「yoi」ではSDGsの17の目標のうち「3. すべての人に健康と福祉を」、「5. ジェンダー平等を実現しよう」、「10. 人や国の不平等をなくそう」の実現を目指しています。そこで、yoi編集長の高井が、同じくその実現を目指す企業に突撃取材! 第7回は、「ザ・ノース・フェイス」のマタニティ&ファミリーライン「MATERNITY+」について、キッズグループ マネージャーの田中恒光さんとプレスの谷本茉莉さんにお話を伺いました。
◆「MATERNITY+」とは?
2019年の秋冬シーズンに、妊娠・出産という変化を楽しみ、新しい挑戦を続けていく女性のための「THE NORTH FACE for MATERNITY」が誕生。2022年からは性別を問わず、育児をする人の負担軽減を目的に「MATERNITY +」へと進化し、ユニセックスアイテムのラインアップを強化。「こんなアイテムが欲しかった!」と言いたくなるような工夫が細部に凝らされている。
(写真左から)高井編集長と、プレスの谷本茉莉さん、キッズグループ マネージャーの田中恒光さん。
ザ・ノース・フェイス プレス
スタイリストアシスタント、販売、VMDなどを経験した後、ゴールドウインに入社し、2020年からキッズプレスとして活躍。料理が趣味ということもあり、キャンパーとしては初心者ながらキャンプ飯をつくる楽しさの虜に。第一子妊娠中で、2024年春出産予定。
ザ・ノース・フェイス キッズグループ マネージャー
販売スタッフを経て、企画部署に異動。2013年よりキッズカテゴリー担当へ。現在はキッズチームのマネージャーとして活躍。自然の美しさに魅了され、森の風景を絵に描くのが趣味。今は、子どもと一緒にキャンプでのんびりするのが幸せなひととき。
アウトドアで培った機能を、育児のストレス軽減に生かしたい
高井 まずは「MATERNITY+」のはじまりから伺いたいのですが、前身となる「THE NORTH FACE for MATERNITY」が誕生したのが2019年。これは2018年からザ・ノース・フェイスが実施している、女性の挑戦や冒険を応援するキャンペーン「#SHEMOVESMOUNTAINS」がきっかけで生まれたのでしょうか?
谷本 アメリカで「#SHEMOVESMOUNTAINS」キャンペーンが始まったとき、すでに日本でもマタニティラインの構想が始まっていました。たまたま時期が重なっているだけで、キャンペーンとは別の動きなんです。
田中 僕は2013年からキッズチームに加わったのですが、2014年あたりからベビーのラインアップを増やし、2016年には抱っこ紐やベビーカーに装着可能な保温カバー「ベビーシェルブランケット」の構想がありました。そうした動きの先に、自然と「マタニティ」というキーワードが出てきて。
創業者のケネス・“ハップ”・クロップが掲げる「アウトドアと日常のシームレス化」に基づいて、アウトドアで培った機能を育児に関わる人たちのストレス軽減に生かすというコンセプトで企画しています。
抱っことおんぶ、双方に対応するユニセックスのレインコート「マタニティ ピッカパックレインコート」。抱っこしているときはフロント、おんぶしているときはバックのファスナーにベビーカバーを連結できる。コートのフードは襟の部分に収納できる。Mサイズは約540g、Lサイズは約635g。¥49500/ザ・ノース・フェイス
シーンや性別を問わず、「ロングライフ」を実現するために
高井 アメリカ発の施策ということではなく、日本チームの皆さんの中で熟成されていったのですね。2022年からはユニセックスアイテムを強化されましたが、2019年のローンチから新型コロナウイルスのパンデミックを経て、ニーズや方針などの変化があったのでしょうか。
谷本 まず時代の流れとして、“育児は性別を問わず向き合うもの”という認識が広がってきたと感じますし、パンデミックによって、家族としてのつながりや絆といったものへのニーズがより強まった印象もあります。
田中 ブランドとしては、育児そのものにフォーカスをしていきました。例えば、最初につくったレインウェアは、透湿性や着心地のよさといったアウトドアメーカーならではの優位性を生かして、抱っこ紐をしたままでも着用できる機能性とデザインを兼ね備えています。そして、アウトドアはもちろん日常も含めてより長く着られるように、育児が終わっても着用できる仕様にしたり、ユニセックスで兼用できるようにしたりしています。
高井 その視点も、「アウトドアと日常のシームレス化」という理念の延長線上にあるものですね。
谷本 いわゆるマタニティパンツも、実際に着用する期間は半年ぐらいしかないのでもったいないですよね。私たちは、アイテムをできる限り長く使っていただく「ロングライフ」というキーワードを大切にしているので、産前・産後もずっと使えるという視点は、どのプロダクトにも反映されています。
