セックスにまつわるモヤモヤについて、助産師兼性教育YouTuberのシオリーヌさんと考える連載『SAY(性)HELLO!』。今回は、現在小学校5年生と2年生の息子を持つ読者の花田さん(仮名)をお招きし、子育ての中で感じる性教育のお悩みについて聞きました。2回にわたって特集します。性教育の始め時は? セックスには気持ちよさが伴う、という“プレジャー面”の伝え方は…? シオリーヌさんと一緒に考えます。

シオリーヌさんがお花を持っているカット

子どもから「童貞」という言葉が…。性教育を意識したきっかけ

──花田さんは小5と小2の息子さんがいらっしゃるんですね。子育ての中で性教育の必要性を感じるのは、どんなときでしょうか?

花田 息子が生まれた頃から、夫とは「小学校高学年くらいになったら、避妊についてちゃんと教えたいね」とは話していました。将来、きちんとした知識を持って性に向き合ってほしい、という思いからです。ただ現時点で具体的に性教育の教材を与えたり、かしこまって説明したことはなくて…。ところが先日、息子たちが「僕たち童貞〜!」と言い出して驚いてしまいました。

シオリーヌ どこでその言葉を覚えてきたんですかね? 意味はわかっているのかな。

花田 深夜アニメを見て「童貞」という言葉を知り、言葉の意味を「彼女がいないこと」だと彼らなりに解釈したみたいです。まさか子ども向けのアニメでそんなキーワードが飛び出すとは思っていなかったのですが、思わぬところで情報を仕入れてくるものですね。性に関して間違った認識やイメージを植え付けないためにも、行為の意味や体の仕組みについて、きちんと教える必要性を感じています。

シオリーヌ 最近は、「家庭でも性教育に力を入れましょう」という風潮が強くなって、子どもが幼いうちから性教育に高い関心を持つ保護者も増えてきましたよね。一方で、親自身が性教育を受けてこなかったため、子どもが第二次性徴期を迎えたあたりで(男児では平均11歳半、女子では平均10歳頃)下ネタを言っている姿を見て、やっと性教育の必要性を感じる方もいらっしゃいます。親世代の間でも、意識にはグラデーションがあるのが現状ですね。

抽象的なイメージカット

性教育はいつから、どう始めるのがベスト?

花田 家庭内で性教育を始めるのは、いつ頃がベストなのでしょうか。

シオリーヌ 「何歳から始めましょう」と決まりがあるものではなく、それぞれのタイミングでできる形から触れていくのがよいのではないかと思っています。例えば「生理中だから、今日は一緒にお風呂に入れない」と伝えるとか、「プライベートゾーンは自分で洗おうね」と働きかけるなど、日常生活の中で話すきっかけとなるシチュエーションはたくさんあります。「正しい知識をかしこまったシチュエーションできちんと話さなくては」と気を張らなくても、大人の自然な振る舞いから子どもたちが学び取ってくれることもあると思うんです。日々の繰り返しの中で性について触れられるのは、家庭での性教育の強みですから。

一方で、ジェンダーに対する大人の無自覚な偏見が、毎日一緒に暮らす子どもたちに伝わってしまう可能性も。私たち大人が普段からジェンダーへのフラットな価値観を持って子どもの権利と向き合うことが、性教育にもつながっているんですよね。

公園を歩くシオリーヌさん

花田 私も息子たちが小さい頃、生理中に一緒にお風呂に入り「女の人は月に1回お尻のあたりから血が出るんだよ」と伝えていました。「痛くない? 大丈夫?」と心配していたので、「ケガではないけど、お腹が痛くなることもあるよ」と伝えました。そういう機会がないかぎり、経血を見たことがない男の子は多いかもしれないですよね。

シオリーヌ もちろん、自分の経血を見せるのに抵抗がある方もいると思います。その場合は、絵本などを使って体の状態を説明してもいいかもしれません。必ずしも子どもに対して自分の性をオープンにしなければならないわけではないので、すでにあるコンテンツも上手に活用していただけたらと思います。

「セックスは気持ちよさを伴う」という“プレジャー面”をどう教えるか

お花

花田 以前、夫と息子2人の家族4人で、性教育のワークショップに参加したことがあって。そのときは、子どもが産まれる仕組みや性行為についても学んだのですが、息子たちはそれが世間一般で耳にする「セックス」と同じだとは理解できていなかったみたいです。セックスは、“子どもをつくるため”だけでなく、“快楽が伴って、気持ちよくなるためにすることもある”というプレジャーの側面を息子たちにどう伝えるべきか、難しいなと思いますね。

