韓国料理とたどる母の記憶。Japanese Breakfastのミシェル・ザウナー著書『Hマートで泣きながら』が日本で待望の出版!_1

『Hマートで泣きながら』著者:ミシェル・ザウナー 訳者:雨海弘美 ¥2200/集英社

yoiにも登場してくれたJapanese Breakfastこと、ミシェル・ザウナーのベストセラー本『Hマートで泣きながら(Crying in H Mart)』が日本で出版されました! 筆者はJapanese Breakfastの音楽が大好きで、ファッション含めて存在自体のファンであり、アメリカで出版された原書もすでに購入して読んでいたほど。しかし、きっと彼女のことをまったく知らなかったとしても、本を開いて冒頭の数行で泣いてしまった事実は変わらなかったと思います。今回はそんな、世界中で感動を巻き起こし、映画化も決定しているミシェル・ザウナーの初エッセイ本をご紹介。もし、まだ彼女のことをあまり知らないという方は、ぜひyoiのインタビューも読んでみてくださいね。

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いちばん上が『Hマートで泣きながら』、そしてその下にはアメリカで購入した『Crying in H Mart』。この2冊が並んで感無量!

前述の通り、本作はミシェル・ザウナー自身のパーソナルな経験や生い立ちを記したエッセイ本。韓国ソウルで生まれ、アメリカのオレゴン州でアメリカ人の父と韓国人の母のもとに育ったミシェルは、多感な10代の頃を音楽への情熱とアイデンティティの揺らぎとともに過ごしました。今では「自身がアジアにルーツを持つ人間だということを自覚しているし、アジアカルチャーの盛り上がりをグレートなことだと思っている」とyoiのインタビューでも語っていた彼女ですが、当時はさまざまな葛藤を抱えていたことが本書からもわかります。

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そして、帯にもあるように、ミシェルが音楽にのめり込むことに猛反対し、険悪な関係となってしまった母親は、やっとそのわだかまりがとけてきた頃に病気が発覚。つらい闘病生活が始まります。その後、母を亡くしたミシェルの大きな喪失感は、本書の執筆につながるとともに彼女の音楽にも大きな影響を与えました。実際に、Japanese Breakfastのライブでは、バックモニターに母親の写真が映し出される演出もされるなど、彼女にとって母親の存在がいかに大きいかがあらゆる表現活動において垣間見えます。

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そんな母親を失った喪失感からチャプターが始まる本作。タイトルの「Hマート」とは、アジアの食材を専門に扱うスーパーマーケットのことで、冒頭からあらゆる食材や料理の名前が続きます。「母は料理で愛情を表現する人だった」というように、食の話が続くのは、執筆しながら彼女が母親との記憶をたどっているから。読みはじめから涙は出るわ、お腹はすいてくるわで、読んでいるこちらも感情が大忙し。韓国語が流暢ではないミシェルは、言葉ではなく“味の記憶”で母親から受け継いだルーツを生きている。日本でも長年流行しているいろんな韓国フードが出てくるのも、この作品の魅力です。

誰しもが経験する「喪失」、そしてそこから始まる「再生」への道。ミシェル・ザウナーの飾らない言葉でつむがれた本作を、寝る前ではなく夕食前や休日のランチ前に少しお腹をすかせて読む(読み進めたあと、きっと韓国料理を食べに行きたくなるから…!)のが個人的におすすめです。




Michelle Zauner(ミシェル・ザウナー)

ソロプロジェクト、Japanese Breakfast(ジャパニーズ・ブレックファスト)の名でミュージシャンや文筆家として活動。韓国人の母親とアメリカ人の父親のもと、アメリカのオレゴン州で育つ。2021年にリリースしたアルバム「Jubilee」は第64回グラミー賞で主要4部門も含む2部門でノミネート。母親の死を経て自身のアイデンティティを見つめ執筆した回顧録『Crying in H Mart』を出版し、同作は『New York Times』のベスト・セラー・リストに51週にわたってランクインし、映画化も決定。米『Time』誌の2022年「最も影響力のある100人」に選出。https://linktr.ee/JapaneseBreakfast

写真・文/高戸映里奈(yoi)