アリシア・キーズ『ALICIA』ジャケット写真

『ALICIA』Alicia Keys¥2640/ソニー・ミュージックレーベルズ

作詞&作曲:Alicia Keys、Johnny McDaid、Ed Sheeran、Foy Vance、Jonny Coffer、Amy Wadge
和訳担当:武居創

アリシア・キーズが贈る“挑戦者たちへの賛歌”に鼓動が高まる

今、自分が進んでいる道が、正しい道なのかと心が揺らいだとき。大きな孤独に襲われたとき。失敗をおそれて前に進めないとき。困難に打ち負かされそうになったときは、世界中からリスペクトされるアーティスト、アリシア・キーズの『Underdog』を。バイタリティあふれる一曲が、私たちにひと筋の光を見せてくれる。

卓越したシンガーソングライターであり、慈善活動家でもあるアリシア・キーズ(名前には、ピアノの“キー”と扉を開ける“鍵”という意味が込められている)。本名アリシア・アウジェッロ・クックは、ドラッグや売春が横行していたN.Y.のヘルズキッチンで、シングルマザーの母に育てられた。混沌とした環境の中で、ピアノに出合い、導かれるようにして音楽の世界へと足を踏み入れた彼女は、2001年に『Songs In A Minor』で鮮烈なデビューを飾る。長いキャリアを通して、これまでにグラミー賞は15冠。さらに2019年と2020年には、同賞の司会を務めた。ミシェル・オバマ、レディー・ガガ、ジェニファー・ロペス、ジェイダ・ピンケット・スミスとともに女性の権限を訴えた、2019年の授賞式のオープニングスピーチ。さらには、2020年の授賞式参加者の紹介をすると同時に、社会の多様性を訴えた、ルイス・キャパルディの『Someone You Loved』の替え歌は、アリシアが唯一無二の存在に到達したアーティストであることを証明するひとコマだった。

2020年のグラミー賞のオープニングにて。
パフォーマンスの最後に、「すべての挑戦者たち(Underdogs)に、音楽は愛だと教えてあげる」とソウルフルに歌い上げるシーンには胸が熱くなる。

授賞式での振る舞いからもわかるように、アリシアは、熱心なアクティビストとしても知られている。自分に正直に生きようというメッセージが込められた「#No Makeup」Movement(2016年)をSNSを中心に始めたり、2018年には、音楽業界で働く女性の地位向上を目指した活動「She Is The Music」を開始したり。ほかにも貧困や人種差別の根絶、エイズ撲滅など、あらゆる社会問題をよい方向へと導くために、具体的なアクションを起こし続けている。昨年、新型コロナウイルスが蔓延し、世界中に重たい空気が流れはじめたときも数々のチャリティ番組に出演し、音楽を通して世界中の人々を励まし、愛で満たしていた。

そんな彼女が、昨年リリースしたセルフタイトルアルバム『ALICIA』は、アリシア自身も「自身のあらゆる側面をさらけ出した作品」と語るように、彼女の喜び、愛、怒り、強さ、もろさが色濃く描かれている。最前線で闘う“影のヒーローたち”へ捧げるバラード『Good Job』。警察の暴力により子どもを亡くした母親の視点を歌った、“Black Lives Matter”ムーブメントへのトリビュートソング『Perfect Way To Die』。“自分を抑えずに、好きなように生きていく”と宣言する『So Done ft.Khalid』。そして、今月の一曲などが収録されている。

Alicia Keys - Underdog (Japanese Lyric Video)

大地を揺さぶるような足をふみ鳴らす音、クラップ音が印象的な『Underdog』は、アリシアが挑戦者たちに贈る賛歌だ。街角でしのぎを削るハスラー、若い教師、医者の卵、最前線で奮闘する若者…。すべての挑戦者たちを、魂に重く深く響いてくるサウンドと歌声で鼓舞する。功績だけを追うと、まるでスポットライトの下しか歩いてこなかったように思うほど輝いて見える彼女の人生だが、彼女もキャリアを積む過程で、あらゆる困難に幾度となく直面し、そのたびに立ち上がってきた。そんなアリシアが最もお気に入りだと語る、〈わたしは型を破るようにできているの〉というリリック。このフレーズを耳にするたびに、現状を打破し、自由に、自分らしく生きるためのエネルギーが、体の底からふつふつと湧いてくるのを感じるはず。

Trusting The Process: Grammys 2020
司会を務めた2020年のグラミー賞授賞式で、『Underdog』をパフォーマンスしたアリシア・キーズ。本動画の冒頭には、エネルギーに満ちあふれるリハーサル現場の様子を収録。

セルフタイトルアルバム『ALICIA』をチェック!

文/海渡理恵 編集/国分美由紀