「yoi」ではSDGsの17の目標のうち「3. すべての人に健康と福祉を」、「5. ジェンダー平等を実現しよう」、「10. 人や国の不平等をなくそう」の実現を目指しています。そこで、yoi編集長の高井が、同じくその実現を目指す企業に突撃取材! 第23回となる今回は、2025年に「B Corp認証」を取得したクラランスの多様なCSR活動について、代表取締役社長の小山順子さんにお話を伺いました。


(左から)小山順子社長と高井編集長。
◆クラランスのCSR活動とは?
1989年にリウマチ性疾患研究のために「関節炎財団」を設立し、1999年には化粧品業界で初めてプラスチック製ショッピングバッグを全面廃止。2007年からフェアトレードプログラムを、2011年から学校給食プログラムを開始。2014年にはサンケアや洗い流す製品においてマイクロプラスチックビーズを完全排除。2020年にカーボンニュートラルを達成するなど、創業以来、「人と地球にポジティブな影響を残したい」という思いのもと、持続可能な未来のための活動を続けている。
B Corp認証を取得している大企業はわずか1.9%。調査への回答数は2年間で2万5000回に

高井 「女性の声に耳を傾けること」と「自然を愛すること」という信念のもとで創設されてから現在まで、クラランスはさまざまな社会課題に取り組まれています。今年に入ってB Corp認証も取得されましたが、いつ頃から準備を進められていたのでしょうか?
小山 B Corp認証の取得に向けた取り組みは、2022年にスタートしました。クラランスは「Making life more beautiful and passing on a more beautiful planet(人生をより美しく、もっと美しい地球へ)」という企業理念を掲げていますが、その根本には「私たちは次世代によりよいものを継承していくための担い手である」という思いがあります。
ですから、約70年にわたって環境や従業員、地域社会、お客さま、企業経営の透明性への責任を果たすための取り組みを行なってきました。B Corp認証をいただいたことで、そうした取り組みや思いをより伝えやすくなったのではないかと思います。
高井 B Corp認証を取得している企業は世界に9500社ほどありますが、クラランスのような大企業は1.9%だそうですね。
小山 そうなんです。美容業界では10社ほどしかありません。認証を取得するまでの2年間は28の部門と250人がかかわり、調査への回答数は2万5000回にも及びました。グループ全体での調査だったので、エビデンス資料の準備や提出も含めて大変な作業でしたね。
高井 多くの方の協力で実現された認証取得について、美容業界の皆さんからの反応はいかがでしたか?
小山 「おめでとう!」というよりは「クラランスがずっと取り組んできたことですよね」と納得される方が多かったですね。B Corp認証では、いかに社会的・環境的に正しい企業であるかという透明性が重視されますが、実は私たちはもう少し先を見つめていて。2022年には「クラランス T.R.U.S.T.」をスタートしました。
これは、製品パッケージに記載された二次元コードからアクセスすると、原材料の生産地から収穫方法、製造プロセス、包装など、お客さまに届くまでのプロセスを追跡できるトレーサビリティシステム。美容業界で実施しているのはクラランスだけです。現在250以上の製品を対象にしていますが、将来的にはすべてのスキンケア製品で実施できることを目標としています。
困難な状況の子どもたちに4500万食以上の学校給食を提供

高井 子どもの飢餓という課題解決のために取り組んでいらっしゃる、学校給食を提供するプログラムについてもぜひお聞かせください。
小山 学校給食には、子どもの飢餓を減らして健やかな成長や学びを支えるという大切な役割がありますが、世界には学校給食を受けられない困難な状況にある子どもたちが7300万人いるといわれます。そこで2011年から、子どもたちに学校給食を届ける取り組みを始め、これまでに4500万食以上を提供してきました。2024年からは「マリーズ ミール」という国際的な慈善団体とパートナーシップを結んでいます。
このプログラムでは、1万円(税別)以上お買い上げの方にオリジナルのトートバッグまたはポーチを1点お渡しするごとに、クラランスはマリーズ ミールを通じて給食10食分を支援します。この取り組みはグローバルで展開し、日本では2025年7月4日から実施しています(トートバッグとポーチがなくなり次第終了)。

