2023年4月からスタートした竹田ダニエルさんの連載「New"Word", New"World"」。「言葉をアップデートし、世界を再定義する」をテーマに、政治や経済、メンタルヘルスなどさまざまなトピックを紹介してきました。2024年10月には、本連載とyoiで公開した対談記事をまとめた書籍『ニューワード ニューワールド 言葉をアップデートし、世界を再定義する』を発売し、多くの反響をいただきました。連載中はさまざまなジャンルで活躍する方々と対談を重ね、また、Xではアメリカに住むZ世代の一人として発信を続けてきたダニエルさん。連載のテーマでもある「言葉」について、さまざまな角度で伺っていきます。

竹田ダニエル 連載 最終回 後編

竹田ダニエル

ライター

竹田ダニエル

1997年生まれ、米カリフォルニア出身・在住。カリフォルニア大学バークレー校大学院在学中。エージェントとして日本と海外のアーティストをつなげ、音楽と社会を結ぶ活動を続ける傍ら、ライターとして執筆。文芸誌『群像』の連載をまとめた初の著書『世界と私のA to Z』に続き、2023年秋に『#Z世代的価値観』(いずれも講談社)を刊行。

いろんな言葉や考え方が、私の世界を広げてくれた

竹田ダニエル 言葉 世界

——「言葉」を通して「世界」を知るというのが連載のテーマでしたが、ダニエルさんが「言葉」を得ることで救われた経験があれば教えてください。 

ダニエルさん:音楽ブログには救われたというか、たくさんの影響を受けました。「The Singles Jukebox」という、一曲につき10人ぐらいの評論家が曲について点数とコメントをつけるブログがあるんです。10点満点をつける人もいれば、1点という厳しい評価をつける人もいて、それがなぜなのか、理由と共に語られている。そして、そのコミュニティ内では閲覧者も自由にコメントを入れられたんですね。

それを読むのが好きで、いろんな意見があると知ったことで、私の中で世界が広がりました。
例えば、あまり好みじゃないと思っていた曲もコメントを読んで「なるほど、ここがいいのか」と気付けるようになって好きなものが増えたし、反対に「この意見はいやだな」と思うものに対して、どうしていやなのか、怒りの理由を探すようになった。

——メディアでの連載や寄稿だけじゃなく、SNSでもたくさんの言葉を発信されていますよね。言葉を自分の心に留めておくのではなくて、多くの人に「発信」することは、ダニエルさんの中でどのような意味を持ちますか? 

ダニエルさん私はいろんな媒体で原稿を書いたりしているから、その下書きのつもりでXで投稿を書くことが多いです。コメントや「いいね」をもらうと、「みんな、こういうことに関心あるんだ」ってテストできる場でもあって。だから、発信して多くの人に注目されたいとか、自分の考えを押しつけたいというのは前提にはありません。

イーロン・マスクによる買収後、インプレッションを稼ぐとお金を稼げるシステムになったことで、意図的に炎上するようなコンテンツを投稿し続けるアカウントが出てきましたよね。その影響で、どんな投稿を見るときも疑心暗鬼な気持ちになってしまうのは理解できます。時々、「竹田ダニエルは過激なこと言ってインプレ稼ぎしてる!」ととか悪口を書かれると、自分の真意とのミスマッチを感じてストレスになるから、最近はあまり投稿するモチベーションも出てこないんですが…。

アメリカで起きている議論ってなかなか日本では伝わらない部分があったり、間違って解釈されていたりもするから、「実際にはこういうことが起きているんだよ」と、ひとつだけのリアルがあるわけではないというのを伝えたいというのが割と動力にはなっていますね。 

誰もが羨むような人気者にもその人なりの苦労がある、と知ってから

竹田ダニエル 言葉 人気者

——これまで、連載と対談記事でダニエルさんに取材をしてきて、ダニエルさんは人と会話することが好きな方だなと感じていました。ダニエルさんは、「会話」が持つ力とはなんだと思いますか? 

