中元日芽香さんは乃木坂46の元メンバーであり、現在は心理カウンセラー。この連載では、“推される側”を経験し、“推す側”のメンタルにも寄り添ってきた彼女ならではの視点で、推し活とメンタルヘルスの関係について語ります。第15回のテーマは「推し活と親子関係」。推し活を親子で楽しむ人もいるけれど、逆に親に内緒で推し活をするという人も。中元さんの両親との思い出は……ヘルシーな推し活と親子の関係について語ります。

中元日芽香 連載 推し活とメンタルヘルス

中元日芽香

心理カウンセラー&メンタルトレーナー

中元日芽香

1996年4月13日生まれ、広島県出身。2011年からアイドルグループ・乃木坂46のメンバーとして活動し、2017年に卒業。早稲田大学で認知行動療法やカウンセリング学などを学び、2018年にカウンセリングサロン「モニカと私」を開設。心理カウンセラーとして活動を始め、今に至る。著書に『ありがとう、わたし 乃木坂46を卒業して、心理カウンセラーになるまで』『なんでも聴くよ。中元日芽香のお悩みカウンセリングルーム』(共に文藝春秋)。現在、メディアプラットフォームnoteにて、日々の活動の中で気づいたこと、感じたことを月2回不定期更新中。

第15回のテーマは「推し活と親子関係」

中元日芽香 連載 アイドル 推し活 メンタルヘルス 心理カウンセラー 元乃木坂46 恋愛 恋

私の母は、70−80年代に活躍したアイドル「ピンク・レディー」が大好きだったそうです。お二人が再結成してDVDが発売されたとき、いそいそと購入してテレビの前に立って踊る母を見て驚きました。「お母さん、振り付けを全部覚えてるんだ! すごい!」って(笑) それくらいハマっていたんですね。また、父はバンドマンで、母も昔、父のライブのステージの応援によく行っていたのだそうです。
そんな我が家は、ドライブ中の車内でも音楽がいっぱいかかっていて、小学生のときには「モーニング娘。」の野外コンサートに連れていってくれました。私がアイドルを目指したときも、スクールやオーディションという選択肢を提案してくれたのは母でした。15歳で芸能のお仕事を始めたとき、両親は、心配もしていたけれど、のびのびと挑戦させてくれました。子どもの意見を尊重してくれて、3人姉妹は大人になって独立。今はそれぞれの仕事を応援してくれています。家族の出演をチェックしたり、ライブを見たりすることで“家庭内推し活”をしているといえるかもしれません(笑)。たまに一緒に食事をしたり、実家に帰るときの楽しい話題になっています。

推し活を親子でオープンにする? それともしない?

中元日芽香 連載 アイドル 推し活 メンタルヘルス 心理カウンセラー 元乃木坂46 恋人 結婚

推し活が広く当たり前のことになってきて、親子2世代で推し活を楽しむ方々も増えていますね。
私のアイドル時代は、お父さんと娘さんが一緒に乃木坂46の握手会に来てくれたこともありました。思春期の娘さんとお父さんって、あまり話さないイメージがあるけれど、「今日Mステ見た?」なんていう親子の会話のきっかけのひとつになっているのかなと想像して、うれしかったのを覚えています。
また、最近お話した方から聞いたのは、お母さんが応援しているグループのライブに付き添いで参加した、というお子さんの話。普段仕事や家事で頑張っているお母さんが、推し活ではすごくキラキラしていて乙女のようだったそうです。推し活によって生活にハリが生まれ、元気で前向きになった姿を目の当たりにして、子どもとして安心したし、そのアーティストを一緒に応援したい気持ちになったのだとか。お母さんにとっても、子どもが一緒に“推し仲間”になってくれるのはきっと心強いし、楽しいですね。

