連載『Stories of A to Z』。パートナーとの温度差に悩むRさん。不妊治療にまつわる気持ちを吐露できる相手が限られている上、じつはパートナーの言葉や態度にも不安を抱いているといいます。

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Story18 パートナーの共感や理解が感じられず、孤独を感じているRさん

今月の相談相手は……
永森咲希さん

不妊カウンセラー

永森咲希さん

国家資格キャリアコンサルタント、家族相談士、両立支援コーディネーター。一般社団法人MoLive(モリーブ)オフィス永森代表。大学卒業後、外資系企業と日系企業数社の経営や営業部門でキャリアを重ねる。6年間の不妊治療を経験し、仕事と治療の両立の難しさから離職するも、最終的には不妊治療をやめて子どもをあきらめた経験を持つ。その後2014年に自身の体験をまとめた『三色のキャラメル 不妊と向き合ったからこそわかったこと』(文芸社)を出版し、同時に一般社団法人MoLiveを設立。「子どもを願う想い・叶わなかった想いを支える」を信条に、不妊で悩む当事者を支援すると同時に、不妊を取り巻くさまざまな社会課題解決のため、教育機関・企業・医療機関といった社会と連携した活動に従事。令和3年厚生労働省主催「不妊治療を受けやすい休暇制度等導入支援セミナー」講師。現在、不妊治療専門医療機関にてカウンセリングおよび倫理委員も務める。

気持ちをシェアできる「わかち合いの会」を活用してみる

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永森さん Rさんはパートナー以外に不妊治療のことを話せる相手はいますか?

Rさん なかなかまわりに話せなくて、SNSで同じ状況の人を探して「私も頑張ろう」と考えるようにしてきました。母や妹もそのつど話を聞いてくれて、「頑張ったね」「つらかったね」と声をかけてくれますが、二人の前で泣いてしまうほど感情をさらけ出せたことはありません。「もっと頑張っている人がいるんだから、私はまだまだ」「結果的に産むことはできなかったけれど、私は2度妊娠することができた。でも、それすら叶わなかった人もいるんだから」と気持ちを抑えてしまうんです。

永森さん Rさんは、そう思うことで自分を納得させて感情に蓋をしているのかもしれませんね。こうしてご自身の状況をお話しされるときに涙を浮かべていらっしゃる姿を見ると、それだけ色々な感情が心の奥にたまっているのだと思います。「つらい思いを話していいんだ」と思える場所や相手があるだけで気持ちが軽くなることも多いので、カウンセリングや気持ちをシェアできる「わかち合いの会」などを活用してみてはいかがでしょう。

Rさん 「わかち合いの会」ってどんな会ですか?

永森さん 同じ立場にいる方々が集い、語り合える場です。不妊治療クリニックや自治体などが主催することもありますし、私が代表を務めるMoLive(モリーブ)でも「茶話会」として月に1回開催しています。不妊治療といっても段階や状況はそれぞれ違うので、MoLiveでは「妊活・不妊治療で悩む方々の会」「妊活・不妊治療からの卒業(やめ時)を考える会」「男性不妊で悩む方々の会」「卒業生の会」という4つのテーマで開催しています。

Rさん いきなり参加して話せるものでしょうか…。

永森さん もちろん無理に話さなくても構いません。ただ、参加者の皆さんをみていると、自分のことを話したり、相手の話を聞いたりするうちに、「自分だけじゃない」と感じて安心し、お互いの話に頷き合いながら、初めて会った人同士とは思えないほど共感しあえる一期一会の場になっています。「わかってもらえる」と感じられる場があるだけでも、気持ちはずいぶん違うと思います。

Rさん 私は、SNSを通じて同じ状況の人がたくさんいることを知ったけれど、そういう場所に参加したら、直接お話しすることができるんですね。調べてみようと思います。

将来のためにも、パートナーに“気づかせる”土台づくりを

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Rさん じつは彼の発言や態度を見ていると、もし出産するとなったときの妊娠中や産後の生活のことが心配になるんです。

永森さん 心配になるのは、例えばどんなときですか?

Rさん 生理痛がひどくて動けなかった日に「ご飯は炊いておくから、夕食のおかずだけ買ってきて」とメッセージを送ったら、買ってきたのは自分の分だけ。その理由を聞くと「つらくて食べられないか、もう食べたのかと思った」と言われて、そこから説明しなきゃいけないのか…と。

永森さん なるほど…それはカチンとくるでしょうね。男性の場合、残念ながらきちんと性教育を受けていないケースが多く、家庭で生理のつらさがオープンにされているか、女性のきょうだいがいるかといった生育環境も影響があると思います。ここまで話さなきゃいけないの⁉️と思われるかもしれませんが、「今は痛くてつらいけど、あとで食べられるかもしれないから」と伝えておかないと、本当にご本人は“わからない”ということがあるかもしれません。

Rさん 彼のお母さんは生理痛やPMSがまったくない人なので、きっと理解できていないんだろうなと。しんどくても頑張って料理をしていると、「動けている=大丈夫」と思うのか、ほとんど何もしないので、そのつど「腰が痛い」「動けない」とひたすら訴え続けて、だいぶ変わってきてはいるのですが…あなたが寝込めば私はつきっきりで看病するでしょ!って言いたくなります。

永森さん 日本男性はまだまだ知識が乏しい人が多い傾向にあるので、Rさんのおっしゃるとおり、そこを解決しておかないと、お子さんが生まれてからも大変だと思います。頭にくるし、馬鹿馬鹿しいと思うし、それこそ「なんで私が…」と言いたくなりますが、地道に繰り返し伝えながら習慣づけて、パートナーに“気づかせる”ことも大事なのかもしれませんね。将来の土台につながりますから。

Rさん 確かに言い続けることで最初よりいい方向に変わってきています。2回目の流産の後からは、「この薬って飲まなきゃいけないのかな?」と自分の意見を言ってくれるようになりました。私はずっと、その言葉が欲しかった…家族なんだから。

永森さん Rさんを心配し、気遣いながらも、どうしていいかわからなかったパートナーさんも、Rさんが何度も伝え続けたことで意識が変わったのだと思います。相手の気持ちや状況を“わかる”ということは本当に難しいことですが、だからこそ、上手に、ちゃんと伝えていくことが大切です。

Rさん 今まで、治療の話は彼が仕事から帰った夜にさらっと話すことが多かったけれど、彼の理解を深めるためにも、一緒に図書館で本を読んでみるとか、そういう時間をつくってみようかなと思っています。

永森さん 一緒に図書館へ行くのは、とてもいいと思います。二人のために、諦めないで行動してみることが未来をつくりますから。お二人のペースで進んでいってくださいね。

イラスト/naohiga 構成・取材・文/国分美由紀