日々の暮らしで感じる疑問や喜び、悲しみ、怒り。そうした感情が生まれるのは、わたしたちが「社会」とつながっているから。わたしと地続きにあるこの社会について、それぞれの形で発信を続ける方に、社会とのつながりを意識するようになったきっかけと、これからについて伺っていきます。第3回は、25年以上にわたって選挙取材を続けるフリーランスライターの畠山理仁(みちよし)さん。

フリーランスライター
1973年生まれ。大学在学中より雑誌を中心に取材・執筆活動を開始。『週刊プレイボーイ』(集英社)の連載「政治の現場すっとこどっこい」を担当したことをきっかけに選挙取材を始める。2017年に『黙殺 報じられない"無頼系独立候補"たちの戦い』(集英社)で第15回開高健ノンフィクション賞を受賞。2021年には『コロナ時代の選挙漫遊記』(集英社)で咢堂ブックオブザイヤー2021の選挙部門大賞。2023年にはその選挙取材に密着したドキュメンタリー映画『NO 選挙,NO LIFE』が公開され、話題となった。ニコニコ生放送「畠山理仁チャンネル」配信中。
選挙取材は例えるなら秘湯・名湯めぐり。その時々にしか出会えない“名湯”がある

──畠山さんは「候補者全員に接触するまでは記事を書かない」ことを信条に、大手メディアが決してやらない選挙現場での「候補者全員取材」を続けていらっしゃいますが、そのきっかけは何だったのでしょうか?
畠山さん 選挙取材のきっかけは、『週刊プレイボーイ』で大川興業総裁・大川豊さんの連載「政治の現場すっとこどっこい」を担当したことです。選挙の現場って、本当に面白くて“ハズレ”がないんですよ。候補者の人たちは民主主義に一生懸命な人が多いし、ひとつとして同じ選挙はない。
「みんながこのエンターテインメントにお金(税金)を払っているのに、僕だけが楽しんじゃっていいのかな…」みたいな思いもあって。たまたま自分は他の人に比べて選挙現場の経験が多いので、選挙の面白さや可笑しみ、すごさを少しでも社会に還元しなきゃいけないなと。
──「ひとり民主主義応援団」を名乗っているのも、そうした思いからですか?
畠山さん そうですね。僕は「日本は民主主義の国なのだろうか?」という疑いを強く持っているんです。民主主義を大事にする人たちだったら、たぶんこんなに選挙のことを無視しないはずなので。じゃあどうしてこんなに民主主義が遠くなっているのかと考えると、「自分が政治的決定に関与している」という実感を持てないからなんですよね。
本来、有権者は「最高決定権者」です。お金(税金)を払っているスポンサーでもあるわけじゃないですか。自分が最高決定権者なのに、民主主義の根幹である選挙のことを知らないのは、すごくもったいないと思います。
──「“ハズレ”がない」「知らないのはもったいない」という選挙、なかでも候補者取材の面白さについてぜひ教えていただけますか。
畠山さん 候補者の人たちは誰よりも選挙を楽しんでいるから、会うとものすごくエネルギーをもらえるんですよ。例えるなら、秘湯・名湯めぐりをしているような感覚。
ひと口に温泉といってもアルカリ泉や塩泉があるように、候補者それぞれに違いがあるし、選挙によっても違う。ひとつ例を挙げると、東京都知事選挙に何度も立候補している人がいます。ところが同じ候補者でも、2012年と2014年の東京都知事選挙では手法や考え方が変わっていたりする。その時々にしか出会えない“名湯”があるので、毎回会いに行きたくなるんですよね。
──畠山さんが敬意を込めて「無頼系独立候補」と呼ぶ、いわゆる“主要候補”ではない候補者の人たちにも、それぞれ出馬に至るまでの強い思いがあるでしょうから、まさに源泉ですね。
畠山さん そうです。候補者の人たちは、本当にいろいろな思いを抱えながら政策を考え、少なくない供託金を払って立候補される方がほとんどで。その覚悟と決断は本当にすごいと思うし、そういう出会いから自分自身も勇気をもらっています。
80代・90代になってもすごく楽しそうに選挙活動している人や、自分では思いつかないような発想を世の中に向けて発表している人たちを見ていると、こんなふうに自由に生きていいんだって励まされるし、元気になれる。それも選挙取材を続けている理由のひとつだと思います。
政治家は私たちの代理人。「一票を託すかどうか」は自分で決めていい
──ただ、人によっては体質に合わない源泉があるように、候補者の政策や主義主張が自分とは異なる場合もありますよね。畠山さんは「取材」という前提があるので、個人的な思いと切り離して考えやすいとは思いますが、それでも敬意を持って聞くことが難しいなと感じることはありませんか?
