学生時代からなにかと悩むことの多い友達との関係。大人になった今も友達との距離感に悩み、「しんどい」と感じている人は多いはず。友達とのつき合いが「しんどい」と感じてしまったとき、どうつき合えばいいのか、上手な距離の取り方や、自分の心をケアする方法など、心を軽くするヒントを、臨床心理士の南舞さんにお聞きしました。
公認心理師・臨床心理士・ヨガ講師
ヨガスタジオ・カウンセリングルームに行くことが難しい方のために、オンラインの活用やこども家庭支援センターなどの行政機関、学校、企業への訪問などを中心に活動中。また、各イベント出演、メディアへの出演・記事の監修など活動の場を広げている。メンタルヘルスやセルフケア、深刻になる前の予防への関心を高めてほしいという想いから、2023年に法人化(株式会社WWL)。カウンセリングとヨガを通してメンタルヘルスをサポートするサロン【Sati.】を立ち上げた。
「しんどい」と感じられるのは心が健康だということ

——大人になってから「友達がしんどい」と感じることが増えたという声が届いています。どうして、大人になってからより友達関係で悩む人が多いのでしょうか?
南さん:私のサロンでも、こういったご相談をされる方が多くいらっしゃいます。学生の頃から友達づき合いに悩む人は多いですが、大人になってからのほうが「しんどい」と思うのは、いろんな“属性”が変わってしまったからではないでしょうか。
学生時代はみんなが同じ学校に通って同じものを見ていますよね。でも社会人になると仕事も違う、結婚や出産などライフステージも変化する。その中で時間や自分のキャパも変化していき、今まで受け入れられたものも受け入れられなくなったり、友達というものの価値観自体も変わっている可能性があります。
友達というものの価値観が相手とずれてきたり、社会に出ていろんな価値観を知ることで、若い頃には気にならなかったようなこともその違和感が見過ごせなくなったりして、「しんどい」と感じてしまうのかもしれません。
——知らず知らずのうちにお互い変化しているかもしれないんですね。友達がしんどいと感じることで「私はイヤな人だ」と思ってしまう、という声もあります。
南さん:「そんなことないよ」と言葉をかけてあげたいです。友達というものへの価値観が違えば、相違が出てくるのは当たり前。「しんどい」と感じてもまったくおかしくありません。むしろ「しんどい」と感じるのは、傷つくことから自分を守るための状態で、心が健康であるともいえます。“しんどい=ダメ”ではなく、“しんどいと感じた=今後どうするか考えるきっかけになった”、ととらえてみてください。
「友達がしんどい」ときに、自分の心をケアする4つの方法

——まず「しんどい」と感じられた、と肯定できたら、心持ちが変えられそうです。では、そんな自分の心をケアする方法や、考え方のコツなどはありますか?
南さん:人によって合うものが違うとは思いますが、以下の4つの方法を試してみてはいかがでしょうか。
ネガティブな気持ちは、なくそうと思うほど増幅していきます。「こんなこと思っちゃダメ」と考えず、「私は今しんどいと思っているんだな」と、「しんどい」という感情に、自分のなかで居場所を作ってあげましょう。
2:「しんどい」をもっと深く言語化してみる
どういうところがしんどいのか、相手の行動や態度の何がしんどいのか、どんな場面がしんどいのか、言葉にすることで整理してみましょう。理解を深めることで漠然としんどかったことが楽になったり、対応を考えることにも役立ちます。一人で口に出してもいいですし、書き出してみるのもOK。
3:友達という存在について考えてみる
そもそも友達とはどういう存在か、自分の中でどんな位置づけなのかを考えてみましょう。改めて考えてみることで、自分を苦しめている思い込みを見つけられるかもしれません。
4:友達という存在を新たな視点で見る
3で友達という存在について考えたら、違う考え方はないか探ってみましょう。例えば“仲のいい友達は、しょっちゅう会うものだと思っていたけれど、実は距離があったほうが細く長く続くからいいのではないか”とか。
また、しんどいと感じる友人関係の中にも、“例外”がなかったか考えてみるのもいいかもしれません。同じ人とのかかわりでも「しんどい」と感じなかった瞬間があれば、その瞬間がどんな状況だったか思い返してみて。そこが解決の糸口になることがあります。
南さん:友達の作り方やコミュニケーションは誰かに教わって身につけたものではないですよね。まわりの人の見よう見まねで身につけている人が多いはず。自分にとって居心地のいい友達関係とはどんなものなのかを見直すことで、見えてくることがあるかもしれません。
友達づき合いに大事なのは、自分も相手も尊重する「アサーティブコミュニケーション」

——ネガティブな感情に居場所を作ってあげる、という発想は多くの人が楽になりそうですね! では、しんどい友達とはどうつき合っていけばいいのでしょうか。上手な距離感の探し方を教えてください。
南さん:日本だとあまりなじみがない言葉かもしれませんが、アサーティブコミュニケーションを身につけておくのがおすすめです。これは相手の気持ちや意見を尊重しながらも、「“私は”こう思っている。だからこうしてほしい」と、自分の思いを相手に伝えるコミュニケーションパターン。
日本語は主語がなくても通じてしまう言語だからこそ、隠れた主語を明確にして「自分がどうしてほしいのか」を伝えるのが大事です。直接話すのが難しいという人は文章でもいいですし、うまく伝える自信がない方は、話す前に一人でリハーサルしてみるのもおすすめです。
——アサーティブコミュニケーションができればベストですが、それがうまくできなくて悩んでしまう人も多そうですよね。そんなときに、楽になる考え方はありますか?
南さん:そうですよね。自分の考えを伝えることで関係が悪くなったり、相手の機嫌を損ねてしまうかも、と考える人もたくさんいらっしゃると思います。でも、自分がつらい・難しいと思っていることを無理して続けることは、相手のためにもなりません。“境界線を持っていたほうがお互いのためである”という認識を自分自身が持っておくことで、自分の意見を伝えることのハードルが低くなるかもしれません。
私としては、人間関係に対してもっと自分の意見を通してもいいんだよ、と思うことが多いです。特に日本には和を乱さないよう我慢することを美徳とする風潮がありますが、その美徳を大事にしすぎることで、自分自身、そして誰かとの関係性を大事にできなくなってしまうようなことも、ときにはあるのではないでしょうか。
——自分の意見を伝えることは、自分と相手のどちらも大事にすることなんですね。
南さん:お互いのためである、ということを忘れないでほしいですね。
あまり思い詰める前に、誰かに相談できるのがベストなのですが…友達関係のことを友達同士で解決しようとしたり、家族や身近な人に相談することしか解決の糸口がないことも実は「しんどい」と思うんです。私たち臨床心理士など、第三者に客観的に聞いてもらって考えるのも大事かもしれません。
カウンセリングと聞くと深刻な悩みじゃなければいけない、というイメージを持たれがちなのですが、友達との関係だって当人にとっては大きなこと。相談できる相手が広がっていくといいな、と感じています。
イラスト/せかち 取材・文/堀越美香子 企画・構成/木村美紀(yoi)