オリジナルデザインのトートバッグとポーチの素材は自然由来のもの。
高井 バッグやポーチに描かれた「10」は現地に届けられる給食の数なんですね。数字をあしらったデザインが素敵ですし、自分の買い物が子どもたちへの給食の提供につながっているという実感がもてます。
小山 ありがとうございます。製品の話でいうと、クラランス製品はローションもクリームも、ラインを問わず形状がまったく同じ。素材も、デザインの段階からリサイクルや再生可能なものを優先的に採用し、2025年度中にパッケージを100%リサイクル可能にするという目標を設定しています。
詰め替え用リフィルの対応も進めていて、先日もクリームとアイケア製品それぞれで初のリフィルタイプを導入しました。将来的にはすべての製品に導入したいと思っています。
高井 どの製品デザインもシンプルでありながら美しいですよね。毎日触れるものだからこそ、それ自体の美しさや、環境問題に貢献しているという実感が、セルフケアの時間を大事にする気持ちにもつながると感じます。
小山 そのご指摘はまさに私たちのパッケージングの美学とも重なるところです。

(写真左から)ファーミング EX ナイト クリーム N オールスキン 50ml ¥15400、ファーミング EX クリーム オールスキン リフィル 50ml ¥11880、同クリーム 50ml ¥14850、トータル アイ インテンス N 15ml ¥12760、同リフィル 15ml ¥10120/すべてクラランス
世界中のクラランス社員が、アプリを使用して楽しみながら研究に貢献

小山 そしてもうひとつ、グローバルで重点的に継続している活動に、リウマチ性疾患分野の民間財政支援団体「関節炎財団」を支援する「Feet Week by Arthritis」があります。関節炎(リウマチ性疾患)は強い痛みを伴うものですが、実は原因がわかっておらず、対処法も限られているのだそうです。
この取り組みでは、全社員が2ユーロを「関節炎財団」に寄付すると専用アプリにログインできるようになっていて、そのアプリを使ってみんなで歩数を競い合います。
2024年には2万2000ユーロ以上の寄付が集まり、そのすべてが関節炎の研究費用にあてられます。リアルタイムで全員の歩数や自分のチームの順位が公開されるので、すごく盛り上がりますね。ボディオイルの「トニック」と「リラックス」の売り上げごとに関節炎研究支援に寄付する「クルタン関節炎基金」も実施しています。
高井 楽しそう! 集英社でもそういった全社員が参加するものがあればいいのに(笑)。日本のクラランス独自の取り組みもあるんですか?
小山 日本では、従業員のエンゲージメント向上の一環として、今年から「ふくひま(福島ひまわり里親プロジェクト)」に参加しています。
私たちがひまわりの種を注文すると、福島の福祉作業所で梱包・発送作業の雇用が生まれ、私たちが育てたひまわりの種を再び福島に送ると、復興のシンボルとして福島でひまわりが育って開花し、その種を再び販売したり、福祉作業所で種から油をとって福島県を走るバスの燃料にしたりするという循環型の取り組みなんですよ。
全国48店舗あるカウンターのスタッフにも参加してもらい、チームを組んでひまわりの成長を楽しんでいます。
“世界の優れた企業”ではなく、“世界にとって優れた企業”になりたい
高井 ひまわりの成長を見ながら会話が生まれますし、本社とカウンターの方たちとのコミュニケーションにもつながりますね。クラランスのゆるぎない企業姿勢が、すべての活動の根源にあると感じます。
小山 ありがとうございます。クラランスの3代目であるヴィルジニー・クルタン・クラランスも「私たちはポジティブカンパニーになろうと思っています。発することも、地球環境にとっても、地域コミュニティにとっても、従業員にとっても、ポジティブインパクトのある会社になりたい」と語っていて、私たちもその姿勢に心から共鳴しています。
私たちは“世界の優れた企業”を目指してるわけではなく、“世界にとって優れた企業”になりたいと考えています。若い世代の方たちとお話をすると、社会や自然環境など本当にさまざまなことを真剣に考えているので、彼女らや彼らの声に応えていかなければと思いますね。
取材を終えて…
10代の頃、旅先でクラランスの「オー ディナミザント トリートメントフレグランス」に出合って人生が変わりました(本当です)。こんなにも美しいボトルと香り、テクスチャー(当時はこんな言葉も知りませんでしたが)があるんだ、という衝撃の日から、ファン歴は30年以上。
今回の取材で、企業理念を貫きながらもポジティブに進化していくクラランスをより深く知ることができました。あの出合いの日の衝撃は偶然ではなく、すべての想いがひとつの製品に込められているからこそ。改めて、一生推させていただきます!(高井)

撮影/露木聡子 画像デザイン/齋藤春香 構成・取材・文/国分美由紀 企画/高井佳子(yoi)