畠山さん 僕は逆に、「聞かないともったいない」と思っているんですよ。世の中の奥深さというか多様性を感じさせてくれるのが選挙の場。特に候補者は飛び抜けてエネルギーがある人たちなので、自分の中の「常識」が壊されるというか。根っこの思想が違っていても、自分では絶対に思いつかないようなアイディアや面白さを持っている人がたくさんいらっしゃるので、それは会っておかないともったいない。
思想が違う人に会うことを怖いと感じる人もいますが、有権者である私たちはむしろジャッジできる立場にいるんです。候補者の話を聞いたうえで「一票を託すかどうか」は、自分で決められることなんだと認識している人がまだまだ少ないのかなと思いますね。「会いたくない候補者には会わない」というのもひとつのチョイスですが、会ったうえで「もう2度と会わない」と決めるほうがいいのかなと。「会ってみたら意外と…」なんてこともありますから。
──だからこそ、候補者全員に接触したうえで記事を書くことを信条にされているのですね。ここ数年はSNSでの選挙運動も活発化していますが、有権者として政治や選挙の情報に触れる際のアドバイスをいただけたらうれしいです。
畠山さん 選挙を含めて、政治家が発信する情報は基本的に「自分が見せたいところしか見せない」というスタンスなので、いわゆるオレオレ詐欺と同じぐらいの警戒心で見たほうがいいと思います。選挙公報とか選挙ビラとかSNSは、いいことしか書いていないチラシですから(笑)。
日本人は素直なので、強い口調で「私はこれをやります!」と言われると「やってくれるんだ! 素晴らしい」と思ってしまう人がものすごく多い。でもそれって非常に危ないというか。僕はよく「政治家に文句を言うのは簡単だけど、それを選んでいるのは有権者だから。有権者頑張ろう」と言っていますが、その言葉に秘めているのは「有権者しっかりしろ」なんですよ。
私たちはそれぞれに仕事を持っているから政治のことをやり続けるのは難しい。だから自分たちの“代理”として専門でやる人を選ぼう、ということで生まれた仕組みが選挙です。国会議員が「代議士」と呼ばれる理由もそこにあります。
政治家は私たちの代理人なので、単なる応援団になったり「先生」と崇め奉ったりするのではなく、「それは本当?」「あのときの約束はどうなったの?」と批判的な目を持って見ていかなきゃいけないと思います。
とにかく意思表示をしないと、世界のほうからは1mmも近寄ってこない

──政治や政治家を遠く感じる背景には、そうした選挙の成り立ちも含めて、政治について気軽に話せる機会が少ないことや、投票した候補者が当選しなかった=失敗と思ってしまう空気も影響しているのかなと感じます。
畠山さん そうですね。特に若い世代の人たちと話をしていると、大人から「政治のことは難しい」と言われてきたせいか、「自分がまちがえちゃったら世の中に申し訳ないから、投票できませんでした」という人が結構いることに気づいて。彼らには、「投票したあとに『失敗した』と思ったら、次から失敗しないようにすればいい。とにかく自分の意思表示をしないと、世界のほうからは1mmも近寄ってこないよ」と伝えるようにしています。
そもそも世の中は政治が決めた法律やルールで運用されているので、誰一人無関係ではいられません。年齢に関係なく、この世の中を生き抜いているだけでみんな政治のプロなんだから、誰に一票を託すのがいいかを自分で決断して投票したなら、それは自信を持っていいし、誰からも責められることではない。それを伝えると、「そうか、いいんですね。自分で決めて」とハッとする人も多いですね。
──自分で決めるためにも、知ることや見ることが必要になりますね。現場で取材されていて、選挙の現状に違和感を感じることも多いのでは?
