「Stories of A to Z」のタイトルカリグラフィー

結婚して、パートナーとライフプランについて相談しはじめたBさん。前編では、月花先生から「妊活は、日常の延長線上にあるもの」と聞いて、モヤモヤした気持ちが少し落ち着いたよう。後編では、日々感じている不安や戸惑いを打ち明けます。

Story2 キャリアと妊娠の間で揺れるBさん

今月の相談相手は……
月花瑶子先生

産婦人科医

月花瑶子先生

産婦人科専門医として不妊治療専門クリニック「杉山産婦人科 新宿」にて生殖医療に従事。産婦人科領域で事業展開するヘルスアンドライツのメディカルアドバイザーを務める。共著書に『やさしく正しい 妊活大事典』(プレジデント社)、監修アプリに「相談できる生理管理アプリ ケアミー」がある。

いちばん大切なのは、自分がハッピーでいられること

20代後半、妊活を本格的にはじめる前にできることって? 「Stories of A to Z」Story2【後編】_2

Bさん 最近、ますます仕事が面白くなってきて、“妊活はもう少し仕事を頑張ってから”と思うようになりました。でも、妊活に前向きな彼の気持ちに水をさすような気がして、話すのが怖いんです。

月花先生 妊活や出産はどうしても女性のほうが物理的に時間も体力も使うので、キャリアに大きな影響が出ますよね。実は「パートナーとしっかり話せない、温度差がある」という相談は思ったより多いんです。私の場合、普段から妊娠した先輩や同期の話を夫にシェアしながら、“自分たちならどうするか”を話すようにしていました。

Bさん 確かに、自分たちに置き換えることで「私はこうしたい」って意思を伝えやすくなりますね。私は出産後も働きたいので、子育てに関しては実家の母の手を借りるつもりでいたら、「支えてあげたいけど、年齢的にいつまで私の体力が持つか不安。できれば早いうちに…」と言われまして。親の年齢を考えると、あんまり先延ばしにはできないな、という焦りもあります。さらに、医療従事者の妹にも「妊娠するなら1日でも早いほうがいいよ」とアドバイスされたんです。夫、母、妹...みんなのアドバイスや気持ちが理解できる分、私が流れを止めてしまっている罪悪感があって。

月花先生 いろんなプレッシャーがあると思いますが、いちばん大切なのはBさんご自身がハッピーで元気でいられることではないでしょうか。妊娠や出産はゴールではありません。自分のためにも、家族のためにも、Bさんが納得できるタイミングがベストだと思います。私もライフプランに悩んだときは、仕事へのモチベーションが近い友人と、今後のキャリアについて相談し合うようにしています。理想の将来像が近い人と話すことで落ち着いて計画を立てることができたり、目指すべき方向性が見えることもありますから。「妊活」という言葉を重く受け止めすぎず、まずはBさんの気持ちを優先したうえで、まわりの方とよく話をしていくことが大事かもしれません。

Bさん 先生の言う通り、まずは自分の気持ちが大切ですよね…だって私の人生だから。実は、子どもが欲しいという気持ちは確かでも、そもそも妊娠の過程で自分の体に起きる変化を想像すると、正直、怖いんです。こんなふうに感じる私って変ですか?

月花先生 変だなんて思う必要はありません。産婦人科医の私でも、妊娠したときに自分が直面するあらゆることに不安がありました。同じ職場で働くいつも元気な先輩が、妊娠中にとてもつらそうな様子だったり、すっかり痩せてしまったりしたのを見ていましたし。実際、つわりなどの不調は個人差があるので、妊娠してみなければわからない。“自分の場合はこうだろう”とは予測できないんです。つわりの個人差は原因がわかっておらず、遺伝も関係ありません。今は調べればわかることが多い時代なので、“わからないこと”に不安を感じやすいのかもしれませんね。

自分たちの心や体に向き合うことからはじめてみる

20代後半、妊活を本格的にはじめる前にできることって? 「Stories of A to Z」Story2【後編】_3

Bさん 月花先生は、どうやって不安を解消したんですか?

月花先生 同じ職場で出産を経験した人に、とにかくつぶさに経験談を聞くようにしていました。例えば、妊娠中の体の変化にどう対処しながら働いていたか、会社に提出する必要書類、上司や先輩に報告したときの反応、出産前にそろえておくべきもの…。ネットの情報は一般論かつ専門的なことが多いので、自分と同じシチュエーションで働いている先輩の具体的な話を聞くほうが不安もぬぐえるし、「これなら自分にもできそう!」と思えるかもしれませんよ。

Bさん 妊娠や出産ってすごくプライベートなことだから、あれこれ聞くのは嫌がられるかなと思っていました。

月花先生 もちろんお互いの関係性にもよるとは思いますが、経験者の立場からいうと、誰かの役に立つなら自分の経験をシェアしたいという気持ちを持っている人は多いと思います。同じ職場で働く女性として、これから出産する人を応援したいという気持ちもあるはず。ただ、産休や育休で周囲に迷惑をかけたと負い目を感じていたり、苦労話と思われるのを気にして、自分からはなかなか話しづらい人もいます。私は頼れる先輩を見つけて、LINEなどテキストメッセージでもよく相談していました。「つわりがつらいんですけど、先輩はどうしてましたか?」とか。

Bさん なるほど。今度先輩に聞いてみようかな…。リアルな話を聞くことで具体的なイメージもつかめそうです。

月花先生 パートナーが妊活に前向きなら、まずは検査を提案してみてもよいかもしれません。男性なら精子の数や濃度、運動率、女性ならAMH (卵巣年齢)がわかる婦人科での検査メニューや市販の検査キットもあります。時期に迷いはあっても、検査を受けるぐらい真剣に考えていることも伝わるはず。仕事への思いをシェアしたり、検査するきっかけをつくったり、小さな点をつなげていくのがいいと思います。

Bさん 本格的な妊活の前にできることがあるんですね、調べてみます!

月花先生 とはいえ、ライフプランを立てた通りのタイミングで妊娠できるとは限らないので、考え込むだけでなく、ある程度は流れに身を任せる“Let it be(あるがままに)”の精神も必要です。そして同時に、相談しやすい婦人科を見つけたり、妊娠・出産の基礎知識がまとめられた本を読んでみるなど、自分たちの体を知るきっかけにつながるアクションをしてみることも大事だと思います。

Bさん きっと行動することで見えることもありますよね。先生に相談するうちに、漠然とした不安が消えた気がします。正しく知るって大事なんだなと感じました。

イラスト/naohiga 取材・文/国分美由紀 企画・編集/高戸映里奈(yoi)