今週のエンパワメントワード「最高の話し相手が当たり前に近くにいる、とてもありがたいことです。」
ー『阿佐ヶ谷姉妹の のほほんふたり暮らし』より_1

阿佐ヶ谷姉妹の のほほんふたり暮らし』阿佐ヶ谷姉妹 ¥660/幻冬舎文庫

“違い”を楽しむ似た者同士。ふたり暮らしの奥深さ

こんな姉妹がいることを、私はよく知っている。
『阿佐ヶ谷姉妹の のほほんふたり暮らし』を読みながら、彼女たちのことを思い出していた。下北沢に住む“姉妹”について、少しだけ話をしたい。


ふたりは幼なじみだった。高校を卒業すると、田舎から東京に出てきて、下北沢に1DKの部屋を借りて一緒に暮らしはじめた。
狭いアパートにそれぞれの部屋はなく、生活空間には常にふたりの持ち物がいっしょくたにされていた。誰かの忘れものがその中に混じることもよくあった。人が集まる場所だったのだ。私もその一人だった。彼女たちより4歳下の私を、ふたりは末妹のように可愛がってくれていた。


東京を生きることを始めたばかりの当時、彼女たちが作った新しい家族のかたちには、ずいぶん助けられた。ただそこに居てふたりの会話を聞いているだけで、心が安らぐのだから不思議だった。


40代、独身、女芸人ふたりの6畳1間の同居生活。
『阿佐ヶ谷姉妹の のほほんふたり暮らし』は、リレー形式で綴られる、阿佐ヶ谷密着型のエッセイ集だ。
性格が犬タイプで寂しがり屋、スーパーはイトーヨーカドー推しの姉・エリコさんと、推しは西友、猫タイプでのんびり屋、時々“みほシャットダウン”が必要な妹・ミホさん。
夏生まれと冬生まれのエアコン設定温度戦争、布団の陣地取り、互いの評価点の格差。“姉妹”になった鰻屋の思い出、同居のいきさつ、老後の夢、人情あふれるご近所づき合い…。


時々の小競り合いや、個々のタイプの違いはあるけれど、似通ったところや共通点をすり合わせて共生する日々が、まるで隣の部屋から漏れ聞こえてくるような音量で語られる。その声音が心地よく、いつまでも聞いていたいと思った。読むというよりも、「聞く」と表したくなる読書体験だった。


〈最高の話し相手が当たり前に近くにいる、とてもありがたいことです。〉
ミホさんが居てくれることに対して、エリコさんはこのように綴る。
至極真っ当のことであるし、そんな相手を得ることが、どれだけ稀有であるかも身を持って理解できる。いまだ独身、ひとり暮らしの私には、当たり前に近くにいる人がいない。
けれど、阿佐ヶ谷姉妹のエッセイに感じた声音のよさを、私の耳はよく知っている。


下北沢の姉妹と出会って20年がたつ。
その間、それぞれに結婚していた時期もあったが、現在は、共にシングルマザーとして娘を育てながら働いている。
数年前、ひとりの住むマンションの隣の部屋に空きが出たことをきっかけに、もうひとりがそこに越してきた。場所は変わらず下北沢。いまでは職場も一緒。まさに現在の阿佐ヶ谷姉妹スタイルだ。


気まぐれな末妹のように、時折ふたりのもとを訪ねる私を、彼女たちは決まって「おかえり」と迎える。聞いてほしい話があるわけではないことは、とうにバレている。

木村綾子

木村綾子

1980年生まれ。中央大学大学院にて太宰治を研究。10代から雑誌の読者モデルとして活躍、2005年よりタレント活動開始。文筆業の他、ブックディレクション、イベントプランナーとして数々のプロジェクトを手がける。2021年8月より「COTOGOTOBOOKS(コトゴトブックス)」をスタート。

文/木村綾子 編集/国分美由紀

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