畠山さん 僕が選挙のたびにおかしいと思うのは、正当な理由もなく公道で行う街頭演説の予定を明かさない候補者がいることです。聞いても教えてくれない、あるいは「支援者にしか教えていません」と言う政治家が何期も当選している。そういうことがずっと許されてきた世界なんですよ、日本の選挙って。そんな国はおかしいと思っています。
それから、例えば何かを買おうと思って情報収集するとき、HPやパンフレットにお客さま相談窓口の電話番号やメールアドレスが書いてありますよね。実はいまの日本の政治家って、それを明記しないまま立候補している人も多くて。
「この人なら投票してもいいかな」と思える政治家を育てることも有権者の仕事
──何かを知りたい、伝えたいと思っても問い合わせ先がわからないということですか? …売り逃げみたいですね。
畠山さん そうです。実は私たちは、政治に求めていることや実現してほしいことを伝える窓口がない人を選んでいたりする。そういうことも含めて「何のために政治家を議会に送り出しているのか」を有権者がちゃんと考えていかないと、私たちが求めることと政治がやろうとすることの差がどんどん広がってしまいます。
──畠山さんの著書『コロナ時代の選挙漫遊記』には「ヒーローの出現を待ち続けるよりも、自分たちで政治家を育てた方が社会は着実に良い方向へ向かっていくはずだ」という言葉がありました。畠山さんが考える、有権者と政治家の“いい関係”とはどんな関係でしょうか?
畠山さん 先ほど申し上げたように、政治家は私たちの代表として政治のことを“代理”でやっている人なので、要望があれば当然伝えていい。それから「投票したい人がいない」という声もよく聞きますが、政治家を「この人なら投票してもいいかな」と思える人物に近づけていくことも有権者の仕事です。
有権者がつねに代議士や地方議員にツッコミを入れて、政治家も有権者の要望を幅広く聞いて社会に反映しようとする。そんないい循環をつくりながら、政治家と一緒に有権者もレベルアップしていく方向に持っていけたら幸せな関係かなと思いますね。
民主主義はゆっくりゆっくりしか育たないから一気に変えることは難しいけれど、逆に簡単にガラッと変わってしまうような社会は民主主義ではないので。「あきらめずに、いい方向に転がるような仕組みづくりをみんなでしていきましょうよ」と呼びかけていきたいです。

選挙権がない地域の選挙現場を観戦しながらその土地の名物を楽しむ「選挙漫遊」という言葉を生み出し、2023年からは「選挙漫遊士」として現場の歩き方を伝える「選挙漫遊講座」をスタート。「選挙現場で声をかけてくれた方には『選挙漫遊士』のシールを差し上げています。そういう楽しみ方もあるので、ぜひ現場に足を運んで僕を見つけてください」(畠山さん)
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『候補者の街頭演説』 『FIFTYS PROJECT』
「選挙のときに街頭演説をちらっと見るだけでも面白いと思うんですけど、特におすすめなのが応援弁士の演説。失言がたくさん飛び出しますから、楽しみに見ていてください(笑)。
他にも、どんな人がチラシを配っているのか、支援者の人たちのファッションや使っているアイテム、候補者とスタッフの会話など、現場で気になったところをじっと見ていると絶対に面白いことが起きるので。『つまらなかった』っていうのも大発見ですから。
そして、政治分野のジェンダーギャップ解消を目指す『FIFTYS PROJECT』は、こういう活動を大人がどんどん応援しなくてどうするんだと思っています。僕自身、可能なときは寄付しています。マンスリーサポーター制度もあるので、よかったら検討してみてほしいです」(畠山さん)
イラスト/三好愛 画像デザイン/前原悠花 構成・取材・文/国分美由紀