シオリーヌ 保健の授業で習う「性行為」や「マスターベーション」と、友達との話題で出てきた「セックス」 や「オナニー」が同一のものだと知らない子どもたちは多くいるでしょうね。つい仕組みや安全面についてばかりがフォーカスされて、プレジャーの面は諸外国の性教育団体でも、これまであまり触れられてこなかった話題なんです。でも、“性的に満たされている状態”というのは、ウェルビーイングの観点でも本当はすごく重要だと、最近話題にされるようになってきました。

花田 今の義務教育では、具体的にどこまで教えてくれているのか…。

シオリーヌ 学習指導要領では、思春期に起こる体の変化(第二次性徴)についてや、それに伴い受精・妊娠が可能になることについては取り扱うこととしています。しかし“妊娠に至る経過については取り扱わないものとする”という、いわゆる「歯止め規定」があり、また今年10月には、今後もその「歯止め規定」を撤廃しない意向を、文部科学大臣が国会で答弁しました。具体的な受精の仕組みが保健の教科書に載っていないので、どこまで教えるかは先生次第なんです。結果として、子どもたちの環境によって性への認識にばらつきがあるのが現状です。

例えば、一部の偏った情報だけにふれていると、「セルフプレジャーやセックスはいやらしい、恥ずかしいもの」というネガティブイメージを持ってしまうかもしれないですよね。でも、生まれ持った体を、自分が望むように扱って快楽を得るのは心身ともに満たされる行為であって、恥ずかしく思わなくてもよいことなんです。生殖を目的とするだけでなく、コミュニケーションや愛情表現のためにセックスをすることもあれば、快楽を得るためのセックスもある。まずはセックスにはさまざまな側面があるという事実を伝えていくのはどうでしょうか? その場合は、快楽だけを求めて他人の権利を侵害してはいけない、と一緒に理解してもらうのも大切です!

ステレオタイプを埋め込まず、事実を説明していくこと

シオリーヌさん

花田 人間として性欲が芽生えるのは、おかしいことではないですもんね。ただ一方で、息子たちにそもそも性欲があるのか、性の対象が女性なのかもまだ決めつけてはいけないと思っています。男女の恋愛を前提として、性暴力や望まない妊娠の加害者になる可能性があると決めつけていいのかということにも悩んでしまって。

シオリーヌ これまでの性教育では、異性愛、生殖目的のセックスが前提とされることが多かったと思います。でも必ずしもそうではない。異性間以外でもセックスをするのはおかしいことではないし、性愛は恋愛の先にあるものとも限らない。だから、妊娠の仕組みを説明するときにはエモーショナルな部分を入れ込み過ぎず、事実として説明していくことが大事だと思っています。セックスの形は人によってさまざまだから、そこに個人的な価値観が反映されすぎないようにしたいですね。

花田 確かに、恋愛から妊娠までをひとつのストーリーとしてどう表現するかを念頭にイメージしていましたが、それだけで語り切れるものではないですし、いろいろな側面を淡々と話せばいいんですね!

シオリーヌ 「結婚をして、愛し合うと子どもが産まれるんだよ」と教える方は多いと思うのですが、結婚をしなくても子どもを産む方はいますし、さまざまなケースを想定したうえで話すことは大切だと思います。もちろん一つのケースとしてその家庭では「結婚して愛し合った結果、妊娠した」という事実を伝えることは何も問題ないと思いますが、それがすべてではないということもフラットに伝えることは必要なように感じます。実際、私の子どもは人工授精で授かりました。「あなたの命の始まり方はこうだけど、ほかにも人それぞれの方法があるんだよ」というのは将来、教えていきたいですね。

Conclusion
✔︎性教育を始める時期に正解はない。まずは毎日の生活の中で繰り返し触れていく
✔︎子どもをつくるため、コミュニケーションのため、気持ちよさのため…。セックスにはさまざまな側面があることをフラットに伝える
✔︎「愛情」や「命の尊さ」といった抽象的な表現に偏らず、事実を説明する

取材・文/平井莉生(FIUME Inc.) 撮影/REIKO MATSUNAGA 企画・編集/種谷美波(yoi)