産前産後兼用の「マタニティロングパンツ」は、出産後にゴールドウインリペアセンターで無償修理が可能。ウエストリブを取り外すことで産後も継続して着用できる。取り外したリブの部分は、ベビーのおもちゃに仕立て直してプレゼント(写真左)。¥16500/ザ・ノース・フェイス
「MATERNITY+」を後押しした3つの要素
高井 確かに、ザ・ノース・フェイスをはじめアウトドアブランドのアイテムって、お直ししながら愛着を持って長く使われる方が多いですよね。お話を伺っていると、チームの皆さんが同じ方向を向いていらっしゃるのだなと感じますが、後押しする文化というかきっかけのようなものがあったのでしょうか。
田中 いくつかありますが、ひとつが社内の空気の変化です。2013年頃からキッズラインにしっかり取り組もうという動きが生まれ、2019年にマタニティラインがローンチする頃には、かなり育休休暇を取得しやすくなりました。育児休暇の件は、企画チームで一緒にやっていた30代の社員(現在育休中)が社内でさまざまな働きかけをした成果でもあります。企画チームの男性でも、育児休暇を短いタームで取得する人もいれば、半年取得する人もいて、それが当たり前になってきました。
谷本 本当に育休を取得する男性社員は増えましたね。
高井 すごくいいですね。
田中 ふたつ目は、子育てをする父親の視点です。例えば、定番のマウンテンジャケットをベースにした「CRストレージジャケット」というアイテムは、自分を含めた子育て中の男性社員20人ほどで座談会を開催し、製品化していきました。男性はいわゆるママバッグのような大きな荷物を持ちたがらない人が多いんですよね。必要なものは全部ポケットに入れて、手ぶらで出かけたい(笑)。
谷本 座談会でも「荷物を持ちたくない」っていう声が多かったので、「CRストレージジャケット」はポケットが11個もあって、マチも広いのでバッグいらず。水筒のボトルも楽々入ります。「MATERNITY+」は、オンラインへのアクセスや購入比率を見ると男性のほうがすごく多いという結果が出ています。展示会でも「こんなアイテムがあったの⁉︎」「子育てしているときに欲しかった」という意見をたくさんいただくので、ご紹介のしがいがありますね。
この日、田中さんが着用していた私物の「CRストレージジャケット」。
社内勉強会でSRHRへの理解を深め、価値観をアップデート
高井 「女性の問題は、男性の問題でもある」という言葉があります。「MATERNITY+」のアイテムによって、男性が自ら積極的に育児をすることで女性側のストレスも軽減されて、パートナーとしても家族としてもいい関係を育める循環が生まれそうです。そしてコンセプトに通じるジェンダーレスなデザインも、10年前にはなかなか見つけにくかったものですよね。
田中 まさにジェンダーレスが3つ目の要素です。ザ・ノース・フェイスでは「SRHR(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ:性と生殖に関する健康と権利)」の認知向上にも取り組んでいて、「CRメッセージティー」というTシャツの収益の一部を公益財団法人ジョイセフのSRHR認知の向上や母子支援の取り組みに役立ててもらうことにしています。社内でもSRHRへの理解を深めるための勉強会を進めていく予定です。
私もこのタイミングでジョイセフを通じて学んでいるところですが、女性の体や月経の仕組み、昔と比べて月経の回数が10倍近く増えている=月経痛やPMSなどで約10倍苦しむということを知ると、もっとパートナーをケアしなければいけないなと感じます。育児を通じて、あるいはいつか育児に臨むためにも、女性の体の変化や構造を知ることは必要だと思います。
高井 素晴らしいですね。共に歩んでいきたい気持ちでいっぱいです。今後の展望についても伺えますか。
田中 これからも引き続き、育児に参加する方たちのストレスを軽減できるアイテムをつくっていきたいですし、SRHRのことも含めた価値観のアップデートを提案し、共感が得られるブランドでありたいですね。そのための活動もしていきたいと考えています。
取材を終えて…
私が10年以上前に妊娠・出産を経験したとき、マタニティウェアとアウトドアブランドはまったく別のもの、という認識でした。ましてやパートナーとシェアできる育児しやすいアウター、なんて思いもつきません。「当たり前」を疑わなかった当時の自分がこのプロダクトに出会っていたら、妊娠・出産・育児への考え方が変わっていただろうなと思います。
ザ・ノース・フェイスが「会社ごと変わった」ことは、そこで働く人にも、製品を買う人にも、幸せと同時にさまざまな気づきをもたらしていると感じました。温かい気持ちに満たされた取材でした。(高井)
撮影/露木聡子 画像デザイン/坪本瑞希 構成・取材・文/国分美由紀 企画/高井佳子(yoi)