今週のエンパワメントワード「間違った望みなんかじゃない 相手が必要とするすべてをあげたいと思うのは」ー『Who We Love』より_1

Gloria』Sam Smith¥2860/ユニバーサル ミュージック
作詞・作曲:Sam Smith, Steve Mac, Ed Sheeran, Johnny McDaid, Fred Gibson, James Napier
対訳:今井スミ(Sumi Imai)

 

誰もが自由に「愛する権利」を持っている

10代の頃、大切な友人がカミングアウトをしてくれて、恋愛相談を受けたことがあった。そのときの自分の言動を振り返ると、友人の心に寄り添うような言葉をかけることができなかったように思う。もし今、思いのままに誰かを愛せずに苦しんでいる人がいたら、Ed Sheeran(エド・シーラン)が、Sam Smith(サム・スミス)のために書いた『Who We Love』に込めたメッセージを届けたい。

甘美でソウルフルな歌声と、人間の弱さや多様な愛の形を歌った楽曲で支持される、ロンドン出身のシンガーソングライター、サム・スミス。2012年にディスクロージャーのシングル『Latch』に客演して注目を集め、グラミー賞を受賞したデビューアルバム『In The Lonely Hour』(2014)で大ブレイクを果たした。この作品に収録された代表曲『Stay With Me』のように、当時のサムの楽曲は、心の痛みを歌い上げるソウルフルなバラードが多くを占めていた。また、2017年に発表したアルバム『The Thrill Of It All』も、バラードやミディアムナンバーの曲のみで構成。失恋の痛みがつづられた楽曲は、世界中のリスナーの心を掴んだ。

サムは、2014年にゲイであることをカミングアウトして以降、自分の心や性に向き合いつづけ、段階的にジェンダーアイデンティティーを変えてきた。2019年には、女性でも男性でもないノンバイナリーであることを公表し、現在、代名詞は「they/them」を使用している。そうしてキャリアを重ねると同時に、少しずつ自分らしさを獲得、解放していったサムの最新作『Gloria』(2023)は、これまで発表したアルバムとはまったく異なるムードが漂い、自由と歓喜に満ちあふれている。メガヒットしている収録曲『Unholy』は、トランスジェンダーであることを公言しているドイツ人アーティスト、キム・ペトラスを迎えたパワフルなナンバー。男女二元論を前提とした社会を打破するエネルギーを持った楽曲は、2月に開催されたグラミー賞やThe BRIT Awardsでのパフォーマンスも話題を呼んだ。

Sam Smith, Ed Sheeran - Who We Love (Lyric Video)


そんなアルバムのラストを飾る曲が、サムの長年の友人であるポップスター、エド・シーランがサムに贈った、普遍的な愛を歌う『Who We Love』だ。サムはこの曲を聴いたときのことについて、Apple Musicのインタビューで、「クィアバラードのアンセムを友達が書いてくれたような感じがした。すごく心に迫る、美しいところがある曲だった」と語っている。

サビで二人は、〈間違った望みなんかじゃない 相手が必要とするすべてをあげたいと思うのは〉と歌い上げる。そして、〈それは逃れることの出来ない感情 人は大切に想う相手を愛するものだから〉と続け、相手がどんな人であっても、誰かを愛おしいと想うその気持ちに間違いなどない、とありのままの感情を肯定してくれる。

セクシャルマイノリティーの人をはじめ、私たちが生きる社会には、いまだ誰かを愛する気持ちにフタすることを強いられている人が大勢いるのが現状だ。もし、そういった人が身近にいて苦しんでいたら、この曲のメッセージを伝えてみてはどうだろうか。自然と湧き出る感情を認めてくれる存在が、その人の力になるかもしれないから。

Sam Smithの『Gloria』を聴いて、本当の自分を解放しよう

文/海渡理恵 編集/国分美由紀