ダニエルさん:私は普段日本で暮らしていないので、日本に住んでいる人がアメリカに関するどんな事情が気になっているのかわからなくて、会話を通してそれが聞けるのがおもしろいですね。あとは、日本に住んでいるとこういうことが大変なんだということを教えてもらえるのもありがたいと思っています。 

yoiで対談した人たちは、作家やミュージシャンなど職種はバラバラですが、“継続すること”がどれだけ大変なのかを知っているのが、共通点だと思っています。それぞれの世界で活躍していて、キラキラしているように見えるかもしれないけど、世の中が抱いているイメージと、本人の言葉から垣間見える面って本当は全然違いますよね。

会話を通して本人の言葉を知る機会が増えたことで、私自身、以前ほど有名人に会っても「キャー!」と思わなくなってしまいました(笑)。人気者の現実がそんなに楽しいことばかりじゃなく、大変なことも多いと知ったから。そして、視野が広がった分、人に対して過度に「羨ましい」と思わなくなりました。順風満帆のように見えても、なんの苦労もしてなさそうに見えても、必ずしもそうじゃない。アメリカにいるとそういう話はよくされるけれど、日本にいるとキラキラした面しか見られないということも多いと思う。だから、自分のリアルなことを語ってくれるのはありがたいですよね。例えば、ホセ(作家・安堂ホセさん)の話とかね。

——人と会話することでエネルギーを得られる感覚はありますか?

ダニエルさん:エネルギーをもらう一方で、実は人に対してすごく気を遣うタイプだから、家に帰ったら速攻パジャマに着替えて、ベッドに入って動けなくなります(笑)。でも、この仕事を通じて、いろんな人の意見を聞けるのはおもしろいですね。どんな人に会っても、その人なりのストーリーがある。そこにおもしろさを感じられるようになってからは、会話が以前より楽しめるようになりました。 

自分の頭で考える。自分の言葉を作っていくために

竹田ダニエル 言葉 新芽

——「状況や物事を言語化するとき」と「自分の気持ちを言語化するとき」。それぞれの「言語化」において、意識していることはありますか?

ダニエルさん:あまり意識せず、思ったことをそのまま形にしていますね。例えば、セラピーに行く人って、セラピストから具体的なアドバイスが欲しいというよりも、対話を通じて自分の気持ちを整理して言語化したいという人が多いと思うんです。それと似ていて、自分の意見を肯定してもらいたいとか、感情で突き動かされて発信するというよりも、頭の中で考えながら気づいたこと、ふと思ったことを形にしている感じ。

読者の方から「竹田ダニエルさんが私のモヤモヤを言語化してくれた!」ことが多いのですが、実は結構複雑な気持ちになります。それはなぜかというと、感謝してもらえるのはもちろんとてもうれしい一方で、自分の頭できちんと考えずに誰かの意見をそのまま受け取って、ただ賛同していくだけだと、言葉の強い人に洗脳されていくというか、傾倒していってしまう可能性もあるのではないかと思っていて。

私は発信を通じて、「こう思うべき!」とか考えを押し付けているわけじゃなくて、こういう考え方や意見があるよという情報を提供しているだけ。だから、「言語化してもらった!」という感想で終わってしまうのはマズいのでは?と思ってしまいます。声が大きい人の言葉に身を委ねすぎると、自分の意見がなくなっちゃうので。

——いろんなものを見たり聞いたりして、考え方を醸成して言語化していく。そして、自分の言葉を作っていくのは訓練がいることなんじゃないかと思います。ダニエルさんはどうしていますか?

ダニエルさん:最近、その質問と同じような感じで、「日本人は伝える力がなくて」とある編集者に言われたんですが、それってどういうことなのかあまりわからなくて。アメリカ人は間違っていたとしても、“自分が正しい”と思って意見を伝えようとすることが多いんですよね。

——日本には「言わずに察して」という暗黙の了解文化があったり、婉曲表現を好む傾向があったり、また、自分が間違っていたらどうしようとか、意見を否定されたら怖いという意識もあって、自分の意見を伝えるのが苦手な人が多いのかもと思います。 

ダニエルさん:それはつまり、自分の意見が間違っていて、誰かに否定されたとしても、自己主張しなきゃいけない場面があまりないことも関係しているかもしれないですね。

——そうかもしれないですね。ただ、自己主張をすることと、自分で言語化して把握できてるかはまた別のことなのかなとも思います。 

ダニエルさん言語化が苦手だと思う人は、「こういうふうに思わなきゃいけない」という潜在意識があるのかな? 例えば、自分の気持ちに正直に耳を傾けようとしても、その気持ちがネガティブだったら、それを否定することが先に来ちゃうとか。「こんな暗いこと考えてたらダメだ。もっとポジティブに考えなきゃ」と。でも、それはあまり意味がないことだと思うんですよね。 

