを手にすることがステータスという考えもあっただけに、手放すことに抵抗を感じやすい傾向があります。

さらに、バブル世代に育てられた30〜40代も同じく「捨てられない世代」だと感じます。だからこそ、見直してほしいのは「捨て方」よりも「買い方」。これは長く使えるかな?と自分に問いかけたり、お得だからという理由で安易にモノを増やさなければ、捨てることに頭を悩ませなくてよくなるかもしれませんね。

──そもそも、何故「捨てたくない」という気持ちになるのでしょう?

古堅さん 捨てられない人は、ひとつひとつのストーリーを色濃く覚えているんだと思います。ものを買うには時間やお金、エネルギーが必要ですよね。そうして得たものを手放すのは心理的なハードルが高いのは当然のこと。だから、捨てられない自分を責めないでください。そういう心理になる人にこそ「捨てない片づけ術」があるので、「片づけ=捨てる」という先入観を捨てて、まずは実践してみてほしいです。

無理に捨てようとせず、捨てないことを肯定する

──古堅さんが捨てない片づけをおすすめする理由はなんでしょうか?

古堅さん よく片づかない人のお話を聞くと、「ものを捨てるか捨てないかを悩むことで一日が終わってしまい、ぜんぜん片づかない」とおっしゃる方が多いです。

たしかに手放すとき、ものと向き合うと、色々な葛藤があり、かなり疲れますよね。無理に捨てようとすると、より片づけるのが億劫になり、掃除できないという負のループに陥ります。

だからこそ、「捨てるのは一回やめて、理想の部屋を一から作り直してみることに注力してみて欲しい」と思うようになりました。捨てないことを肯定することで、掃除や片づけがスムーズに進むようになると思いますよ。

──確かに、捨てないと片づかないと思い込んでいたのかもしれません。

古堅さん そうなんです。負のループは自分で止めるのは難しい。まずは、捨てるのは一回やめて、理想の部屋を一から作り直してみることに注力してみてほしいですね。片づけは幸せに暮らすための方法であって、キレイに片づけること、ものを捨てることが目的ではないと思います。

「捨てない片づけ術」はたったの3ステップ!

──「捨てない片づけ術」の具体的な方法を教えてください。

古堅さん
 細々とした片づけではなく、大胆に取り組めるのがこの方法のいいところ。大切なのはまず体を動かしてみること。何も考えずステップ1から始めてみてください。

Step 1. ものを寄せる/一度、ものを一カ所に移動させる。

まずは景色を変えるところから始めます。ものを整理しながら片づけるのは、捨てられる人には効率的ですが、捨てたくない人には非効率的です。だからこそ、細々したものはもちろん、移動できる収納ケースなど、すべて別の場所に寄せて、すべてリセットした部屋の景色を取り戻してください。

例えばリビングを片づける場合、ダイニングテーブルの上やテレビボードの上など、見えるところに置いてあるものは、すべてまとめて1カ所に移動します。

そして、寄せたもののことはあとでゆっくり考えてください。片づいた部屋の景色を見たあとのほうが、これが必要か必要じゃないかの選択がしやすくなりますし、効率的に収納ができるようになります。

Step 2. 更地にする/スペースを空っぽにしてリセットする。

プラスチックの収納BOXなど、動かせるものもすべて移動して、家具以外は何も置いていない更地になったでしょうか。

するとどうでしょう。憧れの部屋のイメージや、この部屋でやりたいことが浮かんできませんか? 引っ越ししたてのような感覚で、部屋を作りやすくなると思います。

憧れだったプロジェクターも置けるし、ルンバで掃除ができるような部屋にも組み立てられるんです。この更地を見て、どんな部屋にしたいか具体的にイメージしましょう。

Step 3. 埋める・隠す/整理整頓しながら必要なものを配置する。
あとはイメージに合わせて家具を配置し、その場所で使うものだけを寄せたものから厳選し、戻していきます。スッキリとした空間で暮らしたいなら、すぐ使うからといってテーブルや棚の上に出しっぱなしにするのではなく、使う場所の近くの収納の扉の中に定位置を決めましょう。そのほうが片づいた景色が維持しやすく、散らかって見えません。