親子で推し活の話題に花を咲かせるという人もいれば、一方で、親に推し活をしていることを言わない、言えない、という人もいます。推し活を楽しんでいても、親に対しては少し恥ずかしさと後ろめたさがある、そんな人も少なくないようです。あるいは推し活をしていると親にいい顔をされない、反対されるという人も。友達と旅行、と言ったら快く送り出してくれるのに、推しのライブに遠征、と言うと怪訝な顔をされるとか。「そんなに楽しいものなの?」「もっと家族と一緒の時間を過ごそう」「目の前の勉強や仕事を頑張りなさい」なんて言葉をかけられたりする。
理由のひとつは、親が推し活のことをわかっていないがゆえに警戒して、心配しているから。また、もうひとつ考えられる理由として、家族として子どもを守る……さらにエスカレートして従わせる、支配する感情が生まれていることも考えられそうです。家族の間、親子関係のなかでのヘルシーな推し活を考えた場合、これはあまりメンタルにいい状況ではなさそうですね。どうすればいいか、考えてみましょう。 

親子関係だって、ヘルシーに保つには距離感が大切

中元日芽香 連載 アイドル 推し活 メンタルヘルス 心理カウンセラー 元乃木坂46 恋 恋愛 疑似恋愛

親子だからなんでも話せるわけじゃない。家族には隠し事をしない、という決まりはない」と私は考えています。
推し活のことを家族がよく思っていない場合、そのせいで関係に亀裂が入ったり、望まない空気感になったりするくらいなら、無理に話す必要はないのでは。分かち合いたいときは、リアルやSNS上の推し活仲間と。推しの楽しみを語り合える相手がいれば、家族に内緒にしていても孤独感はやわらぐのではないかと思います。推し活って、本来楽しくてキラキラしたもの。たとえ親心からでも、悲しい顔をされたり、非難されたりするよりは、自分の“楽しい”が勝てるような推し活を探していけたらいいと思います。
親子って強い絆だし、特別な関係でもあるけれど、つまるところはやはり「人」対「人」の人間関係です。家族それぞれに性格や考え方がある。距離感を間違えると、幸せな方向に行かない時もある。関係が近すぎるがゆえにこじれてしまうことがあるかもしれません。自分が幸せな状態を保つためには、お互いに心配しすぎない、干渉しすぎないのもひとつの方法。そして、時には受け入れてくれる他人を頼ることも意外に大切。親子関係に「これが正解」というものはないので、距離感を把握していることが、いちばんヘルシーな形なのかなって思います。  

私と母の、ちょうどよくてあったかい関係の思い出

中元日芽香 連載 アイドル 推し活 メンタルヘルス 心理カウンセラー 元乃木坂46 恋愛 恋人

我が家は昔から「本人主義」な家庭方針。やりたいことをやりなさい、責任は自分で取りなさい、という感じで両親には育てられたように思います。大丈夫? と心配されることもあったけれど、特に大人になってからは、信じてそっと見守ってくれています。私自身もあまり自分の悩んでいることを親に話すタイプではありません。
10代の終わり、アイドル活動に疲れてしまった時期、私は両親には相談せず休業しました。その時の両親の言葉は「いつでも帰ってきていいからね」。実家に帰ってきなさいとか、しばらく療養しなさいとか、早く復帰しなさいとか、そうしたことは何も言われず、私のやりたいようにやらせてくれました。もしかしたら「本当はどうしたいの? どんな状態なの?」と聞きたかったかもしれません。でも、ずかずかと踏み込んでくることなく、いつも通り接してくれていました
当時の私は、一人暮らしで、料理する気力もなく、コンビニや出来合いの物を食べる生活。実家に帰って、母の作る温かい料理、スープにすごくほっとしたことをよく覚えています。そのとき母からもらった温かさを、次は与えられる側になりたい。お仕事で会うクライアントの方々やプライベートの友人、そしてまた家族へと、分け与えられるような人でいられたらいいな、と感じています。

ニット¥67100・ ミニスカート¥51700・ スカート¥74800・ 帽子¥27500/リディア(ヤンヤン) ネックレス(オレンジ)¥2750(アイシー)・ ネックレス(グレー)¥16800(トゥワクリム)/805showroom タイツ・靴/スタイリスト私物 

撮影/森川英里 ヘア&メイク/上野祐実 スタイリスト/高野麻子 画像デザイン/齋藤春香 取材・文/久保田梓美 企画・構成/木村美紀(yoi)