——確かにそういうところはあるのかもしれませんね。自分のことになりますが、政治や社会の話題について語る時も「あなたはどう思う?」とあまり聞かれないし、聞いてこなかった気がしていて。自分の気持ちや考えたことを素直に言葉にしていく機会が少なかったら、何かにモヤモヤしてても言語化せず、近い考え方を持っている人の意見に賛同して終わり、となってしまうのかもしれません。

ダニエルさん:私ももちろん間違えることもあるし、過去に発言した内容も1年後には意見が変わってることだってある。フォロワーが多い人や本を出した人が言っているからといって、必ずしもそれが正しいわけじゃないし、人の意見も変わるということはみんな共有できたらいいですよね。 

——本当にそうですね。誰かの意見に自分の考えをすべてゆだねることがどれだけ危ういことか。特に今は、声が大きい人が民衆を扇動しているから。 

ダニエルさん:そうなんです! だから、学びながら、いろんな意見を聞いて新しいことを知りながら、「当たり前」に懐疑的になれたらいいよね、と思います。

誰とでも仲良くしなきゃいけないわけじゃないし、共感しなきゃいけないわけじゃない

竹田ダニエル 言葉 共感

——では、最後の質問です。これまで言葉にまつわるあれこれを聞いてきましたが、ダニエルさんの好きな「言葉」を教えてください。 

ダニエルさん感謝の言葉かな。「ありがとう」とか「こういうことしてくれてうれしいよ」とか、そういう言葉を聞くとうれしいし、安心します。仲のいい仕事仲間がよく言っていて、「私はあまり伝えてこなかったかも」って反省することも。

最近、ある音楽グループの映像を見ていたら、ライブ後にあるメンバーが、失敗したと落ち込んでいて、他のメンバーが「でもこんなところがよかったよ」と言葉をかけていたんですね。それに対して、落ち込んでいたメンバーは、自分のパフォーマンスに納得はできていないけれど、メンバーが声をかけてくれたこと自体に対して「そう言ってもらえて助かる」と受け入れていたんです。相手の言葉を否定するんじゃなくて、気持ちを受け取って、感謝の言葉を伝えるってすごくいいなと思いました。

そう思うと私は普段接してる人に「ありがとう」と言えていなかったなと思います。自分に余裕がないと、感謝の気持ちを伝えられなくなってしまって。だからといって、ただ気軽に「ありがとう」を言えばいいんじゃなくて、本当に思った時にだけ言うようにはしたいです。相手を気持ちよくするために上辺のことばっかり言ってたら、言葉に説得力がなくなるから。正直な言葉って大事ですよね。SNSやインターネットにフェイクやPRが多いから、余計にそう思います。 

私は誰かにインタビューするときには、「自分の話をするのはすごく大変だったと思うけど、話してくれてありがとう。感謝しています」と伝えるようにしています。その人の意見にすべて同意するかどうかは別として、言ってくれたことに対して感謝する。

——その気持ち、すごく大事ですよね。例えば違った意見を持つ人を拒絶したり、対立するために言葉を使うんじゃなくて、いろんな意見があることにまず関心を抱いて、話してくれたことに感謝の気持ちを持つ。そういう視点をみんなが持てるようになるといいですね。 

ダニエルさん誰とでも仲良くしなきゃいけないわけじゃないし、必ず共感しなきゃいけないわけじゃない。たとえ意見が違っても、それが個人的な攻撃だとは限らない。なぜそういう意見を持つのか、育った環境や今いる環境とか、誰でも何かしらの影響を受けてると思うから、会話をすることが、その背景に想いを巡らせるきっかけにもなると思います。

最近、初めて会った人に自分の意見を伝えたら「私はそう思わない」ってキッパリ言われたけど、その理由を聞いていくと、そういう考え方もあるのかと思えたし、その人のことを嫌いになるというよりも、おもしろいなと思えました。そんなふうに他者をよく理解するために、言葉を使っていけたらいいですね。

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ニューワード ニューワールド 言葉をアップデートし、世界を再定義する

構成・取材・文/浦本真梨子 企画/木村美紀(yoi)