性格や年齢を問わず、誰でもなりうる可能性がある「インポスター症候群」。後編では、具体的な4つのお悩みについて、臨床心理師の小高千枝さんにアドバイスをいただきました。

お話を伺ったのは…
小高千枝

公認心理師

小高千枝

小高千枝メンタルヘルスケア&マネジメントサロン代表。カウンセリングオフィスでの臨床をはじめ、企業顧問として従事。女性の自立と自律の支援活動に注力し、子育て、うつ、人間関係、コンプレックスの克服、ライフデザインなどの講演も行う。ユーキャン『心理カウンセリング講座』監修。著書に『本当の自分を見失いかけている人に知ってほしい インポスター症候群』(法研)

お悩み① 仕事でリーダーになることが怖い

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同僚や先輩、上司から、新しいプロジェクトの責任者に推薦され、「君なら大丈夫」と背中を押されましたが、自分にその力があるとは思えません。もし失敗したらどうなるのか、本当に自分に責任者が務まるのか…など毎日考えすぎてストレスを感じます。誰に相談すればいいのかもわからず不安で、できれば辞退したいと考えてしまいます。

小高さん そもそも、「責任者は弱音を吐いてはいけない」「すべての知識を持っていなければいけない」といった、“責任者=完璧”という考え方を持ってしまっている人が多いように感じます。力不足や勉強不足、そして「失敗したくない」という思いは誰にでもあるもの。優雅な姿の白鳥も水面の下では必死に水掻きをしているように、自信満々に見せているケースも多いのです。

そして、今は協働や連携が大切な時代。自分一人で完璧にこなそうとするのではなく、他のチームメンバーと一緒に学んでいく姿勢もポイントだと思います。責任者としてまわりの状況を見ながら、実務は得意な人に任せたり、教えてもらったりすることで、それぞれのモチベーションが上がり、自分の知識も増えるので一石二鳥です。敬意や感謝の気持ちを持ちながら、お互いに成長できる、風通しのいいチームとしてやっていけるはずです。

お悩み② SNSでキラキラした面だけを見せている自分は、嘘つきだと思う

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何気なく始めたSNSの投稿で「いいね」をもらえることがうれしく、日常のいろいろな内容をアップするようになりました。ところが、だんだん「いいねがつかなかったらどうしよう」と気になってしまい、写真や文章を必死で考えるようになりました。落ち込んでいるときも、それを隠して楽しい内容やキラキラした写真をアップしている自分がいます。そこに「いいね」をもらっても「本当の自分じゃない」という後ろめたさを感じます。つらいけれど、SNSから離れる勇気も持てません。

小高さん この方は、「SNSから離れる勇気が持てないこと」や、「無理して投稿する自分がいること」に気づけていますよね。これは素晴らしいことだと思います。ついネガティブなことにフォーカスしてしまいがちですが、客観視できている自分がいることをまず認めてあげてください。

ただ、「SNSに投稿しなきゃいけない」と自分に“指令”を出しているときは、ストレスがかかっているサインです。少し視点を変えて、本当にやらなければいけないことなのか、自分がどうしたいのかを考えてみましょう。いきなり100%離れると、そのストレスから他のことに依存してしまう可能性があるので、できる範囲で少しずつ距離をとることを心がけてください。「楽しいと感じたときに投稿する」「気がのらないときは投稿しない」など、自分なりの基準を設けてみるのもいいですね。それが習慣になると、ストレスのないペースが保てるようになります。

もちろん気持ちには波があるので、再び同じような状況に陥るかもしれません。けれど、一度コントロールできた経験があれば、「あのときは距離をおけたから大丈夫」と自分の本質を理解できているので、何度でもリセットできるはずです。

お悩み③ 褒められると「裏があるのでは…」と感じる

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親やきょうだいから外見や考え方を否定されることが多かったので、自分のいいところや価値を感じられずにいます。そのせいか、まわりの人に褒められても「気を遣ってくれているんだろうな」と感じるし、好意的なことを言われても「裏があるのでは?」と考えてしまいます。どうしても自分のいいところがわかりません。

小高さん この方の場合、ご家族から否定されて育ったことが、ご自身の基礎的な性格の一側面を形成しているため、無理矢理自分を変えようとすることは、かえってストレスになってしまいます。「私ってダメなのかな…」と落ち込むのではなく、「自己肯定感のデフォルトがちょっと低いだけ」と考えてみてください。ネガティブ=悪いことではないので、まずはそんな自分を受け入れることが大事かなと思います。

自分にとって楽しいこと、うれしいことを書き出したり、1日や1週間の中でどんな気持ちの浮き沈みがあったかを曲線グラフのように図で描いたりしてみると心の状態が可視化され、腑に落ちやすくなります。一般論は横において、自分の価値観を再確認してみましょう。「まわりの人と同じようにしなきゃいけない」と思う必要はありません。

お悩み④ 年上の部下に仕事の成果を妬まれそうで心配

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私の職場は年次に関係なく昇進する機会があり、自分より年上の部下が何人かいる状況です。最近、大きなプロジェクトのリーダーに任命され、褒められることもあったのですが、「妬まれたらどうしよう」「嫌われたら嫌だな」と考えると、“うれしい”よりも“怖い”が勝ってしまいます。どのような考え方、心持ちでいたらよいでしょうか。

小高さん そういうときに妬みや嫌味を言われそうな相手の目星はつくと思うので、その人との距離感をまずは意識すること。自分を妬む相手と1対1で向き合うと、心が蝕まれ、負のサイクルが起きるだけなので、要注意。その人との関係以外のところで、自分の“味方”をつくっていくことが大事だと思います。

客観的に判断してくれる社内の人や、事情を理解してくれる社外の人など、安心して相談できる居心地のいい環境をつくっておくと、いざというときの逃げ場になって心の安らぎを保てます。

大切なのは、本当に心が疲弊してからではなく、元気なときにいざというときの環境を整えておくこと。特にインポスター症候群になりやすい人は「相談するのが申し訳ない」と気を遣ってしまい、余計につらさを抱えやすいので、普段から誰かに頼れる環境、どんなときでもお互いを受け止め合える関係性を築いておいてほしいと思います。

構成・取材・文/国分美由紀 企画/種谷美波(yoi)