また、収納スペースの中は詰め込みすぎないことも大切。カテゴリーごとにわけて、よく使う順に取り出しやすい位置に入れていきます。そうすることで、せっかく買ったのに使わない状況から脱することができ、暮らしやすく、散らかりにくい空間へと生まれ変わります。

さらに、寄せたものでしばらく使わないものや捨てるか悩むようなものは、そのまま部屋に放置しないでください。収納の奥や上段、使っていない部屋の収納の中に埋めて、一旦寝かせます。大切なのは「部屋の景色」です。使わないものは見えない場所に隠しましょう。

古堅純子 捨てない片付け ビフォー

古堅純子 捨てない片付け アフター

大切なのは片づけるための目標作り

──「片づけなければと思っても、なかなか行動に移せない」という人もいると思います。どうしたらいいでしょうか?

古堅さん
 片づけが思うように進まないのは、この部屋でどう過ごしたいのか、なりたい部屋のコンセプトなど明確な目標がない場合が多いです。「こうなりたい」という理想像が曖昧だと、どこから手をつけていいかわからなくなってしまいますよね。

例えば、「リビングで映画を楽しみたい」という目的があれば、プロジェクターを置くために、棚を減らして壁を大きく使えるようにする。そして、家具の配置を変えるといった作業が具体的になり、着々と片づけが進むでしょう。

「捨てること」を目的にするのではなく、「どのような暮らしをしたいか」を明確にすることで、片づけはぐっとスムーズになりますよ。

古堅純子 捨てない片付け 部屋の理想を考える

片づけ初心者でも大丈夫!まずは小さな成功体験から

──片づけや掃除の苦手意識はどうしたら克服できますか?

古堅さん
 片づけを始めるとき、「捨てなければ」、「家全体を今日中に片づけなくちゃ」というプレッシャーを持つ必要はありません。

苦手な方は、小スペースで見た目が変わるところから取り組むのがおすすめです。例えばデスクまわりや玄関まわりを更地にすることからはじめてみてください。片づいた景色に変わり、スペースが広がる事で達成感を味わうと、さらに片づけたい気持ちが生まれます。

小スペースでも片づいていくことで、よりほかの部屋の目標も明確になり、掃除もはかどるいいループになってくるはずです。

──ほかにも掃除初心者が意識しておくといいポイントはありますか?

古堅さん ダラダラ何日もかけてやるのではなく、1日にできる時間と範囲を決めて集中することがポイント。少しずつきれいになっていく成功体験を積み重ねることを意識してみてください。

あとは、片づいた景色を維持すること。ついつい…の積み重ねでのチョイ置きが、ものの溜まり場を作ってしてしまうので、「使ったら戻す」を習慣に。友人を家に呼ぶ機会などを定期的につくると、より片づけ習慣が身につきますよ。

年末年始の片づけは、引っ越しをするつもりで

古堅さん 年末年始の大掃除にはぜひ「引っ越しをするつもりでものを動かしてみる」という発想で、部屋を片づけてみてください。一度、部屋を「更地」にすることで、もので隠れて見えなかったホコリが一掃され、空間がリセットされます。そして自分が叶えたかった理想の空間や暮らしが見えてきます。

小さくものを動かすだけではなく、思い切った空間作りを試してみるのがおすすめ。新居に必要なものを選び配置する感覚で取り組むと、理想のレイアウトや暮らし方が自然と浮かび上がります。

大切なのは、「捨てなきゃ」と焦らないこと。「捨てない片づけ術」を取り入れれば、ものを大切にしながら無理なく片づけを進められるはずです。まずは小さなスペースからスタートし、理想の空間をイメージしながら、自分に合ったペースで進めてみてください。

片づけのプロ 古堅純子 著書

『ものを捨てない! 週末片づけの新常識』(古堅純子監修)¥1430/宝島社

イラスト/MIDORI KOMATSU 撮影・構成・取材・